地域の医療関係者をつなぐ
Meiji Seika ファルマに入社して2年目のMRの菊地直樹さん(25歳、東京薬科大学卒)は、朝7時ごろ起床すると、濃紺の愛用の手帳をまず開く。担当エリアは千葉県の松戸市と流山市の主に開業医で、定期訪問施設は約180軒に上る。手帳にはその日の面会などの予定、面会予定の先生との前回面会内容と今回話す内容が分かるようにあらかじめ整理してある。身だしなみに厳しい先生との面会には、前回とは異なるネクタイを選ぶなど、いつも以上に気をつかう。菊地さんの1日は、そんな慌ただしい朝から始まる。
手帳を鞄に詰め、向かったのは医薬品卸。8時半頃、担当MSから、菊地さんの担当医のインフルエンザワクチンの接種意向を尋ねられた。昨今は出荷調整中の後発医薬品に関する相談も少なくない。販促に注力している抗アレルギー剤の処方動向、他の競合薬の動き、医師の使い分けなどの互いの情報をやりとりする。
営業車に駆け込み、9時からの営業所会議にリモートで出席。この日は、各薬効領域のプロモーターから本社方針が伝えられた。
午前中は保険薬局に訪問するようにしている。6~7薬局を周った。
近隣医の処方傾向、競合薬の動きなどを情報交換。出荷調整中の後発品も話題に上る。菊地さんから代替できる可能性のある自社品を提案すると、処方医にも伝えてほしいと、薬剤師からやんわりと依頼を受けた。
この日は昼にクリニックで製品説明会を開いた。
待合室で医師、看護師らを前に新製品を説明。コロナ禍では感染対策も重要なテーマになった。医師に急用が入ることもままあるため、まずメッセージを先に伝えるのが菊地さん流。
これが終わると、ようやく昼食。営業車内で頬張る。お気に入りは、セブンイレブンの親子丼。午後のクリニック訪問で、クロージングなど重要な面会が控えている時は、地元有名店のかつ丼を腹に入れ、気合いを入れる。
診察が一段落する14時ごろからクリニック訪問。5施設ほど周る。
気にしていることは新製品の使用後に副作用らしき症状が出ていないか。些細と思われる症状でも丁寧に聞き取り、先回りして注意喚起できるよう心がけている。先の薬局薬剤師から依頼された出荷調整中の後発品の代替薬の検討も伝えた。院外処方のため、出荷調整中の薬剤を知らずに処方されることが多いからだ。
この日は18時から先輩が企画した講演会のサポートに入る。1月には、担当地域の医師を対象に菊地さん自身が企画した講演会も控える。
講演会のない日は、営業所に戻り内勤。面談内容などを日報にまとめ、個人的なタスク管理を愛用の手帳に書き込み、次回以降のストーリーを描く。
菊地さんがMRを志望したのは、治療薬でより多くの患者を助けたいという強い思いからだ。
「最初は薬局薬剤師志望だった。薬局実習で、たまたま当社の抗菌薬を小学生に調剤する機会があった。1週間後、小学生とその母親からお礼を言われた。これは嬉しかった。一方で、薬局に来る患者さんだけでなく、もっと多くの患者さんを助けたいとの思いが湧いた。MRになって、医師に情報提供し、その薬が処方されれば、もっと多くの患者さんを救える。そう考えて製薬企業に志望を変えた」
とは言え医師、薬剤師、MSなどとの関係づくりは途上だ。
「やはり初めのころは、互いに何を話してよいのかわからない。自社品の話をする前に、何より互いに話ができる間柄にならなければと考えている。そうやって信頼を少しずつ得て、初めて薬の話ができるようになり、本音の情報交換ができるようになる」
そう考えて名刺裏に一工夫した。車、競馬、ゲームと趣味を列記。愛車「マツダRX-7」の写真が目を引く。意外な趣味に話が弾むこともあった。
そんな関係づくりで印象に残っているのは、80代の医師のこと。
「新薬にはあまり関心を寄せない先生。お話をしているとその昔、大学教授だったことが分かった。学術的な話題には関心を寄せていただけるのではないかと考えて、構造式から特徴を説明したり、論文をベースに説明させていただいたりした。先生にご採用いただき、処方した結果、患者さんから喜ばれた旨のお礼もいただいた」
「頑張って良かった」と振り返る。
最後に菊地さんからメッセージ。
「薬学部にいると、薬局・病院薬剤師しか進路が見えないと思う。しかし、薬剤師の進路は他にMR、公務員など多様。自分は何に貢献したいのか、その気持ちを大切にしてほしい」