【ヒト・シゴト・ライフスタイル】病院薬剤師の働き方を可視化‐業務改善促すシステム提供 pharmake代表取締役社長 田口恵実さん

2024年1月20日 (土)

薬学生新聞

田口恵実さん

 昨年6月に発足したpharmake(ファルメイク)で代表取締役社長を務める薬剤師の田口恵実さんは、病院薬剤師の働き方を可視化して課題を抽出し、働き方改革を促すシステムサービスを提供している。病院薬剤師がより対人業務に注力できる環境の実現を目指して起業。現在は3病院がシステムを導入しており、改善につながったケースも見られる。将来は、収集したデータを自動学習して職場ごとに最適な働き方を提案できる一気通貫のシステム開発も見据えている。

効率化や対人業務充実図る‐データ分析し改善策提案

 病院薬剤師は医療提供に不可欠な職種だが、慢性的な人員不足もあって、全国的に業務が逼迫している施設が見られる。対物業務に追われ、患者一人ひとりに十分な対人業務を実施できていないことに悩む薬剤師は少なくない。

 この課題を解決するため、田口さんはソフトウェア開発等を行うリファルケの副社長を務める平野浩司さんと共に昨年6月にpharmakeを立ち上げた。「病院薬剤師の新しい世界を創る」を使命に掲げ、業務オペレーション、タスクシフト支援を主な業務としている。

 病院薬剤師の働き方に関するデータを可視化するシステムサービスを開発し、提供している。薬剤師が実施した業務をタブレットに入力することで、システムがリアルタイムでデータを収集・分析する。職員の働き方を可視化することで改善すべき点を浮き彫りにし、薬剤部科長など現場責任者が改善に向けたアクションを取るまでの流れをサポートする。結果として、残業時間の削減、調剤業務など対物業務の効率化を実現させ、病棟業務の充実や生産性向上につなげることが狙いだ。

 田口さんは、「どこから手をつけたら良いか、分からずに悩んでいる人は多い。働き方改革のアプローチとして、今起きている事象をできる限り分解し、どこに課題があるか、効率化の余地があるかを特定することで、効果が期待できる打ち手を考えやすくなる。当社は病院ごとに収集したデータを分析し、課題を抽出、伴走しながら改善に向けて支援するサービスを提供している」と語る。

 最初の1カ月間は無料でトライアル可能。トライアルで収集したデータをもとに、想定される課題と改善施策案がレポーティングされ、取り組むべき改善テーマを決める。導入後は月次でフォローアップされ、成果を積み重ねて成長軌道に乗せる仕組みだ。

 起業から半年間で、愛知県碧南市の小林記念病院など3施設が導入した。現在は月1回のペースで各施設に課題を示し、改善に向けた取り組みをフォローアップしている。

 薬剤部科の責任者は職員を管理しつつ、自らも現場の最前線で従事する人が多いため、職員一人ひとりの働き方を詳細に把握することが難しく、課題がどこにあるのか見えづらい。

副社長の平野さん(左)と事業の打ち合せを進める

副社長の平野さん(左)と事業の打ち合せを進める

 実際にシステムを導入した施設では、新人薬剤師の薬剤ピッキングに時間がかかり過ぎていたことが浮き彫りになった。責任者が原因を調査した結果、新人薬剤師が自分の業務を早く終え、空いた時間にピッキングを行っていたことが分かった。中堅薬剤師も新人にいつから業務を任せて良いか迷っていた。

 業務を任せる基準を新設したことで、新人が担う業務が増えてピッキングの効率も上がり、時間が半減。新人の成長にもつながった。「職員の声は現場の責任者の方がよく知っている。改善に導くための思考を整理する手伝いをしている」と田口さんは語る。

 現在は田口さんと、副社長を務める平野さんの二人三脚で事業を軌道に乗せるための取り組みを進めている。システム開発は平野さんが経営するリファルケが担い、導入施設の声をシステム改善につなげている。

業務を行うワーキングスペース

業務を行うワーキングスペース

 今後の見通しについては、「システムを開発中だが、データを学習した上で最適な働き方を提案できる一気通貫のものを提供できれば良い。軌道に乗れば、次は質の面をサポートしたい。患者のもとに行きたいが服薬指導の経験に乏しくどうコミュニケーションを取れば良いか分からない人や、臨床業務に悩む人は多いので、この点を手伝いたい」と話す。

 田口さんと平野さんは、MBA(経営学修士)取得に向けて通っていた社会人大学院で出会い、起業にこぎ着けた。それぞれ担う分野は異なるが、「頑張る人を応援する」との同じ考えがあるからこそ、互いの分野を生かして共創できるという。

働き方の課題解決目指し起業‐病院薬剤師の存在意義高める

 祖父を薬剤の誤投与で亡くした経験から、高校生の頃から医療の道に進むことを志した田口さん。コミュニケーションを取ることが好きで、「1人でも多くの患者に1日でも早く最適な治療を届けたい」との想いから、2007年に大阪大学薬学部を卒業後、武田薬品に入社して臨床開発部で治験のプロジェクトマネジメントなどに携わった。その後も外資系製薬企業でメディカルアフェアーズやマーケティングに従事。「新薬が世に早く出て助かる患者がいることに大きなやりがいを感じていたが、現場の医療従事者が自己犠牲のもとに医療を成り立たせている現状に課題を感じるようになった」と振り返る。

 前職のヘルスケアベンチャーで、病院薬剤師の働き方に関する課題に直面した。「病院薬剤師から『チーム医療の一員として患者に寄り添い、貢献したいと入職したのに実際は目の前の対物業務に追われる日々で、患者のもとに行ける時間がなく、何のために病院薬剤師を志したのか』という声を多く聞いた。どこかの企業で解決につながる支援ができれば良いが、病院薬剤師の少なさから市場性がなく、働き方に関する理解も乏しいことから事業として行う企業がなかった。ならば自分がやるしかない」として、本格的に起業を考え始めた。

提供するサービスの画面

提供するサービスの画面

 起業にあたって製品、販路、資金のいずれもなく、特に資金調達の面で苦労が多かったという。病院薬剤師の働き方の実態に対する認知度の低さもあり、働き方改革への貢献を訴えても手を貸してくれる銀行は多くなかった。ただ、「だからこそ、病院薬剤師の存在意義を高めていく必要があると確信した。希望額を満額融資してもらった銀行には、地域医療に密着した働き方に対する熱い想いをサポートしたいと言ってもらえた」と明かす。

 日本でも、創薬分野などで学生による起業が珍しくなくなっている。起業に関心がある人には、「やりたいことがあるならおすすめする。ただ、起業を目的にしてほしくない。解決したい課題、志を実現する手段の一つとして起業を考えてもらえたら」との考えを示す。

 現役の薬学生に向けては、「当時は薬学部にこんなにも選択肢が多いとは考えていなかった。時間がある今だからこそ、様々なことに触れてほしい。将来の可能性を自分で潰さないでほしい」と話している。



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