【医学アカデミー薬学ゼミナール】個別最適化の実践を目指して

2024年11月15日 (金)

薬学生新聞

生物科目責任者 石塚 博康、薬理科目責任者 齋藤 篤、病態・薬物治療科目責任者 安澤 寛

 医療現場では薬剤師に、薬学の視点を「チーム医療」に反映する臨床能力、すなわち患者中心の視点から個別最適な薬物治療を実践する能力が求められます。2022年度改訂の薬学教育モデル・コア・カリキュラムでも「薬物治療の個別最適化」が学修項目に挙げられました。近年の薬剤師国家試験でも関連問題が多く出題され、この傾向は今後も継続すると予想されます。関連問題では、症例、症候、処方、検査値など多くの情報の中から、個々の患者に適した薬物治療を提供するために必要な情報を抽出する能力が求められます。今回は、最新の国試を基に「薬物治療の個別最適化」を学ぶ方法や関連する既出問題へのアプローチについて、薬学ゼミナールの科目責任者が紹介します(各問題の解答番号は問286、問287解説の最後に記載)

生物

 本問を正答するためには、まず、電話相談や医師から得た情報から患者に生じた薬物の副作用が「薬剤性パーキンソニズム」であると推測し、薬理の知識を基に原因薬物を予想します。また、同様の症状が「黒質から線条体への伝達経路の障害」により生じる可能性が高いことを「解剖・生理学の観点」から考察する必要があります。さらに、「黒質-線条体」が大脳基底核の一部であることを把握していなければ正答を導くことができません。これには、生物、薬理、病態・薬物治療など様々な科目の知識を横断的に学修することが大切になります。既出問題では、「黒質-線条体」と出題されていたため、広い視野で捉えられなかった受験生が多く、本問の正答率が低くなったと考えられます。

 学修する時にも、他科目への意識を持つことが非常に重要です。既出問題をベースに問題演習するだけでなく、本問のように同じ病変部位が違う表現で出題されることもあるため、他科目(薬理、病態・薬物治療など)の問題演習時に生物に関する用語が出題されていた際は、生物の青本を確認するなど、つながりを意識して学修しましょう。この意識を継続することで、「実践問題」のみでなく「必須・理論問題」に対応できる知識が身に付きます。また、生物の範囲では「解剖・生理学」は国試出題数が多く、薬理、病態・薬物治療を考える上での基礎となるため、まずは「解剖・生理学」の完遂を目指しましょう。

薬理

 本問はリード文から患者情報を読み取り、本患者に使用できない薬物とその理由について考える問題です。

 本患者は排尿障害を伴う前立腺肥大症の治療を継続しており、尿閉のある患者に対して禁忌となる薬物を除外しなくてはいけません。

 問251では、マプロチリンが抗コリン作用により尿閉を悪化させること、さらにミルナシプランがノルアドレナリンの作用を増強させることで前立腺平滑筋を収縮させ、尿閉を悪化させる可能性に気づけるかどうかが鍵となります。ミルナシプランは中枢神経系作用薬ですが、末梢にも作用して生じる副作用があることを確認しましょう。

 また、今までの国試において、アリピプラゾールは「統合失調症治療薬」として出題されていましたが、本問ではアリピプラゾールの「うつに対して、SSRIまたはSNRI等による治療を行っても効果不十分な場合に既存治療薬に併用する」という使い方を知っておく必要があります。

 本問のような実践問題に対応するためには、学修する際に薬理作用だけではなく「適応」「副作用」も意識しましょう。中枢神経系作用薬では、「適応」が複数あるものが少なくありません。例えば、バルプロ酸ナトリウムは抗てんかん薬としてだけではなく片頭痛にも適応があります。その他、オランザピンは統合失調症以外に双極性障害にも適応があります。「適応」「副作用」については、薬理作用とつなげて理解できるものばかりではありませんが、中枢神経系作用薬の中でも精神疾患治療薬については、学修中の範囲以外の適応も確認するように心がけてみてください。

病態・薬物治療

 現場の薬剤師(特に薬局薬剤師)は、患者から疾患・病歴を教えてもらうか、処方内容や会話から疾患や病歴を予測、判断する必要があります。疾患や病歴を適切に把握できなければ、その患者に合った治療薬を選択することができません。そのため、患者背景と処方から疾患を読み取る問題(問286)とその患者にあった適切な治療薬を選択する問題(問287)が出題されており、本問で求められる思考は臨床現場でも重要になります。まさに個別最適化薬物治療の実践を意識した出題と考えられます。

 本問で正答するためには、「自分ではほぼ服用できない」という患者背景などから、様々な情報を拾い上げて最適な薬物治療につなげる必要があります。具体的には、▽追加薬として自分で服用が必要な経口製剤(選択肢1と2)が使用しにくいこと▽患者がベッド上で生活をしている(長期不動状態)ことから静脈血栓塞栓症のリスクが上昇するため選択肢2が使用できないこと▽ワルファリンカリウムとの併用やテリパラチドの再開が可能なのか――などです。

 このような問題に対応するため、臨床現場で遭遇する可能性が高い疾患に関しては、基本的な病態の把握と薬物の使用理由を理解しましょう。また、他の科目の問題演習などで疾患や薬物に触れた際にも、病態・薬物治療に立ち返るなど科目をまたいだ学修を進めましょう。その上で、患者背景を踏まえて考えられるようにしましょう。

 また、年齢、性別、検査値、合併症や処方薬の有無など患者背景は多岐に渡ります。一つひとつの疾患や治療薬を形式的に暗記するだけでなく、例えば血中尿素窒素(BUN)の値から腎障害を推測した際は、腎排泄型薬物の用法用量を確認するよう心がけるなど、概念化した学修を心がけましょう。

 解答番号(問218=3、問219=3、問250=2、問251=2、4、問286=1、3、問287=3、5)

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