学校法人医学アカデミーグループ
薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子

薬剤師を取り巻く環境は大きく変化し、臨床現場ではその変化に対応できる薬剤師が求められています。今年2月に実施された第110回薬剤師国家試験では、症例や検査値から腎機能や副作用発現など個々の患者の状況を読み解き、処方提案を行う問題が多く出題されました。個々の患者への「個別最適化薬物治療」に薬剤師の積極的関与が求められていることから、関連する問題も多く出題されました(薬ゼミ調べ:実践問題85問中47問)。来年2月の第111回国試に向けて、第110回国試「薬ゼミ自己採点システム」の登録者1万1734人(3月25日現在)のデータを基に、国試の形式や出題傾向、新傾向などを解説します。
第110回国試の結果
国試の合格ラインは相対基準ですから、一定の点数ではなく、問題の難易度や受験生の状況で決まります。第110回国試の難易度は「中等」で、合格ラインは全問題の得点が345点換算で213点(正解が三つで採点された問題2問含む)となり、第109回(210点)よりやや高くなりました。
総合格率は68.85%(合格者数9164人)で、6年制新卒の合格率は84.96%(合格者数6849人)で近年とほぼ同程度でした(表1)。6年制既卒の合格率は第110回では43.94%(合格者数2214人)で、第109回よりわずかに高く、第108回と同程度でした。
禁忌肢選択数は「2問以下」でしたが、薬ゼミの分析によると第110回の合格者数に禁忌肢による大きな影響はなかったと思われます。
薬ゼミ自己採点システムによる分析
薬ゼミの自己採点システムによる分析では、第110回の正答率60%以上の問題数は240題で、合格ラインの高かった第108回の266題を除く近年では、第107回229題、第109回224題と比較すると若干多い傾向でした。
出題形式別の比較(表2)では、第110回の合計平均得点率は67.8%、必須問題は81.3%、理論問題は58.7%、実践問題は66.0%となり、特に理論問題は近年5年間で最も低い得点率となりました。必須問題では「全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること」という合格基準(いわゆる足切り)が定められています。第109回では足切りの影響を受けた受験生が想定されましたが、第110回では該当者は少ないことが予想されます。
第110回の領域別正答率(表3)で、必須問題では病態・薬物治療が知名度の低い疾患や症候が出題され60%台と低い結果となりました。例年通り難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」は正答率が60%を下回り、特に物理では文章や構造式から解答を導く計算問題でいずれも正答率が低く、生物では図や構造式を用いた問題で読解力を要する問題が多く出題され、正答率の低い問題が多かったことで、領域別正答率が30~40%台になりました。
第111回国試合格対策
第110回国試では、副作用対策や処方提案、検査値に関する問題に加え、「個別最適化薬物治療」の問題が多く出題されました。第111回国試対応「青本」の実務9には、この項目が掲載されています。最新情報を取り入れた青本などの参考書、講習会、模擬試験などで学修することをお勧めします。最近の問題を中心に既出問題を7年程度、暗記ではなく周辺知識も含めて学修しましょう。
必須問題は、薬剤師に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験のCBT試験と同様の五肢択一の問題です。一般問題(理論・実践問題)に比べて比較的正答率が高い問題が多く、得点源となります。80~90%の得点率を目指して勉強してください。第110回では平易でしたが、苦手科目を作らないように勉強してください。
理論問題は、今まで学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須・実践問題より高く、第110回でも基礎科目を中心に難易度の高い問題が出題されていました。特に苦手科目は早いうちから対策を行いましょう。
実践問題は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなっています。複合問題(基本は2連問)は、症例や事例、処方箋を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈、解決するための資質を問う問題で、実践力や総合力を確認する出題です。第110回では、副作用対策や処方提案を行う複合問題が多く出題され、臨床現場での即戦力が期待される問題でした。臨床実務実習での経験とつなげながら学修しましょう。
各領域の対策
各領域のうち物理では、必須対策として既出問題の周辺知識を確認しながら、図を読み取る力、計算力を養いましょう。理論・実践対策は、臨床検査の分析技術の原理が理解できるようにしましょう。代表的なセンサーやドライケミストリーなど分析技術を臨床応用したもの、放射性医薬品、PET、SPECT、X線CT、MRIなどの画像診断と画像診断薬は実践での出題が予想されます。
化学では、必須対策として基礎事項、反応、立体、無機、生薬について既出問題を理解する学修をしましょう。医薬品や生体成分の構造的特徴を理解して化学的性質に応用し、医薬品や生体成分の構造を理解して相互作用や代謝に応用できれば実践対策になります。有機化学の基礎となる考え方を複合的に活用できるようにしましょう。
生物では、必須や理論、実践のそれぞれで、実験の過程や結果などを示した模式図から情報を読み取って解答する問題が多く出題されています。既出問題や模擬試験を活用して必要なキーワードを読み取る力を養いましょう。疾患関連遺伝子、脂質代謝、解剖・生理(皮膚・血液など)では、疾患とつなげた学修を意識しましょう。
衛生では、必須は幅広い範囲から基本的な事項や公式レベルの計算問題が出題されています。苦手範囲を作らないように学修しましょう。理論ではグラフ、表、構造式など思考力を問う問題が多く出題されています。既出問題や模擬試験を活用して思考力を養いましょう。予防接種や中毒時の解毒薬、学校薬剤師業務など、薬剤師に積極的な関与が求められている事項は実践問題での出題が予想されます。
薬理では、必須対策として出題頻度の高い薬物の作用機序や薬理作用を確認しましょう。出題基準から満遍なく出題されているため、偏りのない学修を心がけましょう。理論・実践対策としては、実務実習中に扱った臨床上重要な薬物を中心に勉強しましょう。患者情報を評価し、処方変更を提案する力、適切に患者に伝える力が求められています。薬物治療や実務とつなげる学修を心がけて実践で得点できるようにしましょう。
病態・薬物治療では、必須や理論、実践のそれぞれで、適応を問う問題や検査値などを踏まえて治療薬を選択する問題が出題されています。個別最適化薬物治療として、症例や処方、検査値など多くの情報から必要な情報を読み取り、個々の患者に適した薬物治療を選択する能力が求められています。検査値については、臨床で頻用される検査項目とその基準値、測定する意義を理解して、患者の状態が推測できるようにしましょう。医薬品情報や統計の対策は、既出問題の理解から始めましょう。
薬剤では、グラフや図、計算が多数出題されています。グラフや図の読解力、計算力を身に付けましょう。実践対策として、臨床で用いられているDDS製剤(放出制御製剤、ターゲティング製剤、吸収改善製剤)、代謝・排泄過程での薬物相互作用、TDM、投与計画など実務実習で体験したことをつなげながら学修しましょう。

薬学ゼミナールウェブサイト(QRコード)に、第110回国試の問題や解答、総評を掲載しています
法規・制度・倫理では、薬剤師としての業務を遂行するために必要な法的知識や臨床現場での行動等の適正性を問う内容が出題されています。今後は、薬剤師業務に関する法規制や患者の権利に対する医療従事者としての姿勢を問う問題、薬剤師としての模範的な行動について出題される可能性があります。すべての範囲で実践としての出題があり得るため、臨床を意識した学修が大切です。
実務では、他科目(薬理、薬剤、治療等)で学ぶ内容が、実務領域としても出題されています。また、与えられた患者情報(既往歴、処方内容、検査値、症状等)が問題を解くヒントとなることが多いため、既出問題を用いた学修を行う際には、問題文から必要な情報を読み取れる練習をしましょう。抗悪性腫瘍薬を中心とした代表的な副作用の症状とその対策、点眼剤や坐剤、貼付剤、吸入剤、自己注射剤等の適正使用のための服薬指導、抗菌薬の適正使用など複合問題の実務の範囲での出題が予想されます。科目横断的な学修が必要です。