出席者
日本保険薬局協会雇用問題検討委員会委員長
アモール代表取締役社長
橋場 元
同副委員長、ウインファーマ代表取締役
藤田 勝久
クオール薬局支援本部副本部長・採用部部長
玉井 啓介
アイセイ薬局人材本部・人材開発部係長
添田 奈穂美
阪神調剤ホールディング人事本部
人材開発部採用課長
松井 克仁
2025年をメドに新たな地域包括ケアシステム構築に向けた取り組みの中で、薬局に求められる役割は多様化、高度化すると見られる。その中にあって保険薬局を含め医療現場では、薬剤師の確保が難しい状況が続き、それぞれに薬剤師確保に向けた取り組みが模索されている。そこで全国展開型、地域密着型など、日本保険薬局協会所属の薬局チェーン代表に方にお集まりいただき、将来的な保険薬局のあり方を見据えた人材確保の状況と展望について、インターンシップ制度への取り組みを中心にうかがった。
――まず始めに、各社の概要をご紹介ください。アモールの橋場さんからお願いします。
橋場 日本保険薬局協会の雇用問題検討委員会委員長を務めている橋場です。当協会は2004年に設立され、今年1月15日現在、正会員として加盟する薬局チェーン等が251社、そこに所属する薬局は約1万1000店舗、薬剤師数(正社員)は約3万1000人に達しています。
さて、わが社は富山県を中心に1985年に創業し富山に17店舗、埼玉3店舗、東京2店舗、石川1店舗の全23店舗を展開しています。従業員は180人ほど、うち薬剤師が120人ほどです。
14年から訪問看護ステーションの運営も始めました。地域密着型の医療・介護に広くかかわることを目指しています。国としてもかかりつけ薬剤師・薬局に向かっていく中で、目指してきたことと合致しているなと思っています。
藤田 ウインファーマ代表取締役の藤田です。神奈川、福島、北関東の群馬、栃木、茨城を中心に保険薬局34店舗を展開しています。グループ従業員178人、うち薬剤師が99人です。2015年は6店舗、今年度は5店舗を開業予定です。
松井 阪神調剤ホールディング人材開発部採用課の松井です。わが社は阪神調剤薬局を中核会社として、3年前にホールディングを立ち上げました。北海道から鹿児島まで269店舗を展開。全社で2000人を超す従業員がいます。
昨年7月より阪神調剤ホールディングとして採用活動、教育研修を行うよう組織が変わりました。調剤薬局が大きな事業ですが、介護福祉施設の運営など、今後とも医療関連事業を展開していく予定です。
添田 アイセイ薬局人材開発部の添田です。当社は、青森から広島まで310店舗の調剤薬局を展開し、そのうちマンツーマン型、医療モール型が9割を占めています。従業員約2400人のうち薬剤師が約1300人です。
医療モール開発のパイオニア的存在として、医師の開業支援なども行っています。私が入社した8年前に比べ30店舗は倍以上に増加、会社規模は大きくはなりましたが、社員の連携、人柄の良さは変わりないと感じています。
玉井 クオール薬局支援本部の玉井です。わが社は従業員3700人、うち薬剤師がパート等を含め1700人です。関東の店舗が多いのですが、北海道から沖縄まで全560店舗を展開しています。他に人材派遣、出版、治験などの会社も運営しています。
私たちは、「あなたの一番近くにある安心」をスローガンに掲げ、創業以来マンツーマンの医療連携を軸に出店展開しています。コミュニケーションを非常に大切にし、「人間力」をつけることを重視した教育研修を進めるなど、人材研修に最も力を入れています。
就活期間:影響大きい短縮化
――さて、新卒採用は相変わらず厳しいと聞きますが、就活・求人をめぐる状況はいかがでしょう。
橋場 全体的には昨年の「採用選考に関する指針」(以下、指針)への変更が、一番大きく影響していると思います。薬学生は学生実習との兼ね合いで、就活期間が他学部に比べ非常に短くなってしまいました。そのせいか薬学生の動きは鈍く、就活先の数が減っている印象です。
また、わが社では、新卒採用は5年ほど前からで、少しずつ新卒採用の機会は増えてきたのですが、指針への変更を機に、「国試が終わってから就職活動をしよう」という動きもあり、「採用できればいいかな」という状況です。
もともと、富山県は薬科大学に進学する学生数が全国でもワースト1、2と言われ、富山に残る、あるいは帰ってくる人数も少ない。その中で薬局を選ぶ学生は必然的に少なくなります。
一方、首都圏の大学に求人活動することは難しい面がありますが、担当の先生からは、「Uターンさせてあげたいが、そのための情報が少ない」という話を聞きます。
玉井 やはりタイトなスケジュールになったと感じています。6年次を前に、短期間で就職活動を行い、すぐに卒業研究、さらに国家試験対策とスケジュールが詰まっています。就活期間を制限したり、国家試験後に活動しなさいと指導する大学もあるようです。
結果、国試合格だけが目的になって、将来の目標、就職する目的が明確になっていないように思います。短い期間ですが、より自分に合った就職先を決めてもらうよう、より早い段階で情報発信していかなければと思います。その意味でもインターンシップの重要性が高まっています。
また、超売り手市場と言われ、「いつでも就職先はある」といった安易な気持ちでいる学生も少なくないと感じています。その結果ミスマッチというか、自分がなりたいことと実際との大きなギャップを感じて、1~2年目には転職、転職と転職癖がついてしまっているような人も見られます。
一方で、6年制に伴い学生の半数くらいは奨学金をもらい、通っているようです。そのため卒後は早く奨学金を返済したいという学生が多く、給与ありきで就職先を選ぶ傾向も見られます。もう少し自分自身の将来について考える場が必要だと思います。仕事の中身が自分とマッチするよう、しっかり就職活動をしていただきたいと思います。
藤田 わが社では昨年、11人の新卒採用ができました。積極的に店舗展開する上では成功だったと思いますが、中途採用も含め人件費負担が非常に大きくなっています。特に新卒者採用の伸びは、中小チェーンにとって、大きな課題になりつつあります。
松井 売り手市場は間違いないと思いますが、昨年の採用活動の中で、地域によっては充足しているので採用できないという会社もあったようです。一方で新卒給与の過当競争を背景に採用できない会社もあるようです。今後のかかりつけ薬剤師・薬局の育成を考えれば、採用環境を変えていく必要があるのではないでしょうか。
添田 今までの学生さんは5、6社を見る中で面接は2、3社に絞り込んでいましたが、今は説明会すら3社ほど、そのうちの1社しか面接を受けないようです。就活期間が短い中で、しっかり就職先を選べているのかなと心配しています。
わが社としてもミスマッチをなるべく避けたいと思っています。そのため1回の出会い、チャンスを大事にして、全てを伝えた上で、アイセイを選んでもらえるよう、その判断材料をできるだけお伝えしたいと思っています。
インターンシップ:薬局にも広がる
――学生さんとの接触の期間、機会が減っている中で、インターンシップが注目されているわけですね。阪神調剤さんは早くから取り組んでますね。
松井 インターンシップと呼べるかどうか分かりませんが「薬局体験」は、4年制の頃からはじめていますが、正式には1年ほど前からです。
14年にある大学から「御社でこういう体験はできませんか」と、実務実習と違う体験学習の依頼を受け、「薬局体験」とは違うことを始めました。
玉井 われわれも実際に始めたのは2年ほど前です。就業体験に関してはある程度、実務実習で知っているので他の情報を出していかなければと、様々に工夫をしています。
今年はインターンシップへの参加は昨年比150%と増加してます。学生さんも早い時期から知りたいとは思っているようです。夏、秋、冬の3期に分けて実施してます。
厚生労働省から「患者のための薬局ビジョン」が掲げられたことを踏まえ、今年はより具体的な現場での対応を中心に見てもらう。そして、現場薬剤師とディスカッションしてもらい、自分が思う薬局ビジョン、かかりつけ薬剤師・薬局を考え、発表してもらうこととしています。
藤田 わが社でも昨年から受け入れ体制を作りましたが、募集してもなかなか集まらないのが現状です。
橋場 うちでも募集はしてますが、なかなか対象者がいないというのが実際のところです。ただ、土曜日の「体験アルバイト」には、例年何人かの参加があります。県外出身者が多く、就職に結び付きづらいのが現状です。5年生で実習したが、卒業までに時間が空いて不安だから参加するという真面目な学生さんが多いですね。
結果的に、薬局勤務の薬剤師が増えることは良いことですので、採用につながらなくとも、業界として応えてあげなければなと思っています。
各社、インターンシップと実務実習とをどう区分けするか苦労されていると思います。ただ現状のように時間がない中で、今後インターンシップが膨らんでいくと、指針がありながら、実質的に就活期間が前倒しになってしまうという危惧も感じます。
藤田 ある就職情報関連企業の調査では15年4、5月で約5割近くが内定を受けているようです。この結果を見る限り、8月の協定前にフライングをしている企業が多いと思います。そういうこともあり、今年、弊社の内定数は厳しい状況です。
また「慌てて内定をもらうな」と指導している大学もあるようですし、いまは難しい時期です。
――阪神調剤さんは大学側からの要望がきっかけでインターンシップが始まったということですが、どのような内容ですか。
松井 薬局には薬剤師の仕事だけでなく、いろいろなキャリアがあるので、本社での研修をさせてくれないかというのが要望でした。
例えば、私のような採用の仕事、あるいは教育研修、営業など、薬局は薬剤師だけで成り立っているわけではありません。われわれも、そのことの重要性を感じ、昨年から他大学にも周知し進めています。大学では絶対にできないことですので好評を得ています。
私は採用担当としていろんな大学に足を運び、先生や就職担当窓口の方と話をしますが、その際に学生を連れて行きます。他大学職員や教授に会うことは学生にとって新鮮ですし、逆にその学生を介して先生方が他大学の状況を知る機会にもなっています。今後も続けたいのですが、一度に大人数を対象にできないことが、ネックかなと思っています。
実施時期として一番多いのは夏休みで、1日コース、3日間など状況に合わせいくつかコンテンツがあります。
添田 去年からの取り組みでいまだ手探りですが、今年に入って実施したインターンシップでは、当社の社員研修を体験してもらいました。約10人の学生が集まり、実際の研修に参加してもらった後、若手社員と学生さんが、ざっくばらんに話し合う場を作りました。その時に、面談時期に関する希望を聞いたところ、半数ほどが早期の面談を希望していました。6年生の4月以降は国試の勉強で忙しくなるでしょうし、気持ちは理解できます。希望には応えたいと思いますが、就職協定のこともあり、大学側と十分に話し合いをしていく必要があると思います。
今後は、アイセイに入ったら、どう成長していけるか、その点を伝えていきたいなと思っています。
――クオールさんのところではいかがですか。
玉井 いわゆる医薬分業が70%となり重複投与のチェックなどが進み、薬剤使用量の適正化などある程度成果が出てきたと思います。
ただ、従来は経済誘導されてきた面がありますが、今後は質を重視する時代に入ってきたと思います。その中で昨年、患者のための薬局ビジョンも発表されました。
そういった歴史的背景を分かった上で、自分たちがどういう立ち位置で、国民医療に貢献していくべきかを考えさせる、そういうインターンシップを目指しています。
例えば、学生の前で若手薬剤師が実際に取り組んでいる内容について課題も含め発表し、一緒にその解決に向け討議するというような参加型インターンシップに取り組んでいます。
松井 インターンシップだからこそ、各会社の独自カラーが出るのかなと思います。そこで一般学部学生と一緒にするインターンシップも実施しています。多様な学部学生がディベートした上で、最後は薬局の場で患者、市民を対象にした公開講座を開催するというようなこともしています。
インターンシップは各社のアピールの場でもあり、これからの薬局の方向性も伝えられる場でもあり、非常に面白い制度だと思っています。
玉井 学生さんと接していると、就職先にどういう人が働いているのかが不安要素として強いようです。われわれとしては、自然体で接し、風土を感じてもらい、そこが自分と合うと思うのであれば、それはそれでよいとは思います。ただ、学生としては雰囲気重視、あるいは給与重視というのが強いように感じます。
添田 雰囲気重視だとしても、学生さんにはいろいろな会社を見てほしいので、「他の会社もちゃんと見てね」と伝えています。
橋場 就職先を必死に考えた人は簡単には辞めない。簡単に決めてしまうがゆえに簡単に辞めてしまうのだと思います。インターンシップでは、ありのままを見せることが大事で、ミスマッチ防止にもつながると思います。
藤田 学生さんは就職情報誌等でいろいろ調べているのだと思いますが、われわれとしては実際の現場をよく見て、納得した上で入社してもらいたいと思います。
――実務実習との差別化が一つの課題のようですね。
松井 実務実習と違った内容であるべきだと思います。
藤田 実務実習は病院と薬局合わせ約5カ月ですが、それ以外にも製薬会社やCROなど薬剤師の職種は多様です。今後、インターンシップは企業研究、各職種の仕事内容を把握するなど、将来の方向性を探るという意味でも重要です。たとえ半日でも学生にとっては参考になるのではないでしょうか。
――何年生くらいから参加するのがよいでしょうか。
玉井 個人的には実務実習に出る前の4年生か5年生の早い段階がよいと思います。業界全体の流れをちゃんと把握し、薬剤師としてどういう仕事があるのかということを、ある程度踏まえた上で、薬局実習、病院実習を受けられれば、点と点だったことが線で結びつく。それによって自分がどういうところで活躍したいのかという方向性も見えやすくなると思います。
添田 私のところでは社員研修に参加してもらったのですが、その時は添付文書から何を読み取れるかというテーマでした。その場合、実習経験者の方は反応も良く、分かります。テーマによって、適切な時期というものがあるかもしれません。
松井 わが社では4種類ほどコンテンツがあり、それによって年次が違うかなと思います。そのうちの1つは実務実習では体験できない薬局業務ですので、実務実習を体験した方に来てもらわないと意味がないような気がします。中身にもよりますが、早い時期から来てもらった方がいいと思います。
橋場 われわれは日本保険薬局協会というチェーン薬局の団体で、総合職のある会社の集まりでもあります。松井さんから、大学の就職担当の方が総合職を見せてほしいと要望されたという話を聞き、そういう面でも貢献できるのだと思いました。すなわち当協会会員企業は薬局の現場、さらに総合職という二つの切り口を、見せられるのだと思います。
私自身は薬剤師なので、医療人という気質を持ってもらいたいと思います。しかし、医療人として現場で生きていく生き方の一方で、総合職といった選択肢もあるわけです。それを知るためにも、早めのインターンシップがあってもいいなと思います。
次世代薬局:やりがい増えて明るい未来
――保険薬局の将来に向けて、何か一言ありますか。
藤田 薬局ビジョンが示され、健康サポート薬局の推進が課題になっています。私もその方向性は良いことだと思います。ただ、薬局・薬剤師の職能拡大ということが言われるものの、実際の医療人としての活動という面では、臨床現場への接点と時間的制約もあり、医師や看護師と比べ、足りないように思います。
24時間対応も必要ですし、災害時に真っ先に活動していくこと。最近は洪水による大きな被害がありましたが、患者様の医薬品備蓄も重要な薬局の役割です。
そういう意味では、就職するに当たり、薬局・薬剤師が社会的な使命を果たしていくということを理解することも大事だと思います。
橋場 薬局、分業バッシングが続いていますが、「健康サポート薬局」政策により、ある意味では道筋を作ってもらったと思います。やりがいのある仕事がこれからどんどん増え、薬局の未来は明るいと思っています。そういう社会的な動きをぜひ、学生さんにも理解いただきたいと思います。
玉井 ほとんどの薬局・薬剤師はちゃんとやっているのですが、それが「見える化」されていなかったということがバッシングの背景にあったと思います。
もっと現場で活躍している薬剤師の仕事や成果が見える化され、未来はさらに明るいと思っています。