(株)スギ薬局、日本薬剤師会一般用医薬品等委員会委員
藤田 知子
OTC医薬品は、配合できる成分とその量の範囲が決められています。製薬会社各社は、その制限された範囲内で、成分を組み合わせ、配合量を決め、さらに製剤に工夫を施して、選ばれるOTC医薬品を目指して製品を作っています。この号から、OTC医薬品のカテゴリごとに、配合されている成分やその働きを中心に、OTC医薬品ならではの製剤上の工夫についても紹介していきたいと思います。説明した成分が実際にどんな製品となって販売されているか、薬局で確認してみてください。今回は汎用医薬品群である、解熱鎮痛薬、総合感冒薬、鎮咳去痰薬を取り上げます。
配合成分とその働き
CMでおなじみ、「私のかぜはのどから…」など、つらいと感じる症状ごとにパッケージを色分けして製品化している総合感冒薬があります。当初、「これなら、薬剤師に相談しなくても簡単に薬を選べる」と薬剤師不要論を説く人もいました。しかし、そのCMを見て、製品を知るまでは、“かぜ”と書いてあれば何でもよかろうと何気なくOTC医薬品を購入していた人が、実は、かぜ薬にはいろいろな種類と特徴があるということを知るきっかけになったと思っています。
解熱鎮痛剤
「解熱鎮痛剤」は、発熱、頭痛、生理痛、歯痛、腰痛、関節痛に効用があり、個人差はあるものの、即効性と改善効果がもっとも期待されるカテゴリだといえます。解熱鎮痛剤の代表格は、「アセチルサリチル酸」です。1932年に、一般名である「アセチルサリチル酸」から、「アスピリン」に登録変更となりました(日本薬局方)。OTC医薬品成分表示ではどちらの標記も大丈夫です。
イブプロフェンなどのNSAIDsは、妊娠中に服用すると胎児への影響があることから、“出産予定日12週以内の妊婦には投与しないこと”になっています。過去に同効薬の医療用医薬品での事故が問題となり、2012年4月にOTC医薬品の添付文書にも記載追加されました。他に、中枢性に働くアセトアミノフェンがあります。小児にも適応があり、前述のような作用はなく安心して使用できる成分ですが、肝機能への影響が大きく、飲酒する人は肝障害を起こすリスクが高く、注意が必要です。
もう一つ、中枢性の鎮痛成分でイソプロピルアンチピリンがあります。鎮痛作用が強く、胃腸障害も起こしくいのですが、大変有名な副作用に“ピリン疹”があります。医療用では、ほぼ単剤で存在するのに対し、OTC医薬品では、鎮痛効果をより高めるためにエテンザミドやカフェインなど(補剤)と一緒に配合されているのが一般的です。
その一例としてAAC処方(アスピリン、アセトアミノフェン、カフェインの合剤)があります。片頭痛の急性期や生理痛、生理時の頭痛に対する効果がDB試験でも効果実証済みです。
製剤上の工夫が施されている最近の商品としては「バファリンルナi」があります。水に溶けにくいイブプロフェンを「クイックメルト製法」で、体内で早く溶けるようにしており、鎮痛効果が早く表れるようにしています。このような製剤上の工夫や、臨床研究結果などは、パッケージや添付文書には詳細を書ききれないので、認知されていないことも多いのです。OTC医薬品を深く学んでみると、このような発見があり、面白いと思います。
鎮咳去痰剤
次に「鎮咳去痰剤」ですが、その名の通り、鎮咳作用のある成分と、去痰作用のある成分があります。鎮咳作用成分は、医療用でもごく普通に使われている「ジヒドロコデイン」「コデイン」「デキストロメトルファン」などがあります。習慣性が高く、乱用される恐れがあるジヒドロコデイン、コデインは、指定第2類医薬品ですが、1人1包装の販売制限があり、特に中・高校生への販売の際には過量、長期連用にならないよう説明を行うことになっています。
咳は、外部からの刺激、浮遊物などを気道から追い出すために必要な体の反応ですから、むやみに止めない方がいい場合もありますし、また、喘息患者などは気道がますます閉塞する状態になるので、使用は避けるべきでしょう。
一方、去痰成分である「アンブロキソール」「カルボシステイン」は、医療用医薬品では「気管支喘息」の効能効果があるので、気管支喘息既往者の咳止めにも有効です。気管支拡張作用を持つ「メチルエフェドリン」は、交感神経興奮作用もあるので、高血圧症、心臓病、甲状腺機能亢進症などの疾患を持つ方は、持病を悪化させる恐れがあるので、注意が必要とされています。
このように鎮咳去痰剤は、既往症や習慣性に注意を払う必要があるため、できれば薬剤師が対面販売したい医薬品です。
総合感冒薬
最後に「総合感冒薬」について説明します。前述の解熱鎮痛剤や鎮咳去痰剤、さらに次号以降で詳しく説明しますが、「鼻炎薬」の抗アレルギー剤が配合されたのが「総合感冒薬」です。さらに、主成分の働きを高めたり、かぜ症候群の諸症状緩和に役立つ成分が配合されています。
例えば、「トラネキサム酸」「リゾチーム」は、ウイルスや細菌による粘膜の炎症を鎮める働きを持っています。「ビタミンC」「ビタミンB」は、発熱などで体力を消耗したときに失った体の元気を取り戻すのに有効です。「生薬成分」の甘草は炎症を抑える作用などそれぞれが主成分の働きを助け、かぜの諸症状の改善を早めます。
このようにOTC医薬品1つに、いろいろな成分が含まれています。冒頭の「私のかぜはのどから…」だけでなく、「のどからくるかぜだけど、すでにのどが腫れて、痰が絡む、食欲がない、今は微熱、でも高血圧の薬を飲んでいて…」など患者さんの症状を細部まで確認し、さらに患者さんの背景、既往歴を踏まえた上で、適正にOTC医薬品の選択ができることが、薬剤師として必要なスキルになると思います。