【薬局・ドラッグストアの薬剤師の未来予想図】第3回 医療費抑制と薬局・薬剤師 その1

2013年9月1日 (日)

薬学生新聞

サンキュードラッグ代表取締役社長
平野 健二

平野健二氏

 前回の号で述べたように、年金や介護保険などを含めた社会保障費が、国民所得の60%を超える事態が想定されています。これでは国民生活が破綻するため、避けなくてはならない事態です。次に、トレードオフという考え方を提示します。何を我慢する代わりに、何を得るかという話です。

 医療費抑制は「無駄なコストを下げる~何を無駄と定義するかを含めて」という議論ではありますが、同時に下がったコストで何をするかの議論でもあるのです。それは高度医療の開発や難病治療や予防に予算を投入すること、また、貢献度の高い医療従事者の待遇を改善することかもしれません。多くの方法論がありますが、このような視点を持ちながら選択肢を検討し、施策を決めていかなくてはなりません。

医療・介護のプレイヤーの役割変更

 分かりやすく言えば、「医師にしかできないことを医師に」「薬剤師にしかできないことを薬剤師に」と、従来の概念にこだわらず、最も効率が上がるように役割分担を変えることです。

 [1]入院日数削減

 主に急性期の治療を受け持つ基幹病院には、高度医療に対応する高価な施設・設備と、それに特化したスタッフが充実しています。患者1人1日あたりコストが高い施設でもあります。急性期の治療が済んだらできるだけ早く退院させ、療養型病床や自宅での療養に切り替えることが進んでいます。疾患ごとに支給額を定め、その範囲内で治療を終わらせると差額が利益となるDPCという仕組みを導入する病院も増え、検査をするほど儲かる時代は過去のものとなりつつあります。

 [2]病診連携

 来院した患者が、コストの高い病院での治療を必要とするかどうか、診療所の医師が判断する仕組みです。ある医師は「開業医の仕事は、自分が治療する患者と病院で治療してもらう患者を識別すること」とおっしゃいました。

 また、退院後の患者を在宅~通院でフォローするのも診療所の役割です。これにより基幹病院からの処方箋枚数が激減することになります。紹介された患者は、多くの場合、入院を前提として来るわけですし、退院したら、開業医の方に行くからです。処方箋の出場所が変わるのです。

 [3]療養病床削減~在宅介護の推進

 療養病床はリハビリや慢性疾患等、長期の療養を必要とする患者のための病床のことです。急性期の一般病床より医師や看護師などの医療従事者の配置基準も緩やかであるため、それ自体は一般病床より低コストです。しかし社会的入院の可能性、求められるのは「医療」よりも「介護」との考えから療養病床自体を削減し、在宅への移行を進めています。これが進めば院内で投薬されていた薬が院外へ移ることにもなります。

 ここで言う「在宅」には施設と居宅があります。今の段階では圧倒的に施設入所者が多く、医師が訪問診療を行った日にまとまった処方箋が出ることになります。現在~将来の調剤報酬削減を睨みながら、これを取るための営業を行う調剤薬局が増えています。ただ、薬局はお薬を作って届けるだけのことが多いようです。ビジネス的には、その方が効率が良いという事情もあります。

 しかし、それではアメリカで既に普及しているメールオーダー(ネットやFAXで発注~全自動の調剤工場で1日1万処方以上をこなす)で済み、コストも削減できます。日本で必要とさ
れる薬剤師数が激減することにもつながります。在宅療養中の患者に対し、薬剤師がどう役立つかを明確にできなくては、薬剤師の将来はないのです。

 [4]リフィル

 1枚の処方箋を繰り返し利用する制度のことです。アメリカでは、1枚の処方箋で最長2年間、1~3カ月ごとにお薬をもらうことができます。同じ薬を長期に使用することで備蓄が容易になるため、患者が自分の便利さや信頼で薬局を選択する「かかりつけ薬局」が実現するということにつながります。これは多くの薬剤師さんが望む将来像であると思いますが、一方で、大きな責任を担うことにもなります。

 *リフィルについては、2010年3月19日付「厚生労働省チーム医療の推進について(チーム医療の推進に関する検討会報告書)」に「検討が望まれる」と記されています。

 [5]薬事法改正

 09年から改正薬事法が施行されました。ここで特筆すべきは、一般用医薬品(OTC)がリスクに応じて第1~3類に分類され、95%以上を占める第2類、第3類については薬剤師がいなくても売れるようになったことです。これも大きな目で見れば、薬剤師でなくても良い仕事は登録販売者に任せるという役割分担の変更であり、医療制度改革の一部ともいえます。問題は、薬剤師が必要でない部分を任せた代わりに、薬剤師は何を担うのかということです。

 医療費抑制は、公的医療保険でカバーする部分を減少させるという意味ですから、従来医療保険で支払われていた医薬品のうち、処方箋がなくても薬剤師の裁量で販売できる領域を広げるというのが構想の中にありました。医療用成分のうち、安全性が確立したものを第1類医薬品としてスイッチすることや、7兆円という医療用医薬品市場のうち2兆円を占める「非処方箋薬」を薬剤師が売りやすくする仕組みをつくることで、その機能を果たすことができます。

 処方箋なしで売れる薬の増加は、医療機関を受診する患者数の減少につながるという医師会の危惧と反対もあります。これに対しては、安全性の確保をどうするのか、対象とする患者の発見、適切な服薬管理、症状や数値の変化の把握と対応といった問題に対処できなくてはなりません。新たな役割は、天から降っては来ないのです。

 また、登録販売者がいるから第2類、第3類の対応の必要がないわけではありません。現場では、患者は自発的にリスクの可能性を問いかけてくるわけではありませんから、半ばセルフ販売のOTCとのリスク問題にどのように関わっていくかは、売り場での発信はもとより、販売情報(履歴)や様々なIT技術の活用で解決していかなくてはなりません。薬局・ドラッグストアにおいて医療チームのリーダーは薬剤師です。登録販売者や栄養士などと連携しつつ、その責任を果たしていく覚悟と準備が必要です。



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