様々な未承認薬に携われるのが魅力
製薬会社の医薬品開発を支援する臨床試験受託機関(CRO)の新日本科学PPDは、国内CROの新日本科学とグローバル大手CROの米PPDの合弁会社として2015年4月に発足した。臨床試験の企画や運営に携わるクリニカルリサーチアソシエイト(CRA)として活躍している小澤愛さんは、12年に当時の新日本科学に入社し、3年間は国内臨床試験を担当していたが、4年目から環境が一変。合併会社となったことで、仕事で使用するシステムが英語になったり、社内を外国の人が行き交うようになるなど、新日本科学の時のアットホームな社風は維持されつつも、小澤さんのもとに“グローバル化の波”がやってきた。「最近は国際共同治験の受託も増えてきて、世界のどこの国でも承認されていない薬剤の開発に携われます」と笑顔で話す小澤さんは、今日も自分が担当している治験実施施設へと足を運ぶ。
常に患者さんの存在‐カルテを通じて意識
「医薬品や化粧品を開発する仕事に就きたい」という思いは、小澤さんが高校のときから既に抱いており、6年制薬学部の第1期生として大学に進学。勉強をしていくうちに薬剤師や製薬会社だけでなく、非臨床や臨床CRO、治験施設支援機関(SMO)の存在も意識するようになり、「自分にはCRAが一番楽しそうに思えて、就職活動ではCROを目指しました」と話す。
なぜ製薬会社の開発職にしなかったのかという質問には、「製薬会社では、第I相から第III相まで1つの薬剤に関わっていく場合が多く、入社して約20年間ずっと同じ薬剤に携わってきた方もいるというお話も聞いていました。CROは(依頼主である製薬企業各社の)いろいろな薬剤の開発に携われるので、魅力的に感じました」と力強い答えが返ってきた。
CRAは、「モニタリング」と呼ばれる、治験を担当している医師や薬剤師、治験コーディネーター(CRC)と円滑にコミュニケーションをとりながら、臨床試験が治験実施計画(プロトコール)に沿って違反なく行われているかを確認する重要な業務を担う。小澤さんの担当施設は、血液癌治療薬候補の国際共同治験で、日本全国25施設で進行しているうちの、千葉、茨城、栃木、群馬の4施設をカバーしている。内勤業務として、プロトコールに関するCRCの問い合わせへのメールや電話での対応や、契約書など各種書類の作成などを行う傍ら、定期的に治験が行われている担当施設を訪問する。1施設につき月1回程度、治験を立ち上げる時期には週に3回が外勤業務になることもあるそうだ。訪問先の施設では、患者のカルテから試験がプロトコールに沿って遂行されているかどうか、副作用が起こっているか、起こっていたとしたら医師が副作用を把握しているかなどを確認する。また、医師と面会して、症例データについてのディスカッションを行う。
CRAの醍醐味といえば、カルテや医師とのやりとりを通じて、薬剤を投与した患者の症状やクオリティー・オブ・ライフ(QOL)が改善していることを実感できることだ。小澤さんは「日々の内勤業務に追われていると、薬剤を待っている患者さんがいることを忘れがちになりますが、薬剤の効果を示したカルテを見ると、自分の業務の先に常に患者さんがいるのだということを思い出させてくれます」と直接患者と関わらなくても、CRAの業務は常に患者と共にあることを強調していた。
新日本科学PPDには現在約240人のCRAが在籍しており、そのうち薬学部卒は小澤さんも含めて約80人となっている。同社の社風は、アットホームさとオープンさが融合した、内資と外資系企業の「良いとこ取り」だ。小澤さんが入社して4年目から合弁会社となって「今まで英語を全然やっていなかったので、まいりました」と苦笑しながらも、英語の資料やシステムと格闘する日々を送っている。同社では、翻訳・通訳スタッフが在籍しており、英語のサポートが受けられるほか、フロアの中に「リトルアメリカ」というスペースを設けてあり、英語講師と楽しく英会話を学ぶことができる。社内で同僚の外国人と話す機会もあるので、今まで英語に馴染みがなかった人にとっても、グローバルな人材へと成長するチャンスになる。
小澤さんのCRAとしての将来像について聞くと、「モニタリングの仕事が本当に好きなので、後輩CRAの育成に携わり、臨床試験のいろいろなノウハウを教えたいです」と意気込みが伝わってきた。ではどのような後輩に入社してもらいたいかと尋ねると「自発的に動くことができる人ですね。CRAの仕事は、人とのコミュニーションがとても大事なので、いろいろと相談してくれる人がいいです」と薬学生にエールを送る。
CRAは、医師や薬剤師、CRCなど様々な人と関わる職業だ。新人として新日本科学PPDに入社した後は、分からないことをまずは先輩に相談してみることが、コミュニケーション、そしてCRAという仕事の醍醐味を知る第一歩となりそうだ。