病院薬剤師が病棟に上がって、チーム医療の一員として役割を発揮する機会が増えている。2012年の診療報酬改定で病棟薬剤業務実施加算が新設され、1日のうち多くの時間を病棟に常駐し、様々な業務を実施することが経済的に評価された。病院薬剤師は以前から病棟での業務を手がけてきたが、同加算の新設を追い風に、病棟での業務拡充を急ピッチで進めている。
かつては病院薬剤師といえば、地下1階の薬剤部にこもって入院・外来患者の調剤業務に明け暮れる姿が日常的だったが、それはもはや過去の話になりつつある。1990年代に本格化した医薬分業の進展に伴って、外来患者の調剤は院外の薬局が担当するようになった。薬剤管理指導料という診療報酬の後押しもあって、浮いた薬剤師のマンパワーを病棟などの業務に費やせる環境が整った。
当初は、ベッドサイドでの服薬指導が中心だったものの、病棟に出て業務を行う機会が増加。次第に、各病棟のチーム医療の一員として活躍する薬剤師が増えていった。こうした業務拡大を背景に、薬剤師の病棟配置を評価する診療報酬として12年に、同加算が新設された。
これは、従来の薬剤管理指導業務と区別するため、投薬前に関わる業務とされている。病棟に配置された専任の薬剤師が、医療従事者の負担軽減や医療の質や安全性の向上につながる業務を実施することを、診療報酬で評価するものだ。
病棟に常駐して業務を行っている、ある中規模病院の薬剤師は「薬剤師が病棟に常駐することによって、処方の前段階で、処方設計や処方提案を行える」と言う。医師からは日常的に、抗菌薬の選択や投与設計、各種症状に適した薬物療法について意見を求められる。持参薬の代替薬、輸液や経腸栄養剤の処方設計を任されることも多いという。
実際に、医師や看護師は薬剤師の病棟業務をどう評価しているのか。昨年11月末に公表された病院勤務医の負担軽減に関する厚生労働省の調査では、効果のあった勤務医の負担軽減策として「薬剤師の病棟配置」を挙げた病院が64.6%と6割を超えていた。また、看護師の負担軽減策としても72.6%の施設が薬剤師の病棟配置が効果的だったと評価していた。
現在、全国の1000施設以上の病院が同加算を算定している。同加算の算定に当たって、薬剤師を増やさないまま算定に踏み切らざるを得なかった病院は少なくない。また、薬剤師のマンパワーが十分でないため、同加算を算定できない病院も多い。同加算をどのように薬剤師の人員増に結びつけるのかが、引き続き課題になっている。