サンキュードラッグ代表取締役社長
平野 健二
薬局が疾病予防に関与
前回までに述べてきたように、薬局薬剤師は保険収入のみを糧と考えることは、これから難しくなると考えます。そこで保険以外の収入の道として、広く国民の健康維持増進に目を向け、どこに「満たされていない需要」があるかを見つけることが必要です。そこに大きなチャンスと国民の期待があるからです。例えば米国では薬局で予防注射ができることが1つの道となりました。しかし、それは開業医へのアクセスが悪かったからであり、日本のように開業医が多く存在し、既に予防接種率が高い国では、同じように考えるべきではないでしょう。一方で、薬局が「疾病予防に関与できる部分」は使える発想になると思います。以下、[1]予防の属性[2]薬局・Dgsで可能な予防[3]予防のビジネス化という3つの視点から考えてみることにします。
[1]予防の属性
予防は、すぐに結果が出ない――これが最大の属性です。「今40度の熱がある」「がんに侵されている」という状況であれば、人はすぐに治療しようとします。しかし、「10年間、この薬を服用し続ければ……」、あるいは「毎日1万歩を歩き続ければ……」「生活習慣病になる確率が10%下がる」と言われ、それを継続できる人がどれだけいるでしょうか。
科学的根拠は明確ではありませんが、筆者が在住する福岡県では、健診受診率が全国最低レベルで、なおかつ高齢者の1人当たり医療費が最高です。これに対し健診受診率が最も高い長野県は医療費が最低であるというデータがあります。このことは注目に値します。
健診を受け早期に疾病を発見し、重篤化を食い止めるという予防に努めれば医療費は下がりそうです。しかしながら、特定健康診査・特定保健指導の制度が導入されて久しくなるにも関わらず、依然として健診受診率は低迷しています。
筆者は、多くの人が健診は「わざわざやるものではない」と思っているからだと考えています。医療関係者からは不見識だと言われるのかもしれませんが、現実としては、例えば大企業のサラリーマンは定期的に健診を受診しますが、その家族は受けていません。国保、社保加入者に至っては手が届く環境にすらありません。また、健診受診者も「要治療」と言われたとしても、何もしていない人が多いのです。
例えば、ある自治体では、特定健康診査・特定保健指導は、医師会が受託しています。健診会場は医師会館なのですが、住民はそれがどこにあるのか知りませんし、そもそも一般市民にとってアクセスの良い立地にはないのです。決められた日に行くことも、多くの市民にとっては苦痛です。加えて、長期の予防に積極的にお金を使おうという意志が低いようです。
であるなら発想を変え、「わざわざ」やらないのなら、「ついで」にやってもらうことを考えるべきではないでしょうか。
ドラッグストアの買い物の約70%は、「ついで買い」と言われています。実は「ついで」は決してマイナスの言葉ではありません。「ついで」だから継続でき、むしろ生かすべき得意な分野なのです。
[2]薬局・DgSでできる予防
私たちの持つ資源を考えてみましょう。まずは物的資源、次に人的資源です。
物的資源
ドラッグストア=▽日常の買い物の場としての高頻度接点~継続性▽OTCという「症状を自覚した」人への濃い接点~疾病の早期発見・予防、介護用品~要介護度の進行防止▽介護予防の発見と入口
調剤薬局=既に疾病を持った人の来局~これ以上疾病を増やしたくない意識の高い人との接点
人的資源
薬剤師=▽薬局における医療チームのリーダー▽知識、スキル、医師との関係
登録販売者=健康関連商品を求める(意識レベルの高い)客に対する高頻度接点
管理栄養士=食事や運動の指導
医療事務員=調剤窓口において薬剤師以上に接点を持てる可能性
実は慢性疾患も「すぐに効果が出ない→続かない」という点では、予防と同じ要素を持っています。
例えば高血圧患者への投薬は2カ月分というのが一般的ですが、コンプライアンスの問題をはじめとして、食生活のアドバイスをしても、なかなか治療に対する患者モチベーションを維持できません。問題は伝える側というよりむしろ受け手にあるのです。そこでドラッグストアで、高血圧の人が安心しておいしく食べられる食品を取り扱うのはどうでしょうか。
毎週、買い物に来てもらえれば、その都度、声をかけることができます。高頻度の接点を持つ工夫は、そんなに難しいことではありません。物販の機能を医療(予防)必要者の発見のツールと捉えると、新しい展開ができそうです。
継続性に関しては別の視点もあります。コミュニティの形成です。
日々の活動(数値変化)をWebで管理する仕組みも増えていますが、なかなか続きにくいようです。アバターが語りかけてきて嬉しい年代と、予防を必要とする年代にはズレがあります。
タバコや飲酒を止めるための会、糖尿病に取り組む患者の会などがありますが、これらがうまく機能しているのは同じ悩みや課題を持つ人が集まることで、心を開いたコミュニケーションが可能となり、絶えず励まされるからです。
そのような組織を店舗を中心としたコミュニティで創生することはできないでしょうか。そして、その中核に薬剤師が入り、アドバイスを行うのです。
[3]予防のビジネス化
予防のための機器や機能性食品の販売も、なかなか続くものではありません。他方、自分を理解してくれ、楽しさもある集まりには希望があります。
実際、当社で取り組んでいるウォーキングの会員は継続率も高く、客単価も上がっています。最初は9000歩を歩くこと自体が目標なのですが、体重や体脂肪率が減り始めたり、筋肉量が増えると嬉しくなります。仲間と歩数を競うことでモチベーションも高まります。
予防への関心が高まると、その結果を知りたくなります。それが疾病の早期発見や慢性疾患の進行予防のレベルになると、フィジカルアセスメントが必要になります。
日々の血圧・血糖値管理(モニタリング)、心音・呼吸音、尿タンパクなどに加え、薬物の血中濃度の測定などに薬剤師が関与すれば、「患者の努力を形にして見せる」ことができます。これが、次のやる気を引き出すのです。
もちろん、現状においては薬剤師ができる測定には限りがあるかもしれません。しかし「この数値ならば一度受診することをお勧めしますよ」と言うことに問題があるでしょうか。
私たち薬剤師は、診断をするのではなく、リスクのある人を見出し、そして導くところに最大の価値があるのではないでしょうか。
予防は、医療費削減はもちろんのこと、QOL向上にも貢献します。だからやりなさいという上から目線ではなく、楽しく続けられる仕組み作りが鍵になります。