【日本高血圧学会】ディオバン問題の再発防止策で提言

2014年1月1日 (水)

薬学生新聞

不正防止に向け委員会設置へ

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 日本高血圧学会は、ノバルティスファーマの高血圧治療薬「ディオバン」の臨床研究をめぐる問題の今後の防止策として、「研究者の倫理的資質向上システムの構築」「論文を公正に科学的に吟味する能力の向上」「臨床研究者認定制度の導入」「生物統計・臨床疫学等の専門家の育成」――などを提言した。これらの提言は、昨年10月24~26日に大阪国際会議場(大阪市北区)で開かれた第36回同学会総会の「日本における臨床試験のあるべき姿を考える」をテーマとしたシンポジウムでの総合討論を取りまとめたもの。総合討論では、医学教育・日常臨床における医学生・臨床医と製薬企業の関わりについても報告された。同学会では今後、臨床研究不正防止委員会を設置することも明らかにしている。

 ディオバンの臨床研究をめぐる問題のこれまでの経緯を振り返る。

 まず、2002年に東京慈恵会医科大学が中心となり、ディオバンと従来の降圧剤の効果を比較する大規模臨床研究を開始。その後、千葉大学、滋賀医科大学、京都府立医科大学、名古屋大学においても、大規模臨床研究が実施された。

 12年に京都大学の医師が、東京慈恵会医科大学、京都府立医科大学および千葉大学が中心となって実施された研究論文について、血圧値にかかる疑義を指摘。同年12月以降、日本循環器学会誌、欧州心臓病学会誌等が相次いで京都府立医科大学の関係論文を撤回した。

 13年5月27日には、今回の研究に、当時ノバルティスファーマの社員が大阪市立大学非常勤講師の肩書きで関わっていたとの指摘があったことから、厚生労働省は、ノバルティスファーマから事情を聴取した上で、事実関係の調査及び再発防止等について、口頭で指導。以降、関連大学に対しても調査等の実施が指導された。

 その後、同年7月11日に、京都府立医科大学が内部調査の結果を公表。同29日には、ノバルティスファーマが内部調査の結果を、翌30日には東京慈恵会医科大学が内部調査の結果を公表した。

 主な調査結果としては、京都府立医科大学ではカルテ情報と論文作成に用いられた解析データ等を比較したところ、血圧値や狭心症等の合併症の発生数等のデータの操作が認められた。また、東京慈恵会医科大学では、カルテ情報と論文作成に用いられた解析データ等を比較したところ、血庄値などのデータの操作が認められた。ノバルティスファーマは、第三者による関係者への聞き取り調査等を実施したが、元社員による意図的なデータ操作や改ざんを行った証拠は発見できなかったとしている。

 今回、日本高血圧学会で提言された防止策の1つである「生物統計・臨床疫学等の専門家や、メディカルライティングの育成」は、公的またはそれに準ずる組織が、スポンサーとは独立した形でプロトコール作成から統計解析・論文作成まで、一貫して業務に携わるシステムの構築を目的としたもの。

 シンポジウムでは、GCPに対応しない臨床試験・研究において質および信頼性(公正さ、モニタリング、データ管理統計解析など)の確保には、臨床試験企画段階から複数の臨床疫学・生物統計学の専門家の参画が必須となることが改めて確認された。

 シンポジストの有馬久富氏(シドニー大学ジョージ国際保健研究所)は、自らが所属する同保健研究所の臨床試験の質を高める取り組みについて言及。臨床試験の不正をモニターするための「標準業務手順書の作成」や「試験の企画・実行・データ管理・統計解析・論文作成はスポンサーと独立して行っている」ことを紹介した。

 続いて、植田真一郎氏(琉球大学大学院医学研究科臨床薬理学)は、循環器領域における医師主導研究の問題点を指摘。「診療上のバイオマーカーの目標値の妥当性の不確立」や、「製薬会社の関心が新薬や高価な薬剤のプロモーションにあるため、古く廉価な薬剤は無視される」など現状の問題点を列挙。その上で、「リスク・オブ・バイアスを認識して、目的に合った倫理的にも問題のない実現性のある研究デザインの作成」の必要性を呼びかけた。

 漆原尚巳氏(慶應義塾大学薬学部医薬品開発規制科学講座)は、「臨床研究におけるエンドポイントの取り方が、試験結果を大きく左右する」と断言。「ソフトなエンドポイントを設定するほど、主治医の主観が入りやすくなる」と解説。「良い結果を得るために、途中からエンドポイントを変更することは絶対にあってはならない」との考えを強調した。

奨学寄付金のあり方に課題‐学生からの「利益相反」教育も

 製薬メーカーの立場からは、稲垣治氏(日本製薬工業協会)が発言。「アカデミアへの報酬は、臨床研究の対価とすべきものを、ディオバン問題では寄付として支払われていた」と問題点を指摘。「企業と医療機関の透明性がより明確になるようにさらなる努力を重ねていきたい」とした。

 臨床研究費が営業部門から出ている現状についても、「製品を使った試験の依頼は、営業部門から切り離して科学的に判断できるように推し進めている」と自社の取り組みも報告した。

 宮田靖志氏(北海道大学病院卒後臨床研修センター)は、「製薬企業と適切な関係を保って臨床試験を行うには、医学教育・日常臨床における医学生・臨床医、オピニオンリーダーと製薬企業の関係にまで遡って考える必要がある」と指摘。

 さらに、今回の問題の背景の1つに奨学寄付金の問題が挙げられているが、「医師、製薬企業担当者の中には寄付金のあり方に疑問を持つ声はあるが、適正化について積極的な議論はなされていない」と現状を指摘した。

 医学教育・日常臨床における医学生・臨床医と製薬企業との関わりについては、以前から米国において様々な研究がなされ、両者の密接な関係とその影響が報告されてきた。

 日本では、宮田氏らのグループが09年と10年に調査研究を実施。ほとんどの医師が製薬企業担当者と面会し文具の販促品を受け取り、約90%が製品説明会で出された弁当を食べ、製薬会社が支援する勉強会に参加していた。さらに、80%が院外での勉強会出席のために交通費支給を受けていることも明らかとなった。

 12年に実施した医学生への調査も同様の結果で、これらは臨床実習後に有意に増加していた。ただ、「このような製薬企業との関係は、医学生や医師の行動に影響を与えるとの報告はあるが、明らかなエビデンスは示されていない」と報告した。

 加えて、「製薬企業からの働きかけに自分は影響されない」と考える医師が61%いるのに対し、「自分以外の医師も影響されない」と考えるのは16%しかいないと報告。医学生でも同様の報告があるという。

 宮田氏は、「製薬企業との関係については、自分に都合よく考えたり、自分のバイアスには気がつかないなど心理機構が働く」と指摘。その上で、「医学生の利益相反の教育はもちろん、医学生や臨床医、オピニオンリーダーと製薬企業の関係を見直す必要がある」との見解を示した。



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