【精神科における薬剤師業務】第1回 精神科病院の現状と薬剤師を取り巻く環境

2014年9月1日 (月)

薬学生新聞


さわ病院薬剤部
天正 雅美

天正雅美氏

 「精神科病院ってどんなところなのだろう?」「精神科病院での薬剤師ってどんな仕事をしているのだろう?」、多くの薬学生が疑問に思っているのではないでしょうか。この疑問に答えるため、3回にわたり精神科における薬剤師業務について、具体的な症例を挙げながら述べてみたいと思います。まず第1回は、「精神科病院の現状と薬剤師を取り巻く環境」について述べることにします。

精神科を取り巻く現状

 2011年に、精神疾患ががん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病に加え「五大疾病」になったことはみなさんご存じのことと思います。その背景には、精神疾患の患者数の増加があり、11年の調査ではその患者数は320万人とされています。中でも自殺の原因となり得る気分障害や超高齢化社会に伴う認知症の患者数の増加は著しく、今後しばらくはこの傾向が続くと思われます。一方、精神科病院の入院患者数については、30万7000人とゆるやかに減少し、また、一般的に長いと言われている平均在院日数は11年調査では298日と短縮傾向にあります。しかし先進諸国の18.1日に比べるとまだまだ長いのが現状です。

精神疾患とその治療の特徴

 精神疾患の治療には薬物療法以外にも精神療法や行動療法などがありますが、その中心となるのはやはり薬物療法です。最近では各学会から精神疾患ごとの治療ガイドラインが発表されていますが、診断や効果判定の基準となる血液検査などのバイオマーカーはいまだに存在していません。そのため投与量の決定には患者の主観的評価と、医療者側の客観的評価に頼らざるを得ないのが現状です。加えて、薬剤に対する反応性や副作用の発現には大きな個人差が見られます。

 これは治療目的で投与されている向精神薬が、患者の症状を改善する一方で、副作用などの不利益を与える可能性があることを意味します。これが精神科の薬物療法の難しさであり、その処方内容に薬剤師が困惑してしまう原因の一つでもあります。

 統合失調症や気分障害など多くの精神疾患は、糖尿病や高血圧症などと同様に慢性疾患ですから、長期間の継続した服薬が必要です。しかし、精神疾患患者の多くは、自分が病気であるという認識を持つことが難しく、服薬を自己判断で中断してしまうケースが多く見受けられます。

 服薬中断により再発のリスクが高くなること、また再発を繰り返すことによって症状が重篤化し、治療抵抗性へと移行する可能性があることが、これまでの多くのエビデンスにより示されています。このため、よりよい医療を提供するためには患者自身の治療参加が必須であり、患者のアドヒアンラスを維持することが、再発・再入院に対する一番の予防策といってもよいでしょう。

精神科病院における薬剤師の役割

 薬剤師の役割として初めに挙げられるのは、どの診療科においても安全な薬物療法の提供です。しかし、精神科での薬物療法では、薬物療法の効果を示すバイオマーカーが存在せず、薬剤に対する反応性や副作用の発現に個人差があります。この難しい治療条件の中で、安全な薬物療法を進めていくには、薬剤師の役割が重要となってきます。

 薬剤師は、まず患者の訴えに耳を傾け、症状の変化や副作用のモニタリングを実施し、その得られた情報を薬の専門職の観点から解釈します。そして自分自身の見聞や判断のみならず、患者の家族,他職種からも情報を収集し、薬物療法のリスクとベネフィットを考慮に入れ、よりよい薬物療法を医師に提案します。

 一方、患者に対しては、服薬指導を通し、患者の服薬に対する理解を得ることで服薬アドヒアランスを維持させ、長期にわたる服薬継続を支援します。

 現在、多くの精神科病院で、統合失調症の治療薬である抗精神病薬の多剤大量処方の単純化、適正化に向けた取り組みが行われています。

 精神科病院において多剤大量処方が行われてきた背景には、精神科病院を取り巻く歴史的背景があるのですが、精神疾患患者の早期退院、社会復帰が求められている現在でも、いまだ精神科病院において多剤大量処方の患者が多く存在します。

 多剤大量処方は過鎮静や錐体外路症状、重篤な身体的副作用を引き起こすだけでなく、副作用が発現した時にその原因薬剤の特定ができないという問題点があります。さらには、副作用の発現が患者のアドヒアランス低下にもつながります。

 この処方適正化において中心的な役割を担っているのが薬剤師です。薬剤師がこの業務を始めたころは、医師からの反発もありました。しかし、地道にこの業務を続けていった結果、今では医師から、処方の減量方法について相談を受けるようになり、処方の単純化、適正化に向けた提案が薬剤師の仕事となりました。

これからの精神科薬剤師の活動

 最後に、これからの精神科薬剤師の業務について少し触れてみたいと思います。精神疾患患者は、これからも増えていくことが予想されます。一方で、精神科の病床数は減少傾向にあり、今後は多くにの精神疾患患者を外来、地域で支えていくことになります。

 つまりこれからの病院薬剤師は、患者の再発、再入院を予防し、地域で支えていけるよう、病院の中だけではなく退院後も継続したかかわりが必要です。具体的には、保険薬局と連携し患者情報を共有した上で、病院薬剤師が自ら、患者を訪問し薬剤管理指導を行うことが求められると考えます。

 精神疾患患者が増える一方で,それを支える医療や社会サポートは決して充実していると言えません。これまで多剤大量処方や長期の在院日数という問題点を解決できなかった現状を考えると、医師も薬の使い方や治療方法に悩んでいることがうかがえます。患者の急増により、医師の診察時間の短縮も懸念されます。

 このような状況の中で、私たち薬剤師はどのような役割を果たせるのか?今、その真価が問われていると言えます。

 次回以降は、精神科薬剤師の業務の具体例を紹介します。



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