【薬局・ドラッグストアの薬剤師の未来予想図】第8回 地域包括ケアシステムにおけるDgsの役割

2014年9月1日 (月)

薬学生新聞

サンキュードラッグ代表取締役社長
平野 健二

平野健二氏

 今後のわが国の医療介護のあり方について「地域包括ケア」という概念が提唱された。従来は病院、介護施設……といった区分別の施策が中心であったのだが、新たなシステムにおいては、ある地域に住む人の「医療」「介護」「生活支援」「予防」「住まい」を横串にして包括的に考えることになっている点が新しい。対象はほぼ中学校区に該当する人口1万人単位で、いかにその中で全体を完結させるかがテーマとなる。

医療介護は自助・互助視野に

 運営主体は市町村であり、その中に地域ケア会議を置いて、市町村ごとにあり方を考えることになっている。このような仕組みに至ったのは、日本各地であまりにも人口動態(年齢構成・増減等)の状態が異なる上、医療介護の資源(病院等のハード+サービス+人材)に差があり、国が均一に考えることが不合理になったことが第一に挙げられる。

 一方、この仕組みの中では、「公助」「共助」「自助」「互助」という概念が提言されている。「公助」とは税金で援助することであり、福祉を意味する。「共助」とはお互いに出し合った資金を必要な人・場面に提供することであり、医療、介護等の保険によるサービスを意味する。

 ここまでは従来の政策の域を出ないが、ここからが興味深い。「自助」とは、必要に応じて民間が有料で提供するサービスを買いなさいという意味である。すなわち、医療、介護その他、地域包括ケアで提唱されるサービスは、もはや天から降ってくるものではなくなったということを意味する。

 さらに「互助」とは、家族や地域で助け合いなさい~その仕組みを作りなさいという意味で、よく言えば「絆」の回復であるが、自助と併せて、ある意味、公のサービスですべてを面倒見ることはできなくなりましたという宣言でもある。1000兆円に上る公共セクターの借金や今後の医療・介護費用の増大予想が、この地域包括ケアの裏側にあることがにじみ出ている。

 従来、医療や介護の世界は生命を預かり、金に替えられないのだから民間企業には任せられないとされてきた。しかし実際には、現行システムの中でも保険適用になる治療法とそうでないものがある。ますます財源が厳しくなる中では、延命治療や助かる確率の低い治療よりも、まだまだ生きていく可能性の高い人へ財源が振り向けられるケースも出てくるだろう。それは「誰にどこまでお金をつぎ込んでよいか」という社会的コンセンサスなのである。

民間に期待される“全体最適”

 一方、民間企業が「営利追求」であるがゆえに社会性を犠牲にするというのは、経営学では古い考え方になってしまっている。良い企業とは社会に役立つことをいかにうまくやるかを形にできた企業であるというのが、今の考え方である。むしろ民間企業は、継続顧客と利益がなければサービスの継続を追及できないがゆえに、「利益を問わない~コストが野放図になりがち」な公共セクターよりもレベルと効率の高いサービスを提供することが期待される。

 警備保障会社のセコムが介護サービスに乗り出したのは、同社が自社のサービス内容を「警備」ではなく「15分以内にどこにでも駆けつけることができる」と定義したからだ。宅配業者やネット販売業者は、個々の家庭に迅速にモノを届ける能力を持っている。

 ドラッグストアは、調剤薬と共に、在宅患者が必要とする様々な物資を、身近な店舗から供給する能力を持っている。ヘルパーさんは定期的に要介護家庭に訪問し、患者との接点を持っている。ほかにも様々な民間サービスが存在するが、公共セクターは残念ながらどこがどのような可能性を持っているかを知らない。知っていても、「公平・平等」の論理が優先して、利用者サービスを最優先にしにくい。

 民間は、自らの生き残りをかけて最もレベルと効率が高くなるパートナーを自ら探し、コラボレーションして提供する力を持っている。行政サービスにおいて「コスト」とされてきたものが「利益」に変わる。自助において期待されるのは、まさにこういうことである。

 薬局が提供するサービスを従来の枠組みで考えていてはならない。何かをすると点数が付くからやるのではなく、
何をすれば患者やパートナーである医師、看護師、ヘルパー、宅食業者等々の役に立つのかを併せて考え、全体最適を求めていかなくてはならない。

今後の30~40年見据え役割追求

 このようなチャンスは、実は非常に大きく、バリエーションに富んでいる。一般的には、地方の小さな自治体において、地域包括ケアに投入できる資源(人、モノ、金)は限られている。例えば健康診断の受診率を上げることは、疾病予防と健康寿命の延伸に大きな効果があると言われているが、多くの自治体では全ての人に健診を受けてもらうコストも払えず、身近な環境に健診サービスを提供するインフラもない。

 ドラッグストアで採血等による簡易健診を行うことで医療の入口としての機能を果たすことができれば、早期発見・治療に結びつく。来店の都度、血圧を測り経時記録することは、数カ月に一度、医療機関で測るより意味があるかもしれない。完全でないにせよ、今の状況を一歩も二歩も進められる機会はふんだんにある。医療費抑制を考えれば、リフィルの導入も近い。求められるのは薬の知識以上に、病気のことであり、患者のこととなる。予防や慢性疾患に対する長期ケアは、わざわざ行かなくてはならない施設ではなく、日々の買い物の場でもあるドラッグストアという「ついで」の場で提供してこそ継続できる。

 薬剤師も、今認められている範囲で考える時代ではない。薬学生諸君が薬剤師として生涯を全うするまでの今後30~40年を見据え、広く医療・介護全体の中で果たすべき役割を見つけ、必要な知識や技能を身につけなくてはならないのだ。



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