【薬局・ドラッグストアの薬剤師の未来予想図】第9回 進化するDgSの現状と未来

2014年11月1日 (土)

薬学生新聞

サンキュードラッグ代表取締役社長
平野 健二

医療含め総合性必要なドラッグ業界

平野健二氏

 1980年代以降、伸び続けたドラッグストアも、1万7000店を超えるに当たり、さすがに停滞期に入ったように見える。だが、将来のある学生の皆さんには、もう少し大きな視点で考えるクセを付けていただきたい。

 ドラッグストアに限らず、あらゆるビジネスモデルは時代の要請に応じた姿を取り、それをうまく実現できた企業が成功するのである。その点、ごく最近までのドラッグストアの課題は、生まれ続ける新たな商品をいかに低コストでお届けするかであり、もう一方ではマンパワーに頼った推奨販売で粗利益を稼ぐことであった。背景には、伸び続ける人口と満たされない市場、メーカーには大量生産によるコスト低減があった。家電やIT機器など、一定以下の価格になった瞬間に需要が爆発し、市場が拡大するのは、多くの人が体験してきたことである。

 人口が減り、高齢化が進むこれからの日本で同じことが起こると思ったら大間違いである。紙や洗剤といったコモディティ商品は、価格が下がったからといって、需要は増加しない。むしろ売価が下がった分だけ市場は縮小する。人口減少に加え、高齢者はモノの消費量が少ないことが多いので、さらに縮小は加速する。

 店舗数の増加による市場飽和や高齢化によるモビリティの低下から、1店舗当たりの商圏はどんどん縮小する。
安くてもたくさん売ればよいというモデルは成立せず、近隣(半径500m)の商圏(消費支出)で生き残れる店が「強い店」となる。この際、物販だけでなく、医療を含めた総合性を持つ店が、より多くの消費支出を獲得できることは言うまでもない。

薬剤師にも求められる「総合性」

 店舗に求められる機能も変化する。前回の「地域包括ケア」でお話したように、「互助」という概念が復活する。店舗は、単なる買い物の場ではなく、コミュニティそのものとなる。そこで出会い、そこで交流し、結果としてそこで買い物をする。「安さ」以上の来店目的が出現するかもしれない。来店目的の増加は、接点の増加である。売上の増加要因でもあろうし、医療目的では継続的接点の獲得手段ともなり得る。

 狭小商圏(近い)という概念と、最寄の環境で一人ひとりの日常のケアを行っていくという考え方は、表裏一体である。リフィルが実現すれば、薬局にとっての「地域」は門前医の診療圏ではなく、都市部における500m(地域包括ケアの範囲)に収束する。近いからこそ日常の買い物やその人の全ての処方箋をそこに集められる可能性が高くなる。予防や慢性疾患の継続的ケアは、手間隙かけて続けてもらいにくいので、買い物等の「ついで」の場でそのような管理ができれば、実効性が高くなる。

 開業医が、今後専門性よりも総合性が求められるのと同様に、薬局薬剤師も総合性が求められるようになる。「専門薬剤師」の方が響きは良いのだが、圧倒的に多く求められるのは総合薬剤師であり、その仕事は日本の医療を守る上で極めて重要なものとなる。また、薬剤師は薬局における医療チームのリーダーとしての役割を期待される。

DEEP DATAの有効利用が重要に

 ドラッグストアはリアルの存在であるが、今後、ネットやICTの利用は極めて重要なものとなる。BIG DATAという言葉をよく耳にするが、ある一人の人について網羅したものをDEEP DATAという。大きなサンプル数から効果的な治療法を発見するなら、利用するのはBIG DATAかもしれないが、ある一人の人をケアするために必要なのは、DEEP DATAである。処方歴はもちろん、OTC、健康食品の購買歴、バイタルデータなどを一元的に管理できれば、薬局は地域の健康拠点になれる。

 ネットとは、ネット通販の事ではない。広範なネット技術のことである。ネットの有利性について、在庫や作業を集中することによるコスト削減については多くの人が認識しているが、ウェアラブル端末の普及やネット技術の応用により、バイタル等のデータ獲得の接点が、実はどこでもよいという時代になりつつあることに注目すべきである。

 データ獲得や分析に目を奪われていると、最も重要なポイントを見逃してしまう。大切なのは、データを、いかに必要な時、必要な人に適切に開示~利用できる体制を構築するかである。開示すべき最初の人は、本人である。体重管理を意図する方は、その日食事をコントロールできたとか運動できた時には、喜んで体重計に乗るが、食べ過ぎた日には、乗りたがらない。このように、「測定する」行為と「ある目的のために行動する」行為はセットになっていることが多い。本人への開示は、まずモチベーションに影響する。

 次に専門家への開示である。ネットで「Aという本を読んでいる人はBという本も読んでいます」というのをリコメンドと言うが、これは統計的な事実を利用して意識の顕在化を図っているだけである。仮に薬局で「パブロンを買っている人はルルもよく買っています」と告知を出したら、どう思われるであろうか。これが真実であるとしても、馬鹿にされるだけである。ネット通販で本を買う時と、医療においては、リコメンドの質が異なることに気付くべきである。専門家がそこに介在し、その人にとっての必要をピンポイントにアドバイスしてこそ、医療におけるリコメンドが成立する。このようにデータは、誰が何の目的に用いるのかを意識して収集・加工・提供しなくてはならない。

 これからのドラッグストアは、リアルの側面では日常性、網羅性を、バーチャルの側面では接点の増加やコスト低減を図りつつ、トータルで生活の改善に資する存在になっていくのである。



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