【精神科における薬剤師業務】第2回 統合失調症患者との関わり

2014年11月1日 (土)

薬学生新聞


笠松病院薬剤科
谷藤 弘淳

精神科医療の現状と展望

谷藤弘淳氏

 日本の精神科医療は、歴史的背景もあり入院治療を中心として行われてきましたが、今日では入院から地域医療へ大きな変革を期待されています。このためには急性期患者の早期退院と、長期入院患者の退院促進が課題に挙げられています。

 現在、精神疾患入院患者の57%と最も多くを占めるのは統合失調症であり、その治療の中心は薬物療法です。患者の退院を促し、地域で生活をするためには安全で適正な薬物療法の提供が必要であり、薬剤師が重要な役割を果たします。

服薬アドヒアランス向上へ

 統合失調症における再発・再入院の最大の原因は服薬中断であり、それは50~70%にも及ぶという報告もあります。この服薬中断に影響を与える因子に服薬アドヒアランスがあります。

 服薬アドヒアランスに影響を与える要因は、効果・副作用、病識、患者・医療者間の信頼関係など様々です。薬剤師は薬物療法の面から支援を行いますが、医師の役割を考えると、薬剤師はより安全面を重視してみていきます。

 統合失調症治療の中心になる抗精神病薬には錐体外路症状、性機能障害、体重増加など様々な副作用があります。また併用される機会も多い気分安定薬(抗てんかん薬)、抗不安・睡眠薬、抗パーキンソン薬などの副作用にも注意が必要になります。

 このような薬剤についてモニタリングを行うのですが、薬物血中濃度や体重、血糖値やコレステロール値など、数値で表されるものについては事前に確認し、その検査データがなければ医師に検査オーダーの依頼を行う場合もあります。

 しかし、錐体外路症状や過鎮静など数値で表しにくい副作用は、患者との面談時に評価を行います。患者の訴えに耳を傾けつつ、話し方や表情、身振り、服装など、その様子を注意深く観察し、その場で得られるできる限りの情報から評価します。

 また、フィジカルアセスメントの一環として、筋肉の強張りをみるために、患者に説明・同意を得た後、患者の腕の曲げ伸ばしをして評価する事なども行っています。これらの情報をもとに薬物療法の評価を行い、問題があれば医師に処方を提案します。

 さらに、患者に対し疾患や治療の必要性の理解、薬の効果や副作用を知ることを目的に心理教育も行います。

 これらの業務を継続することにより、患者・医療者間の信頼関係を構築し、服薬アドヒアランスの向上につなげていきます。

 最近では、処方の最適化を行う中で、薬剤師から治療薬剤の選択肢を患者に提示し、患者が治療薬を決定、それを医師に報告する、SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)の概念にも近い方法を行う機会が、徐々に増えつつあります。

 その一例を次に紹介します。

処方を患者と決定する

症例:入院中の統合失調症・40代・男性

 薬剤管理指導の中で、精神症状は安定していたが、体重増加や脂質異常、倦怠感などの副作用が観察されたため、医師に抗精神病薬の減量を提案し、実施した結果、倦怠感は改善しました。しかし、次には性機能障害の問題が表出してきたため、医師と抗精神病薬の減量や切り替え、それに伴うリスクなどについて話し合いました。

 医師は、筆者と患者との間で処方を決めるよう話したため、患者と現在の問題点や処方について話し合いました。今後の治療の選択肢として「以前の処方に戻す」「現在の薬剤を減量する」「1~2週間様子を見る」「他の薬剤へ切り替える」方法を提示し、各々についてリスク・ベネフィットを説明しました。また、切り替えの場合に候補となる各薬剤の特徴についても情報提供を行いました。さらに、患者が選択した方法の結果、不都合が生じた場合には処方を戻すことなども可能であることも約束しました。

 筆者は、患者が性機能障害を重く捉えていたため「以前の処方に戻す」方法を選択すると予想していました。しかし、患者は「他の薬剤への切り替え」と、より積極的な方法を選択しました。すぐに医師へ報告と共に、薬剤切り替えのスケジュールを提案、了解が得られたため、患者に変更スケジュールも含め、再度説明を行いました。

 その後、患者と副作用を慎重に確認しながら切り替えを進めた結果、性機能障害は改善し、体重も減少、コレステロール値も正常範囲になりました。患者は「今の薬は合っていると思います。前は怠くて、朝すっきりとしなかった」と話しました。

 この手法を用いたことで、患者はより主体的に治療に参加するようになり、現在の状態について表情豊かに話すようになりました。患者・治療者間の信頼関係構築を感じることができました。

精神科チームの一員として

 以上のように、薬剤師が精神科医療において、その職能を発揮するには、処方箋上の情報のみで判断するのではなく、患者をよく見ることが大切です。

 実際の症状や副作用だけでなく、患者の抱えている不安や悩みを注意深く捉えること。また、今に至る生活歴、家族や看護師からの情報なども含め判断しなければ、最適な処方提案はできないと考えています。「この苦しみは、なった者にしか分からない」と話す患者もいます。これに少しでも寄り添える薬剤師が臨床の場で必要です。

 私が現在、精神科に身を置いているのは、学生時代の実習で精神科を経験したことが大きいと思います。皆さんも実務実習等で、精神科病棟に足を踏み入れ、患者と接する機会を得る事をお勧めします。



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