処方箋の医療用医薬品を主体とする製薬企業は、新薬を開発し承認取得後に医療機関へと販売するビジネスモデルだ。1990年代以降、高血圧症や脂質異常症などの生活習慣病治療薬で1000億円以上を売り上げる薬剤を多く開発し、大きな収益源となっていた。だが近年は癌・中枢神経系疾患にターゲットが移り、開発が難しくなっている状況にある。各社は得意の疾患領域に絞って人材や資金を集中投入させた自社開発に加え、他社や大学との共同研究を進めたり、卓越した創薬技術や有望な開発品を持った会社からライセンス権獲得、さらには買収するなどして外部資源を活用した手法も増える。その一方、既存薬を出発点に患者満足度を高めた薬剤を開発し差別化を目指す動きもある。
かつて新薬開発に必要な時間やコストは、「10年、100億円」と言われた時期もあったが、「20年、1000億円」と言われるほどに負担が増している。有機合成が可能な低分子化合物を医薬品に用いるのが主流だったが、低分子化合物で活性を示すことができない標的分子を攻略するために、動物細胞を培養して生産するバイオ医薬品へとシフトしている。世界売上上位品目にバイオ医薬品が並ぶ一方、低分子医薬品に比べ、製造や品質管理に莫大な費用がかかっている。
各社の開発領域を見ると、特に「中枢神経疾患」と「癌」に経営資源を集中させているのがわかる。開発競争が激しいアルツハイマー病は、病態メカニズムが解明が進んでおらず、現段階では有効な治療薬も限られる。患者と健常人から組織を取り、遺伝子の違いを調べたりして、病気が起こるメカニズムを検証し、薬剤が作用するターゲットとなる“バイオマーカー”を探すアプローチも行われている。もはや、製薬企業の知見だけでは攻略できる疾患ではなく、大学や研究機関、製薬企業数社が参画して治療法開発を目指すコンソーシアムも設置されている。
既存薬改良し、付加価値向上
一方、世の中にない新規化合物を生み出すのではなく、既存医薬品の剤形を変更したり、化学構造を修飾し効き目を長くしたりして付加価値を高める研究開発も進んできている。最近、注目を浴びているのが、既存医薬品や開発中止化合物の薬理効果を調べ、違う病気の治療薬として可能性を見出す「ドラッグリポジショニング」という手法だ。新薬開発に比べると、大幅に安いコストで済み、開発期間の短縮が可能だ。
研究成果だけでは薬を開発することはできず、やはり医師や患者の視点に立った見方が必要になる。治すだけでなく、「クオリティ・オブ・ライフ」(QOL)に配慮した薬剤は臨床現場で歓迎される。痛みを軽減させるための注射剤から経口剤への変更、投与回数が少ない薬剤、苦みをマスキングした薬剤、こうした医療ニーズを汲み取った医薬品開発も最近のトレンドといえるだろう。
医薬品の特許満了後に先発品より安い価格で提供するGE薬企業も、水なしで飲める口腔内崩壊錠など製剤工夫を医療従事者や患者に訴求している。