【精神科における薬剤師業務】第3回 精神科における薬剤師の役割

2015年1月1日 (木)

薬学生新聞


草津病院薬剤課
別所 千枝

別所千枝氏

 ここまで2回にわたり、精神科における薬剤師業務を述べてきましたが、最後の3回目は、著者自身が精神科病院で働くきっかけになった事例や、現在実際に行っている病棟薬剤師業務の事例を挙げ、精神科における薬剤師の役割について述べてみたいと思います。

総合病院での経験

 大学卒業後、著者は総合病院の薬剤部に就職しました。整形外科病棟を担当していた時の事例を紹介します。

 出会った10代の患者Aさんは、交通事故により脊髄損傷という重傷を負い、生涯歩行が困難な状況となっていました。将来の夢に向かって勉学に励んでいたAさんにとって、その事実は重くのしかかっていました。事実を知って以来は、抑うつ状態となり、リハビリが全く進まず、ふさぎ込む毎日が続きました。

 当時、当病院内には精神科がなく、整形外科の主治医は病棟担当薬剤師である著者にある指示を出しました。それは抗うつ薬の選択と用量を医師に対して処方提案することでした。今までよく知らなかった抗うつ薬の勉強をし、試行錯誤しながら処方提案を行い、それらが処方されると薬効の確認を必死で行いました。

 なんとか睡眠と食事はとれるようになったものの、Aさんに活気はなく、便秘と口渇の副作用が顕著に出現しているにもかかわらず、抗うつ薬の処方を継続していました。どうすれば抑うつ状態が良くなるのか、どんな抗うつ薬の使い方をすればよいのか、悩む日々が続きました。

 そんな時に入院してきたのが、両足を切断しながらも車いすで元気いっぱいの患者Bさんでした。同じ境遇にある二人は、病棟内でよく会話するようになりました。Aさんは次第に活気を取り戻し、リハビリを意欲的にこなし、あっという間に元気に退院していきました。気持ちもいつの間にか前向きな思考に変貌していました。著者を含む当病院のスタッフは、身体ばかりに目が向き、患者に寄り添い、不安や悩みを共に抱える、ということが抜け落ちていたことに気づかされました。

 この症例を機に、スティグマ(偏見)の多い精神疾患を生涯背負っていく患者の元で共に寄り添い支援する薬剤師になりたいと考え、精神科病院で働く薬剤師の道へと進んでいきました。

精神科病院に転職して

 精神科病院での病棟薬剤師業務に胸をときめかせて転職した著者は、精神科病院での現実を目の当たりにしました。それは、向精神薬の多剤大量処方、再発により再入院する患者の多さ、また精神科チーム医療における薬剤師の役割の少なさでした。

 当時の精神科病院では、薬剤師が病棟に出向き、患者に服薬指導をするということもまだ少なく、転職した精神科病院においてもそれは例外ではありませんでした。病棟に薬剤師がいること自体、まだ不自然な状況が存在する中、精神科チーム医療への挑戦が始まりました。

症例:40代男性・統合失調症の患者

 自分の意思を曲げることができず、興奮状態と器物破損行為を繰り返し、再入院を繰り返している患者Cさんの事例を紹介します。Cさんは処方薬を飲む量が多いと感じていました。退院すると自己判断で処方薬を中断し再発、再入院を繰り返している患者でした。

 病棟内の多職種カンファレンスで、Cさんはとても正義感が強く情に厚い人で、それによって不安も強く感じやすい人であることが分かりました。そこでまず、人として信頼してもらえるよう、全員で人間関係作りから始めることにしました。精神疾患を背負い続けることへの不安、苦しみ、薬への恐怖……薬剤師だけでなく、看護師、作業療法士など、多職種が同じ目的を持って患者に関わっていきました。

 Cさんが徐々に心を開きつつある中、各スタッフは少しずつ専門職の視点での関わりを増やしていきました。薬剤師としてCさんにできる薬学的介入、それは服薬を継続するための関わり、アドヒアランス向上を目的とした介入です。長期の入院期間中、時には興奮状態となり、向精神薬を多めに投与せざるを得ない時もありましたが、著者が説明をすると、「あなたがそう言うなら頑張って飲むことにする」と納得してくれるほどになりました。

 また薬学的介入として、主治医に対して副作用軽減のための減薬に関する処方提案を行ったり、患者と主治医の両方の意思が処方内容に反映するよう、両者の間に入り調整を行ったりしました。Cさんは、そんな多くのスタッフと共に入院生活を耐え抜き、1年半の入院期間を経て退院し、以来再入院はしていません。

 在宅へ移行したCさんは、能動的に病院薬剤師である著者の元を訪れ、服薬状況や近況を話されています。定期的になじみのあるスタッフと会話をすることは、患者の日々のストレスや不安を軽減できるのではないかと考えられます。さらにこの事例は、退院後も薬剤師という職種が継続して関わっていることが、患者の良好なアドヒアランス維持に役立っていると考えられ、医師から薬剤師の役割について評価されている事例の一つでもあります。

精神科における今後の薬剤師業務

 精神疾患には、他の身体疾患のようにマーカーとなる検査所見等はありません。そのために、多くの患者が不安やスティグマを抱きやすく、治療への同意も得られがたいといえます。また、精神疾患は薬物治療が必須であり、中断による再燃は患者の人生を大きく左右します。現在では、精神科病院においても各専門職によるチーム医療が主流であり、特に薬物治療に関する事項は、薬剤師に任せられた大きな役割です。最適な薬物治療を提供するには、薬効や副作用の評価だけではなく、患者の生活歴、家族歴、退院後の服薬状況など、患者の生活背景全てに介入し、患者視点での支援をすることが、精神科における薬剤師業務と考えています。

 Cさんの事例のように、在宅へ移行後も継続して薬剤師が関わることで、良好なアドヒアランスを維持できるケースもあります。今後は、薬局薬剤師、訪問看護ステーションなど、在宅で関わるスタッフとも連携し、さらには入院中に慣れ親しんだ病院薬剤師が在宅で関わりを持つことで、患者にとって最適な薬物治療を提供できるのではないかと考えています。

 患者を中心に、多職種で多角的な視点から薬物治療を支えていくという、精神科でしか経験できない薬剤師のやりがいを、是非これから未来の薬剤師を支えていく皆さんにも経験していただきたいと思います。(おわり



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