(株)スギ薬局、日本薬剤師会一般用医薬品等委員会委員
藤田 知子
プロフィール
1991年京都薬科大学卒業後、京都本社の医薬品メーカーに入社。96年に退社後、97年から中部地区本社のドラッグストア企業で、管理薬剤師、店長に従事。その後、ドラッグストア企業としては珍しいDI業務を行う部署を立ち上げ、そこでの経験を踏まえ編纂した「ドラッグストアQ&A」(薬事日報社・05年4月)を出版。その後もメーカーでお客様相談室、学術業務の経験を経て、現在、スギ薬局で、調剤業務や一般用医薬品等販売などの業務に従事している。日本薬剤師会の一般用医薬品等委員会委員も務める。
業務変化の鍵となるOTC医薬品
薬科大学を卒業して、早くも四半世紀が経過しました。既に、平成生まれの薬剤師も誕生し、今更ながら時の早さを痛感しています。私が卒業した当時と比較すると、薬剤師の仕事や役割、そして環境までも随分様変わりし、日々、薬剤師としての業務の中でも、その変化を実感せざるを得ない状況です。一方で、一般生活者の方から見て、薬剤師の働きは、どのように変わったと感じているのでしょうか?おそらくは「病院の薬を薬局でもらうようになった。だから薬局が多くなったし、薬剤師の需要も増加しているらしい」という程度の認識ではないでしょうか。
医薬分業率の全国平均が70%に迫り、患者さんは、医師から処方箋交付を受け、薬局で調剤してもらう医療の流れが定着しました。最近では、薬剤師が在宅現場で薬剤管理を行う在宅医療も進んでいます。そうした中で、病院に通院している人や、在宅医療の利用者にしか、薬剤師としての存在、その働きぶりを示せていないのが現状かもしれません。
薬剤師は“街の科学者”といわれ、多くの健康相談で頼りにされていた存在でもありました。その意味で、今、薬剤師に必要なことは、健康な一般生活者、まだ医療を利用していない多くの方へのセルフメディケーションの提案、さらに、健康寿命の延伸をサポートしていくことではないかと考えます。
もちろん、私の学生時代には、想像もしていないことであり、今の時代にあっても学生の方にはなかなか実感しづらいことかもしれません。しかし、非常に重要な課題であります。このことは、後述しますが、こうした考えに至った経緯、私自身が、これまでに体験したことを通じてお話ししたいと思います。
大学卒業後、私は、医薬品メーカーに就職し、医療用医薬品開発にも携わっていました。その一方で、OTC医薬品の知識は少なく、両親から「総合感冒薬」を質問されても十分な回答ができない状態で、「薬の大学に4年も通ったのに売薬の風邪薬も知らんとは?」とあきれられていました。
その後、ドラッグストアの薬剤師へと職を変えました。そのころ、薬剤情報提供料の算定が定着し、薬剤師の仕事にフィーが付与されるようになり、急速に医薬分業も進展しました。さらにドラッグストアの台頭もあり、もともとOTC医薬品の販売や健康相談をしていた個人薬局が、処方箋調剤メインの薬局へと変化していくようになりました。
私は、調剤業務とOTC医薬品販売に従事する中で、あることに気付かされていきました。「最近の薬局は、処方箋がないと入れない」「ドラッグストアにはたくさん物があっても何がいいのか分からない」「高齢者の割合が増え、病気になる人も増える一方、その分、処方箋枚数の増加を待っているばかりで健康を提案できていない」「セルフメディケーションの実態がない」――などなどです。
地域住民の健康全てを担えるわけではないのですが、健やかに生活をしたいと望む(多くの人がそうですが)人のために、私たち薬剤師は何をすべきか?そして、そのためにお客さんの声、薬に対する質問にもっと耳を傾けようと考えました。
さらに薬だけではなく、健康食品や生活雑貨など、あらゆる商品の質問に対応しつつ、健康的で快適な生活を提案していく重要性を感じました。
健康を提案できる薬剤師に
国は「薬局・薬剤師を活用した健康情報拠点推進事業」を2014年度から予算化し、各都道府県レベルで事業が進んでいます。この事業は、「効果的な予防サービスや健康管理の充実により健やかに生活し、老いることができる」(=健康寿命の延伸)を目指し、その拠点を薬局としました。処方箋調剤中心の薬局ではなく、OTC医薬品の適正な使用に関する助言や健康に関する相談、情報提供を行うセルフメディケーションの推進を行う薬局とするものです。
一方で、昨年の改正薬事法の施行で、一般用医薬品とは別に「要指導医薬品」という、単なる情報提供だけではなく、法律で薬剤師による指導が必要と規定された分類が加わりました。将来的には生活習慣病治療薬などがスイッチOTCとして、この分類に入るものと考えられます。
現在は医療費の2~3割を負担するだけで済むため「全額を自分で支払うスイッチOTCは病院よりも高い!」と思っている人が多いようですが、疾患によっては、OTC医薬品の中から状況に合わせて安価な物を選択すれば、医療機関受診時よりも自己負担額を抑制できることもあるようです(※1)
既に始まっている「健康情報拠点事業」さらには「要指導医薬品」など、OTC医薬品の活用を国が後押ししています。その理由は、増大し続ける医療費の抑制です。重症化した段階で、医療機関で治療を受ける前の予防や、軽症のうちに対処するセルフメディケーションは、医療費抑制だけでなく、本人の身体的負担も軽減されます。それを、国内にある5万7000軒以上の薬局が担えば健康な人が増え、また健康寿命が延びるようになると思われます。
「今、なぜOTC医薬品なのか?」
これから、薬剤師の仕事、役割の変化を握るのは「健康情報拠点薬局」であり、そしてOTC医薬品なのです。
「総合感冒薬」の成分をある程度、薬理作用も含めて説明できますか?いろいろな商品の違いを説明できますか?どんな場合であれば受診勧奨しますか?一般の方に見える薬剤師になるには、そんな身近なところに対応できることが重要だと思います。
これから数回にわたるシリーズでOTC医薬品について、様々な視点から話をしていきたいと思います。
※1:14年4月9日付薬事日報記事から