【世界の薬学教育】第2回 大学教育と卒後教育

2015年5月1日 (金)

薬学生新聞


城西国際大学薬学部
臨床統計学教授
山村 重雄

大学教育と卒後教育を切れ目なく実施

 前回は、世界的な状況から見た日本の薬局、薬剤師の現状について紹介しました。今回は薬学教育の考え方について考えたいと思います。

 皆さんは、大学の講義などでGIO(一般目標)やSBOs(行動目標)という言葉を耳にしたことがあると思います。6年制の薬学教育にはコアカリキュラムが定められており、身に付けるべきGIOとそれに含まれるSBOsが設定されています。GIOに定義されたSBOsが全て達成できるとGIOに示された目標が達成できるコンセプトで組み立てられています。全てのGIOを達成すると薬剤師となるのに必要な知識・技能・態度が身に付けられる、と説明されていると思います。

 薬剤師になっても最新の医療環境に適応するには日々の研鑽は必須であり、卒後教育の重要性も理解いただけると思います。だとすれば、大学教育と卒後教育の関連性が重要になってくると思います。日本では大学での薬学教育と卒後教育は別々に考えられることが多いと思いますが、世界的には大学教育と卒後教育(CPD:Continuing Professional Development)は切れ目なく連続的に実施されるべきと考えられるようになってきています。

 その前に、薬剤師として働くことができるまでの手続きを紹介しておきましょう。国によって制度が違いますので一概に述べることはできませんが、大雑把にいえば、薬学部を卒業する→薬剤師の国家試験に合格する→なんらかの訓練を受けて登録薬剤師(Registered Pharmacist)となる→薬剤師として働き始める。→卒後教育を受けてスキルアップを図りつつ登録薬剤師を維持する、というシステムで薬剤師としてのスキルを高めていきます。

 もちろん、薬剤師になった後は自分でスキルアップするために努力する必要がありますが、努力しなければならないシステムになっていると言ってもよいでしょう。

 大学での薬学教育と卒後教育を合わせて薬剤師教育と考えるとき、積み上げ方式のGIO/SBOsの考え方では薬剤師教育全体をモデル化することは難しいと考えられるようになってきています。すなわち一つひとつの知識、技能、態度は備わっているが、必要な時に自ら考えて必要な行動がとれなければ、それらの知識、技能、態度は十分には役に立ちません。

 そこで、教育によってどのような行動をとることができるようになったかという、行動で評価するOBE(Outcome Based Education)という考え方が採用されるようになってきました。ここでいう行動とは、言われてできる(これは態度として評価されます)のではなく、自ら考えて適切な行動をとることができる行動、として捉えられます。

薬剤師として必要な総合的な能力‐「コンピテンシー」という考え方で

 このような、薬剤師として必要な総合的な能力(知識、技術、態度、行動)をコンピテンシーという考え方で、薬剤師教育をモデル化されるようになってきました。

 コンピテンシーという用語をインターネットで検索するとビジネス用語、あるいは職能教育の用語として紹介されていることが多いようです。薬剤師教育の中で使われているコンピテンシーという用語は職能教育における意味に近い感じがしますが、少しニュアンスが異なるようにも思います。

 コンピテンシーという考え方は、なかなか日本語になりにくいイメージで、
「能力」という使われ方をすることもありますが、「薬剤師として職能を発揮する必要がある場面に遭遇した時には、コンピテンシーが備わっていれば、指示されなくても、適切な行動がとれる」といった感じに近いかもしれません。コンピテンシーという概念は分かりにくいので、ここでは、コンピテンシー(能力)と表現することにします。

 薬剤師に求められるコンピテンシー(能力)は、薬剤師としての経験によって変化します。国家試験を合格したばかりの薬剤師と10年間の経験のある薬剤師では求められるコンピテンシー(能力)が異なるのは当然ですよね。コンピテンシー(能力)は様々な要素から成り立つと考えられており、薬剤師としての経験によって、具体的にできる内容は異なってきます。

 薬剤師のコンピテンシーは多岐にわたりますので、コンピテンシーフレームワークとして薬剤師教育をモデル化している国にはイギリス、オーストラリア、カナダが比較的よく知られていますが、これ以外にもあります。

「ニーズへの対応」が教育の質保証

 コンピテンシーとは教育の中で、どのような位置づけになっているかを紹介したいと思います。

 薬剤師の職能を考えたとき、コンピテンシー(能力)はどのように定義されるのでしょうか。に示すように、社会の中で薬剤師に求められるニーズがあります。国によって社会保障制度は異なりますから薬剤師に求められるニーズは国によって異なるでしょう。また、同じ国でも地域によって(日本でも都会と地方)異なるでしょう。そのニーズに応えるために、薬剤師が提供すべきサービスが決まってきます。サービスを提供するのに必要な「能力」がコンピテンシー(能力)になります。

 薬剤師(薬学生)に必要なコンピテンシー(能力)をつけるための教育が提供されます。その教育により地域ニーズに応えることができたかどうかにより教育の質保障を行う、というサイクルがFIPで提唱している薬学教育の考え方です。この「薬剤師教育が社会のニーズに応えられたかどうかで評価する」という考え方は前にお話ししたOBEの考え方と一致しています。

 では、コンピテンシーにはどのような要素があるか見てみましょう。これはカナダの例ですが、他の国でも大体似たような構成になっています。

1. 倫理、法律、職業上の責任

 薬剤師は法的で定められた範囲内で業務に従事し、専門職としての職能を発揮し、業務の職能規範(Professional Standard)、倫理コード、政策を守る。

2. 患者のケア

 薬剤師は、患者または他の医療従事者と協力し、患者の健康の目標を達成するために、患者の健康と薬に関わる要求を満たす。

3. 医薬品の供給

 薬剤師は、患者にとって安全で、適切で、正確な医薬品の供給を確保する。

4. 実務環境

 薬剤師は、安全で、効果的で、効率的な患者のケアを確保する目的のために実務環境を監督する。

5. 健康促進

 薬剤師は、患者、地域住民、人々の健康を増進し、健康な生活を送るために専門知識を使う。

6. 知識と研究への応用

 薬剤師は、安全かつ有効な患者ケアを確保することを目的とし、業務の範囲内でエビデンスに基づいた情報による判断をするために、関連した情報にアクセス、検索し、批判的に吟味し、適応する。

7. コミュニケーションと教育

 薬剤師は患者、薬局チーム、他の医療従事者、市民と効果的に情報交換し、必要であるとき、教育を提供する。

8. 職種内・専門職種間の協力

 薬剤師は、包括的なサービスの提供に協力し、資源を効率よく使用して、患者の健康の目標を達成するためにケアの継続性を確保するために、薬局チームと他の医療専門職と協力して働く。

9. 品質と安全

 薬剤師は、品質と安全を推進する政策、手順、活動を発展、実行、評価するために共同して働く。

 ――などが挙げられています。一つひとつのコンピテンシーには、さらに具体的な行動が定義されています。

 カナダでは、薬剤師が実務に携わるためのコンピテンシーと、テクニシャンが実務に関わるためのコンピテンシーが別々に定義されています。二つを比較すると薬剤師に求められているコンピテンシー(能力)はどのようなものかを考えるよい資料になると思います。インターネット経由で入手できますので読み比べてみてはいかがでしょうか?

薬剤師のコンピテンシー
http://napra.ca/Content_Files/Files/Comp_for_Cdn_PHARMACISTS_at_EntrytoPractice_March2014_b.pdf

薬剤テクニシャンのコンピテンシー
http://napra.ca/Content_Files/Files/Comp_for_Cdn_PHARMTECHS_at_EntrytoPractice_March2014_b.pdf

 次回は、教育の質をどうやって評価しようとしているかを考えてみたいと思います。



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