國本 雄介さん(札幌医科大学附属病院薬剤部)
プロフィール
2003年北海道薬科大学薬学部卒業。同年薬剤師免許取得。05年北海道薬科大学大学院修士課程修了、同年4月札幌医科大学附属病院薬剤部入職、現在に至る。
日本病院薬剤師会(日病薬)では感染制御、がん、精神科、妊婦・授乳婦、HIV感染症といった領域別に専門薬剤師および認定薬剤師制度を設けている。このうち指導的な立場に位置づけられるHIV感染症専門薬剤師は今年4月現在、全国で22人のみで、國本雄介さん(札幌医科大学病院薬剤部)も数少ない専門薬剤師の一人だ。國本さんは必要な学会発表、学術論文の投稿・掲載、認定試験など経て、2012年度に認定された。現在、同院のHIV外来の支援業務を担当、抗HIV薬の選択などの診療支援に加え、一生涯、薬を飲み続ける患者さんのため、服薬支援を行っている。
PBPMに基づき処方提案
札幌医大病院ではHIV領域のほかにもNST、糖尿病、感染症など様々な領域で薬剤師がチーム医療の一翼を担っているが、HIV感染症の薬物療法に関しては医師と薬剤師が共同で作成したプロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM:Protocol Based Pharmaceutical Manegement)が14年からスタートしている。
これは医師と薬剤師等が事前に作成し、合意したプロトコールに基づき、薬剤師が薬学的知識、技能の活用により、医師等と協働して薬物治療を管理すること。
HIV感染症患者に対してもチーム医療を進めてきた同院では抗HIV薬の選択に当たっては、チーム内のおよその役割分担が決まっていたが、14年、これを「プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の実践計画書」として、改めて文書の形に明文化した。以降、國本さんが主体的に患者情報を収集、それを基に一定のアルゴリズムに沿って医師に処方提案をしている。
國本さんは「もともと、処方提案のための情報収集や評価は、頭の中ではしていたことだが、それをはっきりと見える化した」という。医師をはじめとする医療チームとの信頼関係のもと、PBPMが生み出されたわけだ。
抗HIV療法は現在、3種類剤以上の有効な治療薬による多剤併用療法が原則になっている。日本では20種類以上のHIV感染症治療薬が承認されており、理論上の組み合わせは膨大になる。また、有効性・安全性に関するエビデンスが確立し、初回療法として推奨される組み合わせはごく一部だという。
そういう中でHIV感染症治療の焦点は、抗HIV薬の服用により、いかにウイルス量を生涯にわたってコントロールするかにかかっている。
國本さんは「人それぞれだが、飲み忘れてはいけないという認識は持っていると思う。ただ、実際には飲みたくても飲めない患者さんが存在し、その背景に精神疾患の合併症がある場合には、特に支援が難しい」とし、メンタルヘルスケアの重要性を指摘する。
重要なエビデンス作り
さて、抗HIV薬は高価であることに加え、生涯にわたり服薬するため、身体障害者手帳制度等の公的制度を活用するケースが多く、そのための申請には複数回の検査等を含めた手続きが必要になる。
そこで通常のHIV患者さんとの関わりは、実際の治療が始まる前から開始し、薬を飲む準備段階で最も色濃く関わるという。「患者さんは薬を飲み続けなければならないので、いかにうまく薬物療法のスタートを切れるかというところに重きを置いている」と語る。
そのためにも最初に患者背景の情報を収集する必要があるが、足りない情報や診療上の情報は、看護師や医師から収集し、効率良くかつ適切な治療薬を選択していくことになる。それが「國本さんの仕事」ということになる。
その後の治療効果の評価は、現状では「ウイルス量」の減少や、「CD4数」の回復をチェックすることとなっている。ただ、國本さんによると「保険適用上、TDMが認められていないが、将来的に血中濃度の評価を応用することで、個々の患者に最適な治療が提供できるものと期待している」とし、薬剤師が主体的にTDMに取り組むことで医師の負担軽減にも貢献したいとの思いを語る。
また、薬物療法が開始されたのち、次の診察時が一つのポイントになる。そこで最近、治療開始直後の受診日には、國本さんが医師の診察前に面談し服薬状況を確認している。服薬できない事情はあるか、気になる副作用はあるか、いつ、どういう症状かなどの問診結果を、自身の評価と共に、医師の診察前に電子カルテ上へアップしている。
心情的には「毎回面談したい」のだが、國本さん一人では限界がある。それでも約9割が院内投薬ということもあり、
投薬のタイミングで國本さん自身が払い出しをしつつ、患者さんとのコミュニケーションを図るよう努めている。
國本さんはこれらの業務による結果・成果をエビデンスとして取りまとめることの重要性を指摘する。最近ではケースレポート、あるいは多施設共同での調査研究などもまとめた。今後も薬剤師としてのエビデンス作りを積極的に進め、かつ発信に努めたいと語る。