【科捜研の仕事と薬学・薬剤師】その1 科学捜査研究所の役割

2016年3月1日 (火)

薬学生新聞


たかやま薬局、金沢市薬剤師会理事
公認スポーツファーマシスト
高山 成明

高山成明氏

 元石川県警察科学捜査研究所長。

 毛髪からの覚せい剤検出などの研究で薬学博士取得。39年間、薬学で学んだ知識を生かして薬物毒物鑑定を主に担当してきました。

 今は妻と2人で薬局調剤の傍ら、公認スポーツファーマシストとしてうっかりドーピング防止のためのお薬相談や講演、学校薬剤師として校内環境(大気・水質など)測定や危険ドラッグなどの講演をしています。


 科学捜査を実践する科学捜査研究所(科捜研)は47都道府県全ての警察(警察署ではなく警察本部、東京都は警視庁)に設置されている。DNA型鑑定・顔画像鑑定など担当の法医係、薬物毒物鑑定・繊維プラスチック類の工業製品など担当の化学係、交通事故解析・火災原因究明など担当の物理係、筆跡鑑定・偽造通貨鑑定など担当の文書係、ポリグラフ検査・犯罪者プロファイリングなど担当の心理係の5つの分野に分けられ、各分野に関して高度な技術と知識を持つ研究職員が鑑定に従事している。

 さらに、より高度な鑑定法の開発(大学との共同研究も多々ある)を行うことで、研究職員になってから薬学博士などの学位を取得する者も数多くいる。最近では博士課程後期に社会人入学する者も多い。

 「科捜研の仕事と薬学・薬剤師」3回シリーズの中で、1回目の本稿では薬学での知識が一番役立つ薬物毒物鑑定に関して紹介する。

“犯罪解決”に寄与‐証拠品の科学的鑑定で

 現在の薬学部において、薬物毒物鑑定を系統的に学べる裁判化学という名称の教育はないようだが、一部の大学で、衛生裁判化学、法医裁判化学、臨床中毒学などの名称で教育が行われている。筆者も衛生薬学の講義の1コマとして、学部2年生を対象に「科学捜査の最前線」「薬物乱用の実際」などと題して10年以上にわたり講義をしてきた。

 鑑定の目的は、犯罪に関する証拠品の科学的鑑定を行い、そこから得られた結果を捜査部門に提供することにより犯罪の解決に寄与すること。さらには捜査部門と連携して犯罪を立証して、公判廷において判決(裁判官の判断)に寄与することにある。

 医薬品が犯罪に使われることは数多くあり、その基礎知識がある薬学出身者が力を発揮する機会も多くなる。犯罪の例としては、解熱鎮痛薬アセトアミノフェンの過量服用、筋弛緩薬投与、喘息治療薬サルブタモール投与による殺人(未遂)事件などがある。

 医薬品の中で最も犯罪に使われる睡眠薬について少し説明すると、超短時間作用型・短時間作用型・中間作用型・長時間型・メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体作動薬の分類は薬学出身者ならば持っている知識であり、昏睡強盗事件や性犯罪被害者の血液・尿から商品名○○○の成分検出が求められた場合、添付文書やインタビューフォームの血漿中濃度変化のグラフを見て、超短時間作用型や短時間作用型の睡眠薬を飲まされて24時間以上経過しているならば、血液からの検出は困難、尿ならば検出の可能性はあると捜査部門に助言できる。

 また、目覚めるまで比較的長時間であれば消失半減期の長い睡眠薬(長時間型)が使われた可能性がある。比較的短時間で目覚めた被害者の証言に「目覚めた時、口の中が苦かった」とあれば、超短時間作用型のゾピクロン製剤(添付文書の副作用欄の1番目に「苦み」とある)が使われた可能性大と助言できる。

 次に被害者の尿から睡眠薬の検出が求められるが、まずは代謝の欄を参考に睡眠薬の成分そのものが尿中に出てくるか、どのような代謝物に変化するか、さらには抱合体となるかを事前に調べるが、薬学で学んだ知識が大いに役立つ。

 いよいよ、分析となれば、試料の前処理から機器分析に至るまで、実験・実習や論文検索の技術を生かすことになる。ガスクロマトグラフ質量分析や液体クロマトグラフ質量分析の装置を卒業研究などで活用していれば、さらに役立つ。

生きる実験や論文検索‐前処理から機器分析まで

図

 違法薬物だと、薬学出身者でも全く知識はないと言われる方もいるかもしれないが、例えば覚せい剤取締法で規制されているメタンフェタミンとアンフェタミン(法律上の名称はフェニルメチルアミノプロパンとフェニルアミノプロパン)は、咳止めやかぜ薬の成分エフェドリンとフェニルプロパノールアミンとβ位水酸基の有無の違いだけである。基本的にはこれら4つは興奮作用がある薬物で、薬学出身者には馴染みのある薬物である。

 有機合成法の知識・技術を習得していれば、全く新しい危険ドラッグのように市販の標準品がないような薬物でも合成することができるし、医薬品調剤の知識があれば、医療過誤の捜査において有益な情報を提供できる。

 以上、簡単な紹介ではあるが、これを読んで、薬学の知識を生かして科学捜査に貢献したいという熱意が芽生え、科捜研への道を検討してくれる薬学生が出てくれば幸いである。



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