【慢性期医療と薬剤師】No.3 薬剤師のフィジカルアセスメント導入による薬学的ケアの充実化

2016年3月1日 (火)

薬学生新聞

札幌西円山病院薬剤部長兼診療技術部長
山田 英俊

はじめに

山田英俊氏

 一般的に高齢者は複数疾患治療のために多剤併用、加齢に伴う代謝・排泄機能の低下、運動・嚥下機能の低下により適切な服薬ができないケースが多く、さらに誤嚥などによる急性増悪に伴い、病状が悪化する場合が数多く認められています。

 地域で暮らしている高齢者が安心・安全な生活を過ごすためには、病状悪化時などにスムーズな長期間の入院加療が可能な慢性期(療養病床)医療施設への受け入れ体制を整備することが重要となります。

 医療施設では高い専門性を兼ね備えたメディカルスタッフが協働して、患者中心の医療を実践するチーム医療を推進しています。その中で、薬物療法の適正化を図る上で薬剤師は非常に大きな役割を担っています。

 今回、当院の新たな取り組みとして薬剤師によるフィジカルアセスメントの導入による薬学的ケアの充実化について紹介します。

当院におけるフィジカルアセスメント実施の経緯とその実績について

 平成22(2010)年4月30日付で厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」が報告されています(図1)。日本病院薬剤師会では医政局長通知におけるチーム医療の推進と実施を推奨し、医療の質向上と医療安全の確保の観点から、薬剤師が主体的に薬物療法に参加することは非常に有益としています。また、この通知は厚生労働省として現行法(医療法、医師法、薬剤師法等)上で実施可能な薬剤師業務を明示したものであり、薬剤師の標準的業務として位置づけられています。

 当院薬剤師のフィジカルアセスメントの実施に際しては、院内の会議体において趣意説明を行い、医師・看護師などの全メディカルスタッフから薬剤師の業務としてのコンセンサスを得ました。併せて、フィジカルアセスメントの質担保として、関連学会や団体主催の講演会に薬剤師全員が参加しました。また、薬剤師1人ごとに聴診器を貸与し、血圧計やパルスオキシメーターによる脈拍数と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)のモニター機器の準備も行いました。

 薬物療法を受けている患者に対して、薬剤師は適切な薬物治療と患者の副作用の早期発見と防止のための薬学的ケアを実施する必要性があります。

 このために患者との面談、フィジカルアセスメント(血圧、脈拍、体温、呼吸数、意識レベルなどのバイタルサインの確認に加えて、打診、聴診などの評価)、カルテの確認、回診・カンファレンスへの参加等を通じて患者の状態を把握した上で、服薬している薬剤の薬学的管理指導を行う。さらに、薬剤の効果や副作用の発現などについてメディカルスタッフとの十分な情報・意見交換をして、個々の患者にとって最適な処方の提案を行っています。

 また、薬剤師が気づいた患者状態の変化の情報提供が、他のメディカルスタッフの業務軽減にもつながっています。今回、フィジカルアセスメントを活用し、薬剤管理指導料の対象外患者に対して、入院4週間以降に継続した病棟薬剤業務の実施により薬剤師が効果的に関与したドネペジル錠による房室ブロックの副作用対処症例を示します(図2)。今回の症例を通して、全ての入院患者を対象とした長期間の薬学的なケア実施は薬剤師の責務と考えています。

おわりに

 患者状況や他施設で処方された薬剤などを薬剤師がアセスメントして、薬物療法全体(薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間など)について判断し、最適な処方提案を積極的に行う必要性があります。

 現在、薬科大学においてフィジカルアセスメントの事前実習を実施しており、実務実習受け入れ施設として、病棟業務においてフィジカルアセスメントの実習も必須項目と考えています。

 今後、薬剤師によるフィジカルアセスメントは薬剤師のモチベーションを高め、さらなるスキルアップにもつながり、その結果として薬学的患者ケアのさらなる向上につながることを期待しています。



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