【これから『薬』の話をしよう】曖昧性が臨床現場にもたらすもの

2017年9月1日 (金)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 みなさん、こんにちは。今回はこれまで述べてきたことを踏まえ、患者個別の薬物療法をどう考えていくかについてまとめます。

 これまでの内容を簡単に整理すると、[1]薬の効果を考える上で注目すべきは、真のアウトカムに対する効果であること[2]エビデンスを紐解いていけばいくほど薬剤効果の曖昧性が浮き彫りになること――の二つに要約できます。

 もちろん、明確な効果が統計学的に示されている薬もあります。したがって曖昧性という概念がすべての薬に当てはまるわけではない、という指摘もしました。しかし、慢性疾患用薬の多くにはごくわずかな効果しかない、と考えることもまた可能なのです。

 こうした薬剤効果の曖昧性は、臨床判断において客観的に評価できるような正解は存在しないことを明確に示しています。つまり、薬を使っても良いし使わなくても大きな誤りではない、ということです。この考え方は、少し分かりにくいでしょうか。

 今、僕たちは、薬物治療を「する」「しない」という二つの選択肢だけでなく「しても、しなくてもよい」という第三の選択肢が付け加えられる可能性について考えています。選択肢が付け加えられる、つまりそれは臨床判断の多様化を意味します。

 当然ながら現場では、治療をするかしないのか、決断せねばなりません。患者さんを目の前に「どっちでもいい」という決断はあり得ないでしょう。しかし、決断に至るまでの判断において「どっちでもいい」という多様性があることは、医学的な正しさという価値観を押し付けるだけでなく、患者さん個別の価値観も考慮できることに他なりません。また、薬剤師の立場においては、医師の治療方針という価値観にも柔軟に対応できる可能性を秘めています。

 患者さんや医師の価値観が大切だ、というのは当たり前かもしれませんが、エビデンスを踏まえなければ、怪しげなトンデモ医療と構造上は同じになってしまいます。逆説的に思えますが、エビデンスを重視する、すなわち効果の曖昧性にしっかり目を向けることによって、患者さんの想いや価値観、医師の治療方針にも柔軟に対応できるようになるのです。



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