薬剤師から仮面ライダーに‐芸能界で活躍 岩永徹也さん

2017年11月1日 (水)

薬学生新聞

岩永徹也さん

 薬剤師免許を持ち、モデル業や俳優業でも活躍するレプロエンタテインメント所属の岩永徹也さん。福岡大学薬学部、慶應義塾大学大学院薬学研究科へと進んだにもかかわらず、目指したのは芸能界という華やかな世界だ。スターの登竜門とも言われる仮面ライダーシリーズでドラマデビュー。昨年10月からテレビ朝日で放映された特撮ドラマ「仮面ライダーエグゼイド」で檀黎斗(だんくろと)/仮面ライダーゲンム役をつかみ、来年春にリリースされるVシネマ『仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング』では主役を演じる。また、最近ではクイズバラエティーでのIQの高さが話題になり活躍するなどマルチ人材だ。薬剤師を仮面ライダーに変身させたのは、「解明されていない謎を解き明かしていくのが好き」という岩永さんの飽くなき挑戦心なのかもしれない。

薬は魔法…探究心が原点‐興味持った分野はまず挑戦

 薬学部キャンパスでこんな端正な顔立ちをした男子がいたら、目を奪われるに違いない。しかしそれ以上に驚くのが多彩な横顔だ。認定薬剤師、カラーセラピストトレーナー、英検2級、TOEIC830点、TOEFL60点、国連英検B級、書道5段、珠算・暗算2級、数学検定2級、普通自動車運転免許、色彩検定2級、仏検4級…。プロフィールには資格がズラリ。そしてIQ148以上を持つ集団「JAPAN MENSA」会員と“多才”“天才”という言葉がよく似合う。好きな科目は算数、人から教えられるよりも、独学で勉強するタイプだ。

 岩永徹也さん。今年で31歳を迎えた薬剤師。興味を持った分野には、まずやってみるというチャレンジ精神を貫く。幼少の頃からブレずに、真っ直ぐに、そしてゆっくりと太く育ててきた。「ドラマの台詞の一つをとっても、言った内容より、誰が言ったかが表現者として重要だと思っている。周囲の人たちに言葉を突き刺せるような自分でなければならない」。周囲からのイメージを大切にしながら、常に新しい自分を創り上げてきた。

 薬学部に入ろうと思ったのも、誰もが口にする「医療に対する貢献」ではなく、薬への学問的興味が入り口だった。「薬を飲むだけで病気が治ることが、単純に凄いと思った、薬が魔法のように感じた」。薬がどうやって効いているのか。それを確かめたい。そんな探究心だった。

 大学時代は薬学部としての勉強だけではなく、独学で英語を勉強し、長期休暇には米国や欧州、台湾、ニュージーランドを回る日々。3年時には、ニュージーランドでの薬剤師研修を経験。「chemistと呼ばれる町の薬局では患者さんが自分で薬を選んで購入していた」と日本と海外の医療の違いを肌で感じた。

 地元九州を離れて慶大大学院に進んだのは、脳の仕組みや記憶の研究といった専門的な研究をやりたくなったから。ちょうど慶大には脳科学に関連した研究室があり、海外の論文を読んだり、勉強会に参加したり、大学病院で患者サンプルを使った研究ができる恵まれた環境の中で、研究漬けの毎日を過ごしてきたという。でもふと違和感を覚えた。研究室の中でゆっくりと流れる時間、黙々とやる研究、自分と他の学生たちとの乖離、このまま研究だけを続けていいのか疑問が生まれた。

薬剤師経験、役づくりに生かす

 より自分を表現できる場所を求め、たどり着いたのがモデルという仕事。これまでスカウトされても誘いに乗らなかった岩永さんだが、自ら『MEN’S NON-NO(メンズノンノ)』に応募し、グランプリに輝いた。モデルとしてデビューし、テレビでは数々のバラエティ番組にも出演。さらに仕事の合間には調剤薬局の薬剤師と、活動の幅を広げたことで、一つの専門性を突き詰めるのではなく、これまで経験しなかった知らない世界に飛び出していく面白さを知った。

「仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング」の一場面。右が岩永さん (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

「仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング」の一場面。右が岩永さん
(C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

 そして転機となったのが、初のテレビドラマ出演となった「仮面ライダーエグゼイド」で、檀黎斗という役に出会った。仮面ライダーシリーズは、仮面ライダーカブトを見ていた頃から、いつかはやってみたいと思っていたドラマだった。

 医療をテーマとしたドラマの舞台は病院。バグスターと呼ばれるコンピューターウイルスがリアルな人間の世界でも蔓延し、それに感染した者はゲーム病を発症して命が奪われるという狂乱の世界だ。そんな危機を救うために集められた医師たちは、仮面ライダーシステムによって仮面ライダーに変身し、ウイルスの感染源となるバグスターを倒し、ゲーム病にかかった人たちを助ける。そんな物語だ。

 岩永さんが演じる檀黎斗は、仮面ライダーシステムを開発したゲーム会社社長で、仮面ライダーたちをサポートする味方の立場にある一方、その裏では自ら仮面ライダーゲンムに変身し、仮面ライダーと敵対するバグスターを支援するなど二面性のある難しい役柄である。

 薬剤師としての勤務経験を檀黎斗と仮面ライダーゲンムの役づくりに生かした。患者さんに信頼されるために薬剤師としてどう接するのがいいかを考え、実践してきた経験が役立った。自分が正義だと思っていたことが他者に理解してもらえない。檀黎斗だけが感じる周囲とのギャップは、自らが歩んできた経験とも意外にも重なった。「私は神だーー!」と咆哮するシーンも自然に演じられた。

来年春リリースのVシネマ「仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング」 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

来年春リリースのVシネマ「仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング」
(C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

 「大勢の前で話をするのがあまり好きではなかったが、ドラマで数十人に囲まれて演じることにも慣れた」と成長につながったと語る。ドラマの台詞の中でも頻繁に出てくる医療用語も、「分からない用語があれば、すぐにチェックして他の出演者にも教えたりしている」とこまめに情報を収集して取り組んだようだ。

 来年春には仮面ライダーエグゼイドの続編として、Vシネマがリリースされる予定で、3部作の一つでは檀黎斗が主人公となる。「これまでとはスケールが違うゲンムを演じたい」と意気込みを見せる。続編でありながらも今回のストーリーでは、驚きの展開が用意されており、見どころがたっぷりあるという。

 「一般の人たちが考える常識にとらわれずに、自分らしく挑戦できるのが強み」と話す岩永さん。将来は「ドラマで知的な犯罪者をやってみたい」と目標は尽きない。現在の医療についても聞いてみた。「日本では様々な分野で活躍されている方たちがいるが、やはり医療が充実していないとその活躍を支えることはできない大事なもの。常に最先端で患者さんを安心させられるものであってほしい」。声にも力が入る。

楽しい失敗できるのは20代だけ

 薬学OBとして薬学生に対しては、「自分の20代は充実していた。薬剤師になることは大事だけど、何よりも楽しい20代を過ごしてほしい」と今を楽しむポジティブな気持ちが大切だと訴える。「勉強が嫌だから毎日がブルーと愚痴を言うのではなく、できることはたくさんある。学生の方と交流したときに、毎日スマートフォンと向き合ってばかりの生活だという話を聞いた。楽しい失敗ができるのは20代しかない。もっと若さを武器に行動してほしい」とエールを送る。

 これまでの人生、「結果が出るのはずっと先の話だから、立ち止まらずに進んできた」と胸を張る。「薬学部から薬剤師というレールとは別の道へと飛び抜けたいと考える人には、自分のような人間がいることを知ってほしい。自分も大学時代、人と意見が合わないことが多く、周囲の価値観ともズレがあって、理解してくれる人がいたら、どんなに心強かったかと思う。自分を異質な存在に感じて自己嫌悪に陥るときもあるかも知れないが、その時は違う世界で戦っている岩永徹也を見てほしい」。そう、いつだって薬学生の味方だ。

(C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映



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