【これから『薬』の話をしよう】薬剤効果は不平等なもの?

2018年1月1日 (月)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 みなさん、こんにちは。前回は薬剤効果指標の一つ、治療必要数(number needed to treat:NNT)を紹介し、薬は服用した人全てに効いているわけではない可能性についてお話ししました。復習ですが、NNTとは”任意の期間において、どれだけの人に対して治療を行えば1件のイベント発症を防げるのか?”という指標であり、その値が小さいほど治療効果が大きいことを示しています。

 このNNTという指標について、違和感を抱いた方も多いかもしれません。薬を服用すれば、程度の差はあれ何らかの効果が期待できるはず…。僕たちの常識的な感覚によれば、疑念の余地は小さいでしょう。

 しかし、薬は誰に対しても平等に効いているわけではないことをNNTは鮮やかに示しています。これは、程度の差はあれ、服用した人全てに何らかの効果が期待できるような、効果にばらつきがあるということではありません。NNTが示しているのは、薬は「効くか」「効かないか」であって、効く人には、それがわずかな効果であろうと効きますし、効かない人には全く効かないということです。

 こうした薬剤効果の不平等性について別の角度で見てみましょう。平均的な心血管リスクを有する50歳の男性に対して、心血管死亡が30%減るような薬剤(例えばスタチン)を投与するとどのくらい長生きできると思いますか?実はその獲得余命は平均で7カ月程度と試算された研究が報告されています(PMID:27042321)。薬を飲んでもたった7カ月です。みなさんはどう感じたでしょうか。

 注意が必要なのは、この7カ月という数値は解析集団の平均値であるということです。獲得余命の分布状況を見てみますと、解析集団全体の7%にあたる人たちは平均99カ月の余命を獲得している一方で、残りの93%は7カ月どころか0カ月という結果になっています。つまりほとんどの人に対して薬は全く効いていないのです。こうした薬剤効果の極端な偏りはNNTという指標から受ける薬剤効果の不平等性を見事に説明しているように思われます。

 薬剤効果は本質的に不平等なものなのかもしれません。副作用が全ての人に発現しないように、有効性もまた全ての人には発現しないと言えば理解しやすいでしょうか。



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