かかりつけ薬剤師を目指す
佐賀県を中心に福岡、熊本、長崎で調剤薬局やドラッグストアなど60店舗以上を展開するミズ(本社佐賀市)に勤務する中島由貴さんは、昨年4月に入社した1年目の新人薬剤師。入社後3カ月間の研修を経て、現在は佐賀市内の中心部に位置する溝上薬局大財(おおたから)店で処方箋調剤業務から在宅訪問による服薬指導までをこなす日々を過ごしている。
中島さんは九州大学薬学部創薬科学専攻で修士取得後、昨年の薬剤師国家試験に合格した。もともと大学入学前は薬剤師資格を生かして働くことは考えず、研究職を目指していたため4年制の薬学部を選択。大学時代は研究室にこもり実験を行う生活が続いていた。そうした中で、次第に「研究よりも、もっと人と関われる仕事がしたい」と考えるようになったという。
薬剤師資格取得に向け、病院・薬局の実務実習の現場に赴いたときに大きく気持ちの変化があった。「人と話をすることが楽しく思え、患者さんに自分との対話を通じて喜んでもらえるということを実感しました。仕事に大きく魅力を感じ、薬剤師として働くことを決意しました」と中島さん。地域包括ケアシステムの一翼を担い、薬の相談に対応できる「かかりつけ薬剤師」を目指したいと考え、地域に密着している調剤薬局を展開するミズへの入社を決めたという。
そんな中島さんの1日は7時過ぎの起床から始まる。福岡県の自宅から車で片道40分かけて勤務先の薬局まで通勤。8時45分過ぎには身支度を整え、店舗内の掃除や朝礼を済ませたあと午前9時から薬局をオープンさせる。近隣の医療機関の内科、外科、整形外科、循環器科、呼吸器内科、肛門科と幅広い診療科からの処方箋を応需。薬局では患者対応から調剤、調剤、ピッキング、一包化、監査、投薬など一連の薬剤師業務を行う。医療用医薬品の取り扱いは1200~1300品目ほどだが、門前の病院は入院施設もあることから医療衛生雑貨を販売する機会も多いようだ。
日常の処方箋調剤以外に施設の在宅医療にも携わっている。「自転車などを活用して、最低1~2回は訪問しています」という。また、定期的に会社が主催する勉強会などにも積極的に参加し、薬剤師としてのスキルアップにも励んでいる。
大財店では、地域住民の健康づくりを支援するために店舗講座も開催。店舗の薬剤師などが持ち回りで患者や地域の人向けのセミナーも展開しており、最近では、ノロウイルス対策、インフルエンザの予防、花粉症対策などの話題を提供。中島さん自身も、資料を準備し、セミナーなどの取り組みも行っている。
日常的には忙しい時間帯も多く、そういう時でも「できるだけゆっくり患者さんに寄り添って話をしたい」と中島さん。「私自身は、どの薬剤師に服薬指導をしてもらうかで、薬の効果も変わってくると考えています。薬をもらうだけの人とは思われたくない。そのイメージを超えた薬剤師。私から薬をもらって良かったと言ってもらえる薬剤師になりたいです」と展望する。
中島さんは現在、薬局勤務1年未満のため「かかりつけ薬剤師」の要件は満たしてはいないが、既に世間話を交わす顔なじみの患者も増加し、中島さんを頼って様々な健康面の相談を寄せる人もいる。「患者さんから、プレゼントにお守りをいただいたこともあり、その時はとても嬉しく、薬剤師としてのやりがいを感じました。今も身につけて初心を忘れないようにと心に留めています」。今後の目標は、認定薬剤師の取得を目指して勉強会や学会に積極的に参加していきたいという。さらに自社内で開催される学術大会での発表などにも意欲的な姿勢を示す。
学生時代は研究をメインに取り組んで来た中島さんは、「物事の解析力や諦めない粘り強さは研究を通じて築くことができたと感じています。さらに人前で発表することや文章を書く機会が多かったことも、今の現場で役立っています」と語る。
薬局薬剤師を目指す薬学生に向けて「マナーやコミュニケーションは重要なところ。勉強だけではなく、サークルなどの活動を積極的にやっておいたほうがいいのかもしれません。学生時代はやりたいと思ったことを素直にやれば、それが後々の方向性につながると思います」とアドバイスを送る。