【ヒト・シゴト・ライフスタイル】超希少疾患と向き合う‐MRの存在意義を再認識 アレクシオンファーマ 中島則子さん

2018年1月1日 (月)

薬学生新聞

中島則子さん

 希少疾患の中でも、とりわけ患者数が少ない超希少疾患と向き合う薬学卒MRがいる。アレクシオンファーマでPNH・aHUS事業本部メディカルカスタマーケアーaHUS東日本営業部エリアマネージャーを務める中島則子さんは、補体阻害薬「ソリリス」(一般名:エクリズマブ)が適応症とする非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)という難病を担当している。腎臓や血液の専門医以外は病名を知る医師が少ないこの病気の罹患率は、100万人にわずか1~2人。ソリリスが使われて病状が回復したときに、医薬品が生み出す価値やMRとしての存在意義を再認識する。「先生が“すごく効いて元気になったよ”と感動してくれる。そんな話を聞くとうれしくなります」。病気を知り、患者を理解する日々の中で、ソリリスという薬の重みを感じながら、仕事に取り組んでいる。

aHUSの啓発へ情報積み上げる

 大学薬学部を卒業してMRとなった中島さんにとって、アレクシオンは3社目となる。社会人として最初に入った製薬企業ではプライマリケア領域のMR、その後に転職した会社では希少疾患を適応としたバイオ医薬品を担当してきた。これまでのMR業務では、どちらかといえば薬剤の特性に合わせて、どのタイミングでどんな患者が適しているのかを医師の治療方針と重ねながらポジショニングしていく情報提供が主体だったが、アレクシオンに入り、個々の患者背景に応じて治療提案していく患者志向のアプローチを意識するようになった。“Patient focus sales skills”を意識して活動をする。患者の状態や背景が違う中、即座に状況を見極めエビデンスベースで提案をしていく。その場での解決力は重要だ。

 aHUSという難解な病気の患者を治療する医師をサポートする仕事。遺伝子の異常によって、生涯にわたり慢性的で制御不能な補体の活性化が起きて、全身の微小血管に血栓をつくり出し、脳や腎臓、心臓などの臓器を損傷させ、最悪の場合、透析や早期の死亡に至るという大敵だ。投薬が遅れれば、患者の命にかかわってしまう。

 アレクシオンが提供するソリリスが唯一の治療薬となるが、当然のことながらaHUSの治療経験がある医師は一握りの専門医となる。薬剤があるからといって、全てが患者へと届くわけではない。2016年には、aHUSの診断ガイドが作成されたが、病態の機序にはまだまだ不明な部分が多く、患者一人ひとり状況が異なるため、複雑だ。

 中島さんは、ソリリスを提供するアレクシオンのMRとして、医師にaHUSを知ってもらい、「この症状はaHUSかもしれない」と疑ってもらうことが大切だと考える。そのためには、何よりも自分自身がaHUSを理解しなければ、医療従事者に理解してもらうことなど適わない。社内の同僚から、医療現場から、またいろいろな場面で得た一つひとつの情報を収集して積み上げ、aHUSを知る手がかりにしている。ソリリスの海外投与事例や、aHUSに関連した学会報告なども参考にし、aHUSと少しでも関連性がありそうな情報についてもチェックするよう努めた。

 その上で、重視するのが医師との面談だ。1回あたり1時間、場合によってはそれよりも長い時間を使って、何が課題なのか確認する。現在、大病院の腎臓内科や血液内科、小児科から近隣の病院まで担当。医師との面談はaHUSを知るだけではなく、医師の治療方針を知る上で大事な時間だ。ソリリスを処方した医師の経験を、処方経験のない医師に伝えるつなぎ役にもなる。

 「先生とは、患者さん一人ひとりの治療ゴールを共有し、それに向けた最適な処方を話し合うようにしています。例えば、複雑な基礎疾患がある患者さんもいますが、血小板の値や腎機能をどこまで改善させるのがよいのか、それを達成した後は、退院から外来管理を見通した新たなゴールを提案します。患者さんに薬が使われた後も、長期にフォローしていく姿勢が大切だと思っています」

 既存患者への治療効果を最大化するのはもちろん、ソリリスが奏効する可能性がある患者を早期にaHUSと診断してもらうことも重要だ。医療技術は日進月歩で進化する。aHUSとは別の疾患だと考えられていた症例でも、それを覆す新しい論文が発表されることもある。論文からソリリスの有効性が示唆された患者像を自分の担当している医療機関ですぐに確認する。新たに生まれる情報やエビデンスが新しい患者を探し出す糸口になるからだ。

仕事も趣味も“まず、やってみる”

友人のワイン店「ダベルナ・マルコポーロ」で

友人のワイン店「ダベルナ・マルコポーロ」で

 コツコツと積み上げる作業は、地道な努力もさることながら、入口段階で“まず、やってみよう”という行動力があって成立するのかもしれない。新入社員の頃、当時勤めていた製薬企業の上司から教えられた、「やってみてダメだったら仕方ない」を実践してきた。プライベートでもそれは変わらず、長期休暇には海外旅行へと飛ぶフットワークの軽さは武器だ。「ヨーロッパが好きで、ロンドンやミラノはお気に入りの街ですね」。ワインが好きで、ちょうど友人が東京都内にイタリア料理店を開き、行きつけの店がまた一つ増えた。

 もともと薬学部に入ったのは、「女性でも資格を取りなさい」という親の勧めが大きかったようだが、「もっと勉強をしておけばよかった」と今も密かに後悔している。今では薬剤師資格を生かして、他に自分にできることはないかと模索するようになり、公益財団法人日本アンチドーピング機構(JADA)によるドーピングコントロールオフィサー(DCO)に応募。見事に2次選考を通過した。いろいろな分野に興味を持ち、ユニークなところでは日本茶アドバイザーの資格を持つなど、多分野でのネットワークも広がっているようだ。

 MRとして幅を広げるだけではなく、深みも求めていく。変化に対応するだけでなく、自分も変化してきたこれまでの人生。「私が学生の頃は“オーファンドラッグ”という言葉があるだけで、中身はよく理解していませんでした。当時は薬剤がベースでしたが、今は疾患、そして患者さんを理解しようとしています」

 aHUS患者への投薬後の情報は、次の患者へと投与される重要な情報として生かされる。100万人に2~3人の疾患だからこそ、一つの症例が持つ意味は重く、そのぶん薬剤を届けられたときの喜びは大きい。難病と向き合い、「患者さんとそのご家族が幸せになるために、お手伝いしていきたい」。ずっと変わらない思いが日増しに大きくなっている。



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