【これから『薬』の話をしよう】薬剤効果の合理的判断

2018年3月1日 (木)

薬学生新聞


医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 前回はNNT(number needed to treat)と薬剤効果の不平等性についてお話ししました。NNTとは“任意の期間において、どれだけの人に対して治療を行えば1件のイベント発症を防げるのか”という指標です。副作用など有害事象にも同様の指標があり、こちらはNNH(Numbers Needed to Harm)と呼ばれます。NNHとは“どれだけの人に治療を行った時に1件の有害事象が発生するのか”というものです。多くの人がNNHは1000~10000、あるいはそれ以上という印象をお持ちかと思います。

 しかし、実際にはNNHが3桁程度という薬は決して少なくありません。例えばスタチン系薬剤であるアトルバスタチンの糖尿病発症リスクは369人日の追跡でNNHは172と報告されています(PMID:23704171)。同系統のプラバスタチンの心血管疾患に対する有効性は約5年の追跡でNNTは119でした。NNTやNNHという視点で治療のリスク(有害性)とベネフィット(有効性)のバランスを考えると、積極的に使うべきか悩んでしまう薬剤も多いのです。

 リスクとベネフィットについて、風邪に対する抗菌薬と高齢者に対するサプリメントを例に考えていきましょう。風邪に対する抗菌薬の投与で15日以内の肺炎による入院をごくわずかに減らすことが示されていますが(NNT=12255 PMID: 23508604)、風邪はウイルス性がほとんどであり、抗菌薬は基本的に無効と考えられます。耐性菌や副作用などを考慮すれば風邪に対する抗菌薬の使用は正当化できないでしょう。

 他方で、高齢者のサプリメント服用について健康的なイメージを抱く方も多いかもしれません。しかし、論文情報を丁寧に紐解くと、多くのサプリメントに臨床上有益な効果があるかどうかは明確に示されていません。有害事象を考慮すれば多くの場合、その積極的な使用は推奨できないように思います。

 風邪に対する抗菌薬も高齢者に対するサプリメントも、リスクとベネフィットという観点からすればどちらも似たようなものです。にもかかわらず前者を否定的に捉え、後者を肯定的に捉える傾向があります。近い将来、人工知能がビックデータを解析し、全ての薬のリスクとベネフィットの関係をNNTとNNHで示すことも可能になるでしょう。そうなった時に、人が合理的と判断していることが、必ずしもそうではないことが浮き彫りになるかもしれません。



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