日本の医薬品流通は、製薬企業から医薬品卸、卸から医療機関・薬局へという主要なルートのほか、厳格な温度管理が必要な治験薬や希少疾患用薬のルート、最近増えつつある在宅へのルートもある。医療機関・薬局への供給を担っているのが医薬品卸である。以前は全国各地に小規模地場卸が多数存在していたが、現在では広域大手卸4社・グループと、北海道、東北、九州などに数社の独立系地域卸が存在する勢力図になった。
ここまで一気に再編が進んだ理由はいくつかあるが、やはり利益の少なさを規模と効率化によってカバーしないと生き残ってこられなかったことが大きい。売上規模で見ると上位4社は3兆~1兆円に達するが、利益率は1%程度である。さらに、ここ数年で市場停滞も始まり、これまでのボリュームで利益を上げていたビジネスモデルが通用しなくなってきた。
そこで各社は、医療用医薬品卸売事業のほかに、一般用医薬品(大衆薬・OTC)卸売事業、保険薬局事業、製造事業、介護事業、スペシャリティ医薬品物流など事業の多角化を進め、成長が見込めなくなった以前の医療用医薬品卸売だけに依存しないビジネスモデルへの転換を図っている。
業界の最大の課題とされているのが、医療用医薬品の流通改善である。これまで医薬品流通の川上(製薬企業と卸)、川下(医療機関・薬局と卸)の中間にいる卸が主体となって取り組んできたが、期待されたほどの進展は見られなかった。民間企業の商取引であるので行政は積極的に関与してこなかったが、医療用医薬品は医療保険財政に影響することから、昨年4月、ついに国が動いた。厚生労働省の医政局長・保険局長の連名で、国が主導する流通改善ガイドラインを発出した。卸の課題は、一次売差マイナス是正、未妥結仮納入の解消、単品単価取引の励行である。特に、銘柄別薬価を採用している薬価制度において、薬価調査で市場実勢価格を正確に把握して薬価を改定するためには、単品単価取引がどうしても必要である。
このガイドライン遵守を大命題として、自社の売上、市場シェアの確保に優先して取り組んだ結果、早期妥結、単品単価である程度の改善があったと評価された。しかし、これで終わりではなく流通改善の正念場はこれからである。
もちろん、一般用医薬品(大衆薬)の流通においても、パッケージ変更、季節品における頻繁な返品などの課題はあり、卸各社が改善に向けて取り組んでいるところだ。
医薬品卸は営業職のMSや物流の人員が主力となってやってきたが、今では他の物流業界と同様にIT、IoT、AIを駆使した情報収集・提供システムや、物流センターでのロボットによる自動化など、ソフト・ハード両面での技術革新の進展も著しい。
品質に関しては、今年1月に国際標準のPIC/S・GDPに準拠した「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」が示され、現在、卸に限らず、医薬品業界をあげて流通品質の管理を確保すべく対応しているところである。