【対談 病院薬剤師×薬学生】救急チームの一員として奮闘

2019年3月1日 (金)

薬学生新聞

日本大学附属板橋病院薬剤部
今井 徹さん

対談 病院薬剤師×薬学生

 医療ドラマの題材になりやすい救急医療ですが、ドラマの中では薬剤師を見たことがないと思います。実は、救急医療の現場でも薬剤師は働いています。今回、日本薬学生連盟では、救急医療分野で活躍していらっしゃる日本大学附属板橋病院薬剤部の今井徹先生と対談しました(日本薬学生連盟2018年度広報統括理事=明治薬科大学2年・岩崎良太 武蔵野大学4年・安次嶺栄智

激動の現場では「何でもやる」

 ――今井先生の経歴、救急医療に携わったきっかけを教えてください。

 私は4年制時代に日本大学薬学部を卒業した後、大学院に進学し、博士前期課程で2年間アルツハイマー病の基礎研究をしました。学部と大学院を合わせて6年間大学に在籍し、研修先であった日大板橋病院に就職しました。

 3年目に救命救急センターの担当薬剤師になり、そこから3年間ほどは本当に朝から晩まで救急医療にどっぷり浸かった生活をしていました。一度、救命救急センターを離れて小児科病棟の業務の立ち上げや、当時は薬剤師が配置されていなかった手術室の業務の立ち上げに携わったり、化学療法室の担当も経験しました。

 現在、入職して13年目になりますが、3年前から救命救急センターや手術後の患者さんが入室するリカバリーICUといった急性期業務全般の取りまとめ役として、10名弱のスタッフと一緒に急性期医療の薬剤に関わる仕事を担当しています。

 ――薬剤師が救急医療に関わるどのような部分に惹かれたのですか。

 救命救急や集中治療は、“ナマの医療”なんですね。そこが生死の境で、本当に階段を転げ落ちそうな瀕死状態の人がいるなかで、薬物治療もカテコラミンなど心臓や血管に作用する薬剤などがダイレクトに反応することを実感します。私は人を救うことが医療の原点だと考えています。ですから、慢性期とは違う激動する医療という部分に夢中になったのだと思います。

 ――これまで薬剤師が救命救急の現場に介入することはなかったと思うのですが、救命救急センターの仕事に入っていく上で苦労された部分はありますか。

 日大板橋病院では救命救急センターの開設と同時に薬剤師がチームの中に入って業務を行っています。私が入職した13年前は初療室にいて薬を調製することが主な業務でした。いまでは状況がずいぶん変わっており、医療スタッフの一員として「できることは何でもやる」というスタンスです。

 このスタンスに変わってきてからは救命救急センターの勤務を希望する若いスタッフが増えてきました。自ら希望して救命救急センターに配属される薬剤師はモチベーションも高いので、いろいろなことに挑戦しています。

 もちろん、医師法に規定されている侵襲的な行為はできませんが、例えば意識障害の患者さんの衣服を裁断したり、心臓マッサージや医師が手にしたルートをつないであげるなど、薬剤師というよりは救命救急チームの一員であるという共通認識のなかで、薬に詳しいスタッフとして薬剤師が仕事をしているイメージだと思います。

他職種とは尊重し合う関係

 ――特に救急医療の現場で、薬剤師が必要とされるのはどのような場面でしょうか。

 医薬品が世に出るためには、人を対象とした臨床試験をクリアしなければいけませんが、臨床試験は比較的状態の良い被験者を選んで実施します。ところが、救命救急センターに搬送されてくる人は肝機能や腎機能が悪かったり、いろいろな背景を抱えており、通常の場合とは異なり侵襲を受けた人の薬物治療は分からないことだらけです。薬剤師が薬の専門家として理論的に考え、医師と議論しながら治療を進めていく。その意味では救命救急センターに薬剤師がいたほうがいいと思いますね。

 ――他の現場とは違い、自分の判断が命と直結する場所なのですね。

 そうです。最初は皆、救命救急センターに配属されると「ドキドキして落ち着かない」と言っています。他の現場と全く違いますからね。薬剤師は調剤室のような守られた空間が好きな人が多いんですよ。それは仕方のないことだと思いますが、失敗して学ぶことが大事です。

 新しいスタッフが失敗をしても、周りでリカバリーしています。経験を重ねていけば自然と覚えることであり、若い薬剤師も3カ月ほど仕事をすると顔つきが変わってきますね。

 ――薬剤師から薬物治療の変更を提案した時、それを受けてチームは迅速に動くことができるのでしょうか。

 処方提案はよくありますし、薬剤師による介入も救命救急センターの多くの患者さんに行われています。もちろん、薬剤師の提案が受け入れられないこともありますが、受け入れられることも多いです。毎日、医師と看護師と薬剤師で回診をしているので、その中でディスカッションをしています。「こうしたほうが理論的にはベストですよね」といった提案をします。

 チーム全体の職種の関係性はフラットで、いい意味でお互いを尊重し合っていると思います。これは救急医療の特徴です。救命医は、専門外の患者さんが搬送されてくることも多いですが、まず目の前の患者さんの命を救わなければいけません。そのために専門スタッフに仕事を担当してもらうリーダーシップを発揮することは得意だと思いますね。

 ――大学では幅広く学びますが、救命救急で特に使う知識や、薬剤師に求められる技術などはありますか。

 幅広い薬の知識があった方がいいです。救命救急の現場で使う薬は医師も知っているんですよね。もちろん、われわれ薬剤師も詳しいですが、その他の薬をなぜ知らなければならないかと言えば、意識障害で搬送されてくる患者さんがいたとします。いろいろな鑑別診断が挙がりますが、その患者さんは徐脈の状態でした。持参薬を確認すると、抗認知症薬「ドネペジル」を服用していることが判明し、ドネペジルにより徐脈が引き起こされ、意識障害を引き起こした可能性を考慮します。

 このように、薬剤師は患者さんの病態も医師と一緒に見るわけですが、まさに薬剤師がいる意義とはそこにあるのだと考えています。

 ――患者さんを見ながら薬を見て、状態を把握するためということですね。

 薬だけを見ているわけではなく、一緒に患者さんの病態を見るわけですが、やはり私は薬剤師ですから、最終的には薬の部分もチェックします。ですから、薬の知識については守備範囲が広ければ広いほどいいですね。医師は大学でほとんど薬の勉強をしていないようです。現場で学ぶため吸収は早いのですが、深い部分は知らないことが多いと思いますので、薬剤師が専門家として幅広い薬の知識を備えておいた方がいいと思います。

 いまは皆さんが思う以上に、薬剤師に求められることは多いです。しかし、薬剤師はどうしても臨床経験が少ないんですね。薬剤師の精進は必要です。思い切りが弱い職種でもあると感じますし、もっと積極的に前に出て行っていいと思います。

 ――もし、救急車に薬剤師が1人配置されるような時代になった場合、もっと人の命を救えるようになると思いますか。

 医療の質は確実に上がると思いますが、配置基準がありませんので初療室に薬剤師がいないことが多いです。ドラマでも薬の名前などを口頭指示しますが、医師も薬を間違えることがあります。医師の指示に対して薬剤師が関与してエラーを防ぐことにより、セーフティネットとなることができます。

幅広い薬の知識が役立つ

 ――救急医療は、大学や実務実習のカリキュラムには反映されていません。

 そうですね。ただ、当院の実務実習では3日間は救命救急センターで実習をしてもらい、調剤室で実習をしているときも、救急車が来て患者さんが搬送されてきたら調剤業務を中止して救命救急センターを見学させるようにしています。調剤業務は、薬局実習でも経験していると思いますので、当院は独自路線でやっています。

 本来、全国的なカリキュラムに取り入れたいところですが、救命救急センターでの実習を提供できる施設が少ないことがカリキュラムにない要因かもしれません。救急医療機関には、一次、二次、三次とあり、主に私たちが受け入れているのは、生命の危機にあるような人を受け入れる三次救急です。こうした医療体制について勉強してみるのも面白いと思います。薬剤師の教育という意味でも救急医療の現場は非常に良い効果があります。われわれも学ぶことが多いです。

 ――医学部では卒業臨床研修の制度がありますが、薬剤師も質を確保するために救急医療の現場で研修を行えば変わると思いますか。

 救命救急センターでの卒後臨床研修は、ぜひ実施したいと個人的には感じています。現段階では難しいですが、実現したら卒後1年目は救急集中治療で研修するのが良いと思っています。救急集中治療は全身管理を行い、患者状態の評価を頻繁に行いますので、後でどんな場面でも役に立つ知識が得られます。他の現場で薬剤師として働いても役に立つと思います。その意味でも、卒後臨床研修の制度はこれから作らないといけないと思っています。

 私は3~4年前に1週間ほどアメリカのボストンに研修に行きました。そのときに思ったのですが、日本の薬剤師も負けていないですよ。日本の薬剤師はTDMをして、バンコマイシンなどの投与設計をしますが、患者さんの状態を必ず見て、全てをアセスメントします。

 その上で、臨床経験を踏まえて治療するわけですが、アメリカの薬剤師にその話をして議論したところ、「そんなことはない。プロトコールに全部書かれている」と言われました。全てではないのかもしれませんが、プロトコールに基づいた医療を行っているアメリカに比べても、日本の薬剤師の仕事はきめ細かいと感じますね。

 ――最後に薬学生へのメッセージをお願いします。

対談を終えて

対談を終えて

 薬剤師は細かいことばかり気にする職種だと新人の時に思っていました。しかし、いまのアメリカの話のように、自分たちで短所と思っていることが、実は長所だったりするのかなと感じることもあります。おそらくキャリアを積まなければ分からなかったことだと思います。

 皆さんも最初は「結構受け身だな」「医者が言うことを聞いてくれない」などと悩むと思いますが、「こんな薬剤師になりたい」というビジョンがあれば、必ず見えてくるものがあるはずです。

 幅広い知識があると、医療現場に出た時に様々なことを感じ取れるようになるので、学生時代はたくさん勉強してください。特に共通言語である機能形態学、解剖学、生化学をしっかり学んでおいてください。解剖学は非常に大事ですし、栄養の概念としてTCAサイクルや解糖系等の生化学の知識はすごく使います。いまやっていることは無駄ではない――。それを強調して伝えたいです。



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