【医学アカデミー薬学ゼミナール】第105回薬剤師国家試験に向けて‐第104回薬剤師国家試験を振り返る

2019年5月1日 (水)

薬学生新聞

医学アカデミー薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子

木暮喜久子氏

 6年制薬剤師を輩出する8回目となる第104回薬剤師国家試験(国試)は、2月23、24日の両日に実施された。表1に示すように受験者総数1万4376人、総合格者数1万0194人、総合格率70.91%で、103回(70.58%)とほぼ同じ総合格率であったが、受験者総数が1133人増加している影響により総合格者数は715人増加した。

 6年制新卒の合格率は、85.50%(合格者数8129人)で、103回(84.87%)とほぼ同程度、6年制既卒の合格率は43.07%(合格者数1950人)で、102回(50.83%)、103回(47.00%)と徐々に低下している。その他(旧4年制卒、4年制卒を含む)も33.72%(合格者数115人)と103回(32.58%)と同様に低い割合を示した。6年生の学生さんは、新卒での合格を目指し、早めに勉強を始めることが大切である。

 2018年8月31日「新薬剤師国家試験について」の一部改正について、局長通知の記の4の合格基準が、次のように改められ、104回から適応された。

4 合格基準

 104回は、合格基準に禁忌肢が加味されたこともあり、合格を心配された受験者も多かったが、「禁忌肢選択数2問以下」と発表され、合格者数に大きな影響はなかったと思われる。

1 104回を振り返って

 103回同様に「基礎力」「考える力」「医療現場での実践力」を問う問題は104回国試においても、継続して多く出題されていたが、正答率が90%を超える問題数(図1参照)が例年より多く、受験生にとって解答しやすい問題が増えたため、全体としては103回国試より平均点が高かった(薬学ゼミナール自己採点データの結果より)。また、実践問題を中心に臨床的見地からの判断を問う内容が多くなっていることから「問題解決能力」や「臨床能力」を持つ6年制薬剤師に対する期待を感じさせる傾向は続いているといえる。20年春に実施される105回国試も継続して、実践力・臨床能力を問われる問題が出題されると思われる。

 104回国試より加味されることになった「禁忌肢」により、公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等、誤った知識を持った受験者を識別されることになる。受験者は、禁忌肢導入の意義を理解し、6年間の薬学教育の中で医療人としての倫理観を養っていくことが重要である。

2 第104回薬剤師国家試験の総評と105回の合格に向かって

 「薬ゼミ自己採点システム※1」による104回国試の平均点は、表2のように102回に比べて合計で17.1点増加、必須・理論・実践問題の全てで103回より増加している。104回は、採点における調整により、不適切問題が1題(問197:全員を正解として採点)、複数解答問題が2題(問113、問190:複数の選択肢を正解として採点)となり、足きりなど合格基準を満たしていれば、全問題の65%以上(225点以上)の得点で合格となった。

 104回国試の領域別正答率(表3)では、例年難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」が、同様に低い正答率であり、また「薬剤」も低い正答率であった。実践問題では、「物理・化学」、「薬剤」の正答率が低かった。

 1)既出問題の出題は全体の20%くらいとされ、単なる正答の暗記による解答が行われないように、問題の趣旨が変わらない範囲で設問および解答肢などを工夫することになっている。104回国試では「病態・薬物治療」の必須・理論で、既出問題そのままの再出題があった。101回では「物理」と「衛生」で出題されたことがあるが、103回、102回では既出問題そのままの再出題はなかった(薬ゼミリサーチ:再出題0%)。近年の既出問題を解くことは傾向をつかむために重要であるが、正答を丸暗記するのでなく、参考書などで周辺の知識もしっかり勉強してほしい。

 2)コア・カリキュラムの改訂(改訂コア・カリ)により、19年からの長期実務実習中に必ず体験してほしいとされる「代表的な8疾患※2」が発表されているが、実践問題を中心にその疾患に関わる内容が多く出題され、103回を上回る出題数であった。

※1「薬ゼミ自己採点システム」:3月25日現在、1万2555人のデータ
※2「代表的な8疾患」:がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症(薬学実務実習に関するガイドライン2015年2月文部科学省)

3 薬剤師国家試験の概略と105回に向けての対策

 国家試験は、必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題である。出題試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域である。試験は、領域別に行うのではなく、薬学全領域を出題の対象として、「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で行われる(表4)。それぞれの出題区分は下記のような問題内容で出題される。

 1)「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験と同様の五肢択一の問題である。また「必須問題」は、一般問題に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源である。「必須問題」は、80~90%の得点率を目指して勉強してほしい。104回薬ゼミ自己採点システムにおいて「物理」の正答率が103回と比較して6.9%低かったが、物理は「物理・化学・生物」として区分されるため、足きりに該当する受験者はほぼいないと予想される。

 2)一般問題の「薬学理論問題」は「実務」を除く全科目で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須問題より高い。104回は、103回とほぼ同等の正答率であった。104回の「薬学理論問題」において、「物理」「化学」「生物」「衛生」との4連問が出題され、科目の壁を越えた知識の習得が求められた。また、「薬理」と「病態・薬物治療」の連問が3題出題され、改訂コア・カリを意識した出題と考えられる。

 3)一般問題の「薬学実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなる。「複合問題」は、症例や事例を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題である。104回の複合問題では、103回に引き続き、科目をまたいだ4連問(「薬剤」「薬理」、2題の「実務」)や「薬理」と「実務」での4連問など4連問の出題が増加した。今後も長期実務実習の成果を問う実践的な問題は経時的な背景を連問として問う形式で出題されるであろう。

 4)薬剤師国家試験は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解くことになっている。時間配分を考えて、難易度の高い問題を飛ばし、解きやすい問題から解くのもよいであろう。その際は、マークシートのつけ間違いには十分に注意してほしい。また、禁忌肢が導入されたことを意識して、読まずにマークしたり、マークミスをしたりしないよう注意が必要である。

 5)101回から適応された改訂後の問題区分にそった合格基準と問題数を表4に挙げている。これまでの「総得点率65%以上という絶対基準」から「平均点と標準偏差を用いた相対基準」に変更となったが、「当分の間、全問題への配点の65%以上であり、かつ、他の基準を満たしている受験生は少なくとも合格となるように合格基準を設定する」と発信されている「当分の間」がいつまで該当するのかは明確にされていない。

4 科目別総評と科目別104回の傾向

■物理

 〔難易度〕必須「やや平易」、理論「やや難」、実践(物理:「難」、実務:「やや平易」)

 〔総評〕必須は、既出問題レベルの出題が多く、既出問題の理解度が問われる内容であった。理論の物理化学は、文章をよく読み知識を活用しないと解答できない問題があった。一方、分析化学は例年通り、日本薬局方の問題が多く出題された。実践では、他科目の知識を必要とする問題、グラフから測定値を読み取る問題が出題されており、「考える力」や「複合的知識」が必要であった。全体として、既出問題からそのままの出題はなく、計算問題、グラフ、スペクトルを用いた考える力を必要とする問題、他科目の知識を用いて解答を導く問題が出題されていた。今後も既出問題のキーワードを暗記するだけでなく、理解して解き、既出問題に出題されていた内容を応用できるようにする必要がある。

■化学

 〔難易度〕必須「平易」、理論「難」、実践(化学:「やや難」、実務:「平易」)

 〔総評〕必須は、近年の傾向通り、構造式が多く出題された。また、必須で初めて、生薬の主要成分を選ぶ問題が出題された。理論も近年の傾向通り、全ての問において、構造を絡めた問題が出題された。化学反応においても単なる主生成物を問う問題ではなく、最も反応が早く進行する試薬を選ぶ問題など、考える力を必要とする問題が出題された。実践の化学は5題とも、構造を絡めた出題であり、考える力を必要とする問題が出題された。全体としては、すべての問題において構造が関連しており、暗記ではなく、構造を見て判断させる問題が出題されていた。生体成分の構造を絡めた問題など、既出問題の習得のみでは解答は難しく、「考える力」や「構造をみて判断する力」が要求される問題が多かった。

■生物

 〔難易度〕必須「平易」、理論「やや難」、実践(生物:「やや平易」、実務:「中等」)

 〔総評〕必須は、既出問題の理解により解答を導きやすい問題を中心とした出題であった。図や構造式を用いた問題は5題中2題であった。理論は、考える力を必要とする問題が多く出題された。図表を用いた問題が5題あった。このうち、実験考察問題も例年より多く3題出題されており、与えられた情報を正確に理解し、推測する総合的な力が求められた。実践は、患者背景や病態、薬物の代謝に関する問題が多く出題された。他科目に関連する幅広い知識が求められているため、今後も科目の壁を越えた学修が求められる。

■衛生

 〔難易度〕必須「平易」、理論「やや平易」、実践(衛生:「中等」、実務:「中等」)

 〔総評〕必須は、例年よく出題される範囲(食中毒、化審法、富栄養化)からの出題であった。また、社会背景を反映したロコモティブシンドロームに関しての出題があった。理論も、例年通りの傾向で、図やグラフの情報を読み取る問題が4題、構造問題が3題であった。実践は、現在の日本で起きている社会問題について出題された。輸液、食中毒、医療放射線、学校薬剤師に関しては例年通りの出題であった。全体としては、例年よりも既出問題の知識で解けるものが多かった。図や表を用いた問題の出題が多いが、多くの問題は事前に学修した知識を使うというより、問題文と図表を見比べて解くことが可能な「理解力」の求められる問題であるため、落ち着いて取り組めれば、得点源とすることができた。

■薬理

 〔難易度〕必須「平易」、理論「中等」、実践(薬理:「やや平易」、実務:「中等」)

 〔総評〕必須は、既出薬物の作用機序を問うものが中心で、範囲は満遍なく出題された。理論で、未出題薬物の作用機序を問う内容は15題中6題であり、例年に比べて少かった(103回では10題)。一方で、販売されて1年に満たないが、話題性が高い薬物(バロキサビル)の作用機序が問題されるなど、臨床現場の変化に応じた出題も見られた。実践は、ガイドラインからの出題など、臨床現場を強く意識した内容が中心であり、5年次の実務実習で学んだ知識をしっかりと生かせるかが問われていた。また、検査値から症例を読み解き、治療薬の作用機序・薬理作用へとつなげる問題も出題されているため、病態・薬物治療と薬理の両方の知識を活用する力が求められていた。

■薬剤

 〔難易度〕必須「平易」、理論「難」、実践(薬剤:「やや難」、実務:「やや平易」)

 〔総評〕必須は、既出問題の知識を中心とした出題であり、万遍なく学修が進んでいれば得点できる問題が多かった。理論の薬物動態学については既出問題で問われた知識を中心とした出題であった。一方、製剤学では図やグラフを読み取り考えることが必要な問題が多く、局方改定など新しい内容も意識した出題であった。実践は、腎障害患者や中毒時の体内動態解析など、臨床現場を意識した問題が多数あった。全体としては、昨年と同様に、必須は既出問題の学修で高得点を期待できるが、理論と実践の難易度は高く、グラフと図の読解や考える力を要する計算問題が多数出題された。また、製剤学では実際の具体的な医薬品に関する出題が増加した。

■病態・薬物治療

 〔難易度〕必須「平易」、理論「やや難」、実践(病態・治療:「中等」、実務:「中等」)

 〔総評〕必須は、新規疾患からの出題はほぼなく、基本的な問題が多く解答しやすい内容であった。理論では、情報・検定が2題と例年に比べて(103回では6題)少なかった。また、症候からの出題が2題と多く、それ以外は基本的な疾患からの出題が多かった。実践も情報・検定が1題であり、例年に比較して少なかった。病態・薬物治療は基本的な疾患からの出題が多く解答しやすかった。全体としては、必須は正解を導きやすい問題が多かったが、理論・実践は一部、正解するのが難しいものもあった。情報・検定は全体で6題と例年に比較して少なく、検定に関しても基本的な内容が多く、例年のようなデータを判読する必要のある難問は出題されなかった。

■法規・制度・倫理

 〔難易度〕必須「平易」、理論「中等」、実践(法規:「やや平易」、実務:「やや平易」)

 〔総評〕必須は、近年の既出問題からの関連知識で対応できるものがほとんどであったが、生命倫理の四原則については初出題であった。理論は、既出問題の類似を含む問題が一定数あること、また新傾向についても落ち着いて臨めば正確な知識がなくとも判読できる問題となっており、比較的得点はしやすかったと思われる。実践は、必須・理論で出題のなかった範囲の出題(医療保険・介護保険)や現場の薬剤師目線で必要な知識や倫理の出題があることは例年の傾向に近いが、新傾向の問題や科目の壁を越えている問題が増加した。全体として、万遍なく様々な範囲から出題されているが、103回と同様に、既出問題から得られる知識と一般的な読解力で対応可能な問題であり、十分得点できた。薬剤師として必要性の高い範囲は、今後も繰り返し出題されると予想される。

■実務

 〔難易度〕必須「平易」、実践(実務の単問)「中等」

 〔総評〕必須は、個人情報から計算問題まで幅広い出題範囲であり、8~9点は十分に得点できる難易度であった。必須で初めて計算問題が出題された。また、イラストを用いた鑑査問題が出題された。実践(実務の単問)は、問題配分に偏りがあった。内容は既出問題ベースだが問い方が工夫されていた。104回で出題の多かったがん・感染症、計算問題、情報活用問題に関しては今後も出題される可能性が高いと予想される。

 複合問題の実務では、薬剤師が臨床検査技師へ質問した意図は何かを問う問題、患者の副作用歴や同効薬の特徴を活用して解く問題、論文の一部を活用して解く問題、吸入剤のデバイス変更による指導内容の違いを問う問題など、実際の実臨床で想定されるシチュエーションが多く出題され、暗記すべき知識も必要不可欠であるが、状況判断能力(考える力・問題解決能力など)と実務実習の経験を生かして解くことが重要であった。また、実務領域で計算問題が7題出題された。今後の国家試験においても計算力を問う問題は継続して出題が予想されるため、早期から実務領域の計算問題を学修する必要がある。



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