地域の在宅医療を支える
「処方箋調剤から投薬まで、患者さんから見て理解してもらえるよう職能をアピールし、薬剤師として一人ひとりの患者さんに丁寧に関わっていきたいです」と話す末延竜哉さん。福岡県北九州市を中心にドラッグストア・調剤薬局を74店舗展開しているサンキュードラッグの八幡調剤センターの薬局長として勤務している。2016年3月に福岡大学薬学部を卒業後、同社に入社し、この春に5年目を迎える。日々、薬局での外来調剤に携わりながら、店舗と地域を結ぶ部署として昨年4月に新設されたコミュニティケア事業部の在宅マネジャーとしても活躍している。
八幡調剤センターは近隣の市立八幡病院の新築移転に伴い、新設した調剤薬局。また、北九州市八幡東区の他店舗からの調剤に関する相談にも対応するなど、同エリアの基幹店としての役割を持つ。
末延さんの1日は8時15分の出社から始まる。八幡調剤センターでは小児の患者が多く、てんかんなどの神経疾患や循環器疾患の患児に対する処方監査および調剤、そして患児を心配する親御さんへの丁寧な服薬指導のため、8時30分の開店から13時頃までは、外来患者にかかりきりとなる。
八幡調剤センターでは現在、近隣の介護施設と個人宅の在宅医療を手がける。末延さんの午後の業務は13時すぎから車で30分ほどかけて在宅訪問し、14時頃に店舗に戻り、その後も外来調剤への対応に従事するというのが日々の業務の流れだ。
店舗業務とは別に末延さんは、所属するコミュニティケア事業部の在宅マネジャーとして、他店舗の在宅医療のサポートも行う。病院、診療所、ケアマネ事業所、介護施設などに訪問し、店舗との関係維持や課題抽出のためのヒアリングを行ったり、担当店の薬剤師に代わり、担当者会議や退院時カンファレンスに参加したりすることもある。
そうした業務を行った後、17時頃に再び薬局に戻り、当日の在宅訪問の報告書を作成し、医療機関、ケアマネジャー等に報告。また、在宅マネジャーとしての業務日報も作成。その後、店舗内の業務進捗の確認、土日祝の急患対応の薬剤師のシフト調整などの運営管理業務を行ったのち、17時30分に業務が終了する。
末延さんは、入社1年目から在宅医療業務に関わる店舗で勤務。これまで新規に建設された施設の入所者への在宅医療の提供体制の構築を一から手がけるなど、在宅医療の現場経験を人一倍積んできた。また、入院から在宅に移行後に栄養状態が低下した患者に対し、社内の管理栄養士とともに介入、食事が摂れず体重が減少し続ける患者の栄養状態を、食事と薬物治療の見直しによって改善した。その内容を論文とした実績に加え、経験を生かし、1年目対象の社内研修で講師を担当することもある。
薬学部に進んだ理由について末延さんは、「小児喘息だった子供の頃に、薬局には苦しい状態を楽にしてくれる薬をもらえる場所というイメージがあり、当時から薬局で働く薬剤師になりたいと思いました」と話す。さらに薬学部5年次の薬局実務実習で、担当となった指導薬剤師が地域の中で溶け込み、処方箋がなくとも患者の薬の相談に気軽に対応していた姿を目の当たりにし、「こういう薬剤師になりたい」とさらに気持ちを強くした。最終的には末延さんの地元でもある北九州エリアで地域密着型のサンキュードラッグへの入社を決めたという。
現場の薬局で働き始めた頃に、学生時代に学習した丸暗記の薬効薬理が、生身の人に全て通用するわけではないということを痛感する場面に幾度も遭遇。「自分が薬学部で学んだ知識を患者さんに噛み砕いて話すことへのギャップに苦しんだ」と振り返る。
薬剤師としてのやりがいについては、「患者さんとしっかりと向き合うことで、『ありがとう』と感謝の言葉をかけられると、知識をより研鑽しようというモチベーションになります」。末延さんが店舗を異動する前に、自身が対応していた患者が、わざわざ薬局にあいさつに訪れてくれたことも。末延さんは「思い描く薬剤師像に向けて、知識・人柄、両面で成長していきたいです」と今後の抱負を語ってくれた。