情報提供で医師や患者に貢献
日本ベーリンガーインゲルハイム(BI)でMRとして活動する石伏史明さんは、同社で働き始めて7年目を迎えようとしている。近畿大学薬学部医療薬学科に在学した当初は、薬剤師を目指していたが、同じ学部の先輩が製薬企業のMRとして就職したことをきっかけに、MR職に関心を持った。
2014年4月に日本BIに入社し、11月に東京支店立川営業所に配属された後、18年8月からプライマリーケア事業本部営業本部東京支店武蔵野営業所で糖尿病、呼吸器疾患、循環器疾患を担当している。また、今年1月から同営業所の病院専任MRとして活躍の場を広げている。
日本BIでは、担当エリアでの情報提供についてMRの裁量が大きい。活動の自由はある分、責任は重大だ。とある1日。石伏さんは、9時に担当病院の薬剤部へ訪問するところから始まる。事前に医師・薬剤師への情報提供でどんな内容を伝えたか、訪問目的とゴールは何か上司と確認する。地域で採用薬を統一するフォーミュラリの動きが活発になり、病院からの関心も高いテーマだ。病院からの問い合わせに対応するため、本社部門に同行してもらい、より詳細な情報提供を行った。
10時30分、会社に出社後、メールの返信や前日までの営業実績や有害事象報告に関するメールの確認などを済ませ、午後の外勤の準備を行う。この日は、前任者のMRが担当していた医師の引き継ぎが予定されており、社内で打ち合わせをした。
12時45分には病院で医師への講演会案内と患者向けの新しい指導箋を紹介し、意見交換を行った。13時30分に同病院の薬剤部を訪問。担当した製品のパッケージが変更されたことを周知する。製品の包装変更は事前に薬剤師に伝えていないと、患者が不安になったりトラブルに発展する場合もある。安心して薬剤を使ってもらうためにも、小さな変更点でも伝えるべきことがあればすぐに情報提供を行うよう心がけている。
14時に遅めの昼食を終えた後、15時に前任との引き継ぎで担当病院の医局へと向かった。今後石伏さんが担当することになる医師にあいさつした。16時にも別の病院へ訪問し、担当交代のあいさつと今後の講演会について、講演の会場や運営の詳細などの打ち合わせを行った。17時30分には別の病院に行き、以前、製品について受けた質問に対し、要望された文献を用意して回答を行った。
18時30分には病院の門前薬局に訪問し、呼吸器疾患における吸入デバイスを適切に使用できるように患者向けの資料を配付しながら説明した。1日の業務がようやく終了し、帰宅した。
MR活動で大切にしているのは、「医師や薬剤師など、相手に興味を持って接する」「患者をイメージして情報提供を行う」という二つの行動である。入社1年目は苦難の連続だった。担当する医師が多用で厳しい訪問規制もあり、当時発売されたばかりの糖尿病新薬に関する情報提供がうまくいかず、他社製品が採用されたこともあった。医師にどうアプローチしていけばいいか分からず、悩んだ時期だった。
そんな苦しい局面で、当医師に訪問する際に同席した先輩MRに医師に対する接し方や情報提供の様子を確認してもらった。「医師や患者にとってメリットになる情報提供ができていないのではないか」との助言が根本的な課題に気づくきっかけになった。
製品に関する情報提供に偏り、患者や医療従事者側の立場をおろそかにしていたのかもしれない――。その後は情報提供の方法を見直し、事前の訪問準備を徹底するよう改めた。訪問する医師の治療理念や専門領域、担当している患者背景などを確認・把握し、面談の際には製品の話から入るのではなく、治療ガイドラインの変更についての情報提供や、治療する上で抱えている悩みを聞くスタイルに転換した。
これまではMRとして意識してもらえなかったが、ある日を境に医師から声をかけてもらえるようになった。石伏さんは「診察した患者さんについて今後の処方に関する相談をされるようになり、医師との間に信頼関係を築くことができた」と今もなお、MRの理想像を追いかけている。
病院専任のMRとして活動を始め、「これまで以上に地域医療の知識を深め、専門性を磨き、地域医療、医師、患者さんに貢献したい」と石伏さん。薬学生に対しては、「MRという仕事には薬学部以外の出身も多くいるが、薬学部で学んだ知識はMRの活動に生かされていると実感している。最終的には、医療従事者や患者さんに対する倫理感が一番重要になるので、そこは意識してほしい」と激励した。