【医学アカデミー薬学ゼミナール】第106回薬剤師国家試験に向けて‐第105回薬剤師国家試験を振り返る

2020年5月1日 (金)

薬学生新聞

医学アカデミー薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子

木暮喜久子氏

 6年生の皆さんが受験される2021年実施の第106回薬剤師国家試験(国試)は、改訂薬学教育モデルコア・カリキュラム(改訂コア・カリ)に準拠した「新薬剤師出題基準」での初めての国家試験です。旧コア・カリでの最後の国家試験であった第105回国試は、今年2月22、23日の両日に実施されました。表1に示すように受験者総数は第104回国試とほぼ同じ1万4311人、総合格者数は若干減少し9958人(第104回1万0194人)でした。総合格率は69.58%で、第104回(70.91%)と比較すると微減でした。6年制新卒の合格率は、84.78%(合格者数7795人)で第104回(85.50%)、第103回(84.87%)とほぼ同程度、6年制既卒の合格率は42.67%(合格者数2050人)で、合格者数は100人増加したものの、103回(47.00%)、第104回(43.07%)と合格率は低下し続けています。

 第106回国試を受験される6年生の皆さんは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、学修環境が整わない状況で不安を感じている方も多いと思います。しかし、上記のように新卒での合格率は既卒より高いことから、新卒での合格を目指してなるべく早く勉強をスタートさせてください。青本などの参考書やオンライン教室など学修ツール等(参考:https://www.yakuzemi.ac.jp/online)の活用をお勧めします。

 国試の合格基準は、第101回から絶対基準から相対基準となり、第104回から禁忌肢(参考*)が加味されました。第105回の合格ラインは、全問題の得点が61.7%(345点換算で213点)で、近年の国試では最も低い合格ラインとなり(第103回217点、第104回225点)、難しい試験だったと言えます。また「禁忌肢選択数2問以下」でしたが、合格者数に大きな影響はなかったと思われます(表1参照


参考:104回から適応されている合格基準(2018年厚生労働省通知)

 以下のすべてを満たすことを合格基準とすること。なお、禁忌肢の選択状況を加味する。

 [1]問題の難易を補正して得た総得点について、平均点と標準偏差を用いた相対基準により設定した得点以上であること。

 [2]必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること。

 *「禁忌肢」は、第104回から加味されることになりました。公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等であり、誤った知識を持った受験者を識別されます。受験者は、禁忌肢導入の意義を理解し、6年間の薬学教育の中で医療人としての倫理観を養っていくことが重要です。

1.第105回薬剤師国家試験を振り返って

 薬学ゼミナールの第105回薬剤師国家試験自己採点システム(薬ゼミ自己採点システム)の結果(3月25日現在、1万2658人入力)では、第104回に比較し正答率が60%を超える問題数(図参照)が少なく(20問程度減少)、「基礎力」に加え「考える力」「現場での実践力」等を必要と難易度の高い問題が多く、全体としては第104回国試より平均点はかなり低下し、近年で最も難易度の高い国家試験でした。また実践問題を中心に臨床的見地からの判断を問う内容が多くなっていることから「問題解決能力」や「臨床能力」を持つ6年制薬剤師に対する期待を感じさせる傾向であったと思います。

2.第105回薬剤師国家試験の総評と第106回に向かって

 薬ゼミ自己採点システムによる第105回国試の平均点は、表2のように第104回に比べて合計で11.9点減少、理論問題は第104回とほぼ同様、必須問題と実践問題は第104回より大きく減少した難しい国家試験でした。第105回国試の領域別正答率(表3)では、例年難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」の正答率が低く、同様に「薬剤」も低い正答率でした。第105回ではさらに「病態・薬物治療」の正答率も低い結果でした。実践問題では、第104回同様「物理・化学」の正答率が低く、実践実務(全65問)の正答率が低かったことも特記すべきことでした。また、「物理」では、必須・理論・実践でも低い正答率でした。

 1)既出問題の出題は全体の20%くらいとされ、単なる正答の暗記による解答が行われないように、問題の趣旨が変わらない範囲で設問および解答肢などを工夫することになっています。第104回では「病態・薬物治療」の必須・理論で、既出問題そのままの再出題がありましたが、第105回にそのままの再出題はありませんでした。近年の既出問題を解くことは傾向をつかむために重要ですが、正答を丸暗記するのでなく、参考書などで周辺の知識もしっかり学修しなければ得点できません。

 2)改訂コア・カリにより、長期実務実習中に必ず体験してほしいとされる「代表的な8疾患※1」は、実践問題を中心にその疾患に関わる内容が多く出題されていますが、第105回ではそれらの疾患に対する一般的な知識では解答が導けない、臨床現場での対応能力が備わっているかを問う問題が多く出題されています。
※1「代表的な8疾患」:癌、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症(薬学実務実習に関するガイドライン 2015年2月 文部科学省)

3.薬剤師国家試験の概略と第106回に向けての対策

 薬剤師国家試験は、必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題で出題されます。出題試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域です。試験は、領域別に行うのではなく、薬学全領域を出題の対象として、「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で行われます(表4)。それぞれ試験区分の第105回の傾向と第106回に向けての対策を記載します。

 1)「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験と同様の五肢択一の問題です。また「必須問題」は、一般問題に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源です。「必須問題」は、80~90%の得点率を目指して勉強してください。第105回の「物理」の正答率は第104回と同様に低かった(表3参照)が、物理は「物理・化学・生物」として区分されるため、足きりに該当する受験者はほぼいないと予想されます。必須は近年難しくなり、第106回でも医療に絡む問題が出題されると思います。

 2)一般問題の「薬学理論問題」は「実務」を除く全科目で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須問題より高く、第105回も難易度の高い問題が多く出題されています。また「化学」「生物」「衛生」との3連問(グルコースの輸送過程に関する問題)が出題され、科目の壁を越えた知識の習得が求められています。「薬理」と「病態・薬物治療」の連問も第104回と同様に3題出題されており、改訂コア・カリを意識した出題でした。この傾向は第106回でも変わらず、臨床を意識した問題は増加し難しくなると思われます。

 3)一般問題の「薬学実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなっています。「複合問題」は、症例や事例、処方箋を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題です。第105回の複合問題では、第104回に引き続き4連問として「法規・制度・倫理」2問と「実務」2問での連問が出題されました。今後も長期実務実習の成果を問う実践的な問題は経時的な背景を連問形式として出題されると思います。特に長いリード文を読み解き、その中から問題を抽出・解決することが重要になります。

 4)薬剤師国家試験は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解くとされています。時間配分を考えて、難易度の高い問題を飛ばし、解きやすい問題から解くのもよいでしょう。その際は、マークシートの記入ミスには十分に注意してください。また、禁忌肢が導入されたことを意識し、読まずにマークしたり、マークミスをしたりしないよう注意が必要です。

 5)科目の壁を越えた知識の習得は重要です。近年、理論での連問(例えば、「薬理」と「病態・薬物治療」の連問)など既に出題されていますし、一つの問題の選択肢に複数の科目の知識が必要な問題が多くなっています。国試の傾向をとらえながら、新出題基準に対応した参考書(青本)を用い基礎を身につけ、沢山の問題に触れ応用力をつけましょう。

4.科目別総評と科目別第105回薬剤師国家試験の傾向

■物理

 必須は、例年より難しく、分析に用いる器具や有効数字を理解した上で解答する問題、既出問題の周辺知識を理解していないと解答が難しい問題が多く出題されました。理論は、グラフ、イラスト、公式等が与えられ、知識を活用して解答する問題や治療薬や生体膜電位の原理等の医療を意識した問題が多く出題されました。実践は、画像診断の問題、医薬品の分離・分析の原理を問う問題等、やはり医療を意識した問題でした。全体として、グラフ・イラスト・公式・構造式等から考えて解答する問題が多く、また医療現場の現象と物理の基礎知識をリンクさせる意図が感じられる問題でした。今後も既出問題を暗記するだけでなく、周辺内容を理解して応用できるようにする必要があります。

■化学

 必須は、近年の傾向通り、構造式が多く出題されました。また、文章に示された化合物の中から該当する酸化数を持つ化合物を選ぶ、考えさせる問題も出題されていました。また、初めて生薬の生合成経路に関する問題が出題されました。理論も近年の傾向通り、生薬の1問を除き、図や構造を絡めた問題でした。実践は、すべて構造を絡めた出題で、読解力を必要とした考えさせる問題でした。アンチ・ドーピングにおける禁止薬物を構造で選ぶ問題や生体成分の構造や生体内の代謝反応を絡めた問題等、構造を見て判断できることが重要でした。既出問題は周辺知識を理解しないと解答できない問題が多く、また「考える力」や「構造をみて判断する力」が要求される問題が多く出題されています。

■生物

 必須は、図や構造から判断させる問題が多かったこともあり難易度は例年より高い出題でした。理論は、第104回に比べ既出問題やその周辺知識の理解により解答を導くことができる問題が多いのですが、実験考察問題として免疫沈降およびウエスタンブロット法が出題されており、与えられた情報を正確に理解し推測する総合的な力が求められました。実践は、機能形態学、薬剤の特徴に関する問題が多く出題され、医療に関する問題が多かったです。また図や構造、実験内容から判断する力を必要とする問題も出題されています。

■衛生

 必須は、図や構造から判断する問題が出題されています。また、感染症法で消毒等の対物措置が必要な感染症を選ぶ問題が初めて出題されました。理論は、既出問題がベースであり、文章をしっかりと読めば解答できる問題が多く出題されました。実践は、基礎疾患等の情報を総合的に判断し、解答を出す問題、高齢化を意識したと思われる認知症の画像診断や、地域医療に根差した薬剤師に関する問題として健康サポート薬局の役割などが出題され、全体として、最新医療のトピックスを知っておく必要性を感じる出題でした。

■薬理

 必須は、既出薬物の作用機序を問うものが中心ですが、グラフ・構造活性相関についても出題があり、例年に比べると考える問題が増加しています。理論は、未出題薬物を含めて作用機序を問う出題のほか、例年より構造式を絡めた出題が増加していました。実践は、薬の副作用発症機序や患者の状況に応じた治療薬を選択させる内容が中心で、多くの問題が症例に処方や検査値が記載されており、薬の作用機序だけでなく、症候から患者の状況を把握し、患者に発生している問題点を解決する能力が求められました。病態を含め臨床能力を問う問題が増加しています。全体としては、既出問題でよく出題される薬物が多いが、臨床的に話題性の高い初出題の薬物もバランス良く出題されています。

■薬剤

 必須は、既出問題を理解していれば解答できる問題が多いのですが、図やグラフを用いた問題が多く、解答するには正確な知識を必要とする出題でした。理論の薬物動態は、既出問題で問われた知識が中心で解答しやすい問題でしたが、物理薬剤は全てグラフの読解や計算が必要な出題であり、製剤でも添加物の特性を比較し考えて解答する等の難しい問題でした。実践は、薬に対する知識を問う得点しやすい問題もある反面、患者の状態から処方提案をする問題や薬剤を比較する長文を読解して考える必要のある問題等、まさに臨床現場で行われている判断力を求める問題も多く出題されています。全体としては、既出問題の知識を中心に学修を進めた上で、具体的な医薬品の特徴を理解していくことが求められています。

■病態・薬物治療

 必須の多くは基本的な内容から出題ですが、筋ジストロフィーなど初出題の疾患もあり、モルヒネ換算比など臨床現場で必要な知識を問う問題が初出題されていました。理論は、解答が困難な初出題の脳腫瘍に関する問題がありましたが、「代表的な8疾患」等の出題頻度の高い疾患も多く出題されていました。実践は、既出問題でも問われている基本的な疾患についての出題もあったが、症例の内容を読解して解答を導く難解な問題が多く出題されています。また、ニボルマブのように臨床現場で話題となっている薬物の副作用に関する問題等、薬剤師が取り組まなければならない最新医療を意識したものが出題されています。全体として、より臨床的な応用を必要とする問題が多くなり、医療現場を理解していないと解答が困難な出題が多くなっています。情報・検定の出題は5題と例年通りであり、解答しやすい内容でした。

■法規・制度・倫理

 必須は、例年と変わらず出題範囲に大きな偏りはなく、近年の既出問題から得られる知識で対応できるものでした。また、条件および期限付き承認が初出題されました。理論の法規・制度は、既出問題と関連知識で解答できる問題が多く、倫理は読解力がないと解答できない内容でした。実践は、例年通り、様々な範囲から出題され、既出問題の内容の理解や基本事項、読解力等で対応できる問題でした。医療現場に関連する法規・制度(麻薬、介護保険制度、副作用被害救済制度等)や、薬剤師としての職能が発揮できる分野(特定健康診査や薬物乱用・学校薬剤師等)が出題されています。全体として、様々な知識で臨機応変に対応可能かを判断するためか、出題順序が例年の傾向と大きく変化していました。内容は、薬剤師に関連する法規・制度の理解、倫理的な内容と判断、コミュニケーション能力等、薬剤師に必要な資質や臨床現場を意識した内容が幅広く出題さています。薬剤師として必要性の高い範囲は、今後も繰り返し出題されると予想されます。

■実務

 必須は、計算問題から学校薬剤師まで幅広く出題されました。また、健康サポート薬局やかかりつけ薬局等、現在薬剤師が取り組まなければいけない内容も出題されました。実践も褥瘡からオリンピック、学校薬剤師まで幅広く臨床現場を意識した問題多く出題されました。また、チェックシートや図を活用する内容も出題されました。全体として、周術期、AMR、オリンピック等、近年注目されている薬剤師が取り組むべき内容から出題されており、難しい問題でした。また、かかりつけ薬局での禁煙サポートや副作用を薬剤師が発見して入院治療を行うことができた等「地域包括ケアシステム」での役割を示唆する問題もありました。情報活用問題も例年通り複数出題されています。



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