【ヒト・シゴト・ライフスタイル】プロバスケ社長・選手で薬剤師‐B3「トライフープ岡山」を経営 TRYHOOP社長 中島聡さん

2020年5月1日 (金)

薬学生新聞

チームの社長兼選手として活躍する薬剤師の中島さん(右)

チームの社長兼選手として活躍する薬剤師の中島さん(右)

 薬剤師でありながらプロバスケットボールチームを経営し、選手も務める人物が岡山にいる。株式会社TRYHOOPの社長、中島聡さんだ。同社が立ち上げたチーム「トライフープ岡山」は昨年からプロバスケのB3リーグに参戦。5年後にはトップのB1リーグに昇格することを目指して挑戦を続けている。中島さんは、経営を担う社長としてスポンサーからの資金集めに奔走する一方、選手としてもチームに登録し、試合への出場を諦めてはいない。薬局1店舗の運営も任されており、薬剤師として週に1回は現場に立つ。「異色の経歴を持つ自分にしかできない活動を増やしたい」と将来を見据える。

(写真はTRYHOOP提供)

岡山への恩返し、スクール開設‐周囲の声受け5人制チーム結成

 今シーズンのB3リーグは昨年9月に開幕。全国の12チームが総当たりで対戦し、順位を競った。本来、今シーズンは5月末までだったが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてBリーグの全試合は中止になり、トライフープ岡山の順位は5位で確定した。今後2シーズン以内にリーグの上位に食い込んでB2に昇格し、さらにB1リーグへとステップアップしたい考えだ。

 バスケットボールと薬剤師は異色の組み合わせだが、そもそも中島さんはなぜバスケのプロチームを運営するようになったのか。これまでの経過を辿ってみたい。

 大阪府出身の中島さんは天王寺高校を経て岡山大学薬学部に進学。同博士前期課程に進み、新規糖尿病治療薬を開発する研究に関わった。化学が好きで、将来は製薬会社で働きたいと考えて薬学領域での学びを深める一方、十代の頃から部活で親しんでいたバスケットボールの存在が次第に大きくなったという。

 大学時代には部活を途中で辞めて、レベルの高い社会人のクラブチームに所属。岡山県の代表選手にも選ばれるほどの腕前で、「もっとやりたい、バスケで行けるところまで行ってみたいと思う気持ちが次第に膨らんでいった」。大学院で1年過ごした後に休学し、各地のプロチームを回って入団テストを受けた。その結果、2011年に大阪エヴェッサで練習生だがプロ契約を獲得。薬剤師として週3日、大規模商業施設内の薬局で働きながら挑戦を続けた。

 しかし、「プロの壁は高く通用しなかった。自分は一流の選手にはなれないと実感した」。翌年には退団して岡山に戻り、中島さんを含むバスケ好きの薬剤師3人で13年末に株式会社TRYHOOPを設立。岡山市内の倉庫を改装してコートを作り、5~15歳くらいの子どもを対象にバスケットボールを教えるスクール事業を14年3月から開始した。「岡山でバスケットがうまくなったので、岡山で何か恩返しがしたいと考えてスクールを始めた」と振り返る。

 昼間は薬局薬剤師として働きつつ、夜間にバスケットボールを生徒に教える日々。スクール事業は好評で生徒の反応も良かった。「生徒が増えるうちに『なぜ岡山にはプロチームがないのか』『どうやったらプロになれるか』と子どもから聞かれることが多くなった」。その思いに応えるために、当初の構想にはなかったが、プロチームを立ち上げることになったという。

 3人制バスケットボールのチームを発足し、15年4月からプロリーグに参戦。当時は3人制リーグが発足したばかりで参入しやすく、1000万円あれば1年間チームを運営できるためハードルも低かった。中島さんは選手としても活躍し、チームは15年の参入以降毎年、上位の成績を残した。

 3人制チームは存続しつつ、18年4月には5人制チーム「トライフープ岡山」を結成。要件を整備して19年9月からB3リーグに参戦した。「16年にBリーグが誕生し、岡山で参入するならそれは当社ではないかとの声が周囲で高まった。その声を受けて5人制への参入を決めた」。

 3人制と5人制では運営規模が全く異なる。5人制への参入後、運営に必要な資金は2億円以上に膨らんだ。売上の柱はスクール事業、グッズ物販、チケット収入、スポンサー収入の四つ。経営基盤を強化しチームを成長させるには、売上の四分の三を占めるスポンサー収入をいかに増やすかが鍵になる。「自分達の取り組みが企業の活動にどうつながるのかを理解してもらい、熱意を伝えることが大事」と中島さん。認知度を高めて、来場者も増やしたい考えだ。

 契約選手は現在15人。怪我のため試合への出場は控えているが、中島さんも選手としてチームに登録している。年齢は30代半ばに達し、現役生活はあとわずか。最適な引き際を模索したいという。

薬局を運営、現場で実務も‐異色の経歴、社会との架け橋に

中島さんは週1回程度、薬局で店頭に立っている

中島さんは週1回程度、薬局で店頭に立っている

 プロバスケチームの経営に力を注ぐ一方、中島さんは美作市にある「とよくに薬局」の運営も手がけている。トライフープ岡山のスポンサーでもある友愛薬局が15年に、後継者を探していたオーナーからとよくに薬局を買い取り、その運営を中島さんに委託した。内科・外科診療所の近隣に位置する薬局で、処方箋枚数は1日平均40枚。薬剤師3人が交替しながら現場に立ち、中島さんも週1回程度薬局に出向いて薬剤師として実務を担当する。

 このほか、別のスポンサー企業の依頼を受けて、漢方薬の通信販売を主体とする薬局での週1回の勤務も始まった。顧客からの疑義に電話で応答するのが主な仕事だ。

 現役の薬剤師という経歴はプロバスケチームの経営にも生きている。現在のスポンサーは約110社。同じ医療系の仲間として薬局を経営する10社が加わるほか、津山中央病院などの医療機関もスポンサーに名を連ねる。

 社会貢献事業として数年前から岡山市薬剤師会の薬物乱用防止キャンペーンに協賛し、連携して活動を展開している。「今後も医療分野と密接な関係を築き、試合がある日を医療デーとして健康を考える日にするなど、様々な医療系イベントとコラボしていきたい」と中島さんは言う。

 岡山に会社を立ち上げ、バスケットボールのスクール事業を開始してから6年でここまで来た。「駆け抜けてきたというのが率直な感想。B3リーグのチームを運営しているなんて、当初からは想像もつかない。一歩進んだらまた新たな道が見えてきて、挑戦を続けてきた」とこれまでの道筋をたどる。

 薬剤師でありながらプロバスケチームを経営し、選手も務める中島さんは、全国的にも希有な存在だ。「各地で講演してこういう生き方や活動を多くの人に知ってもらうなど、自分にしかできないことを増やしたい。そうすることで薬剤師の地位向上にも寄与できればいい。一般の人と薬剤師をつなぐ存在でありたい」と将来の夢を語る。



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