【ヒト・シゴト・ライフスタイル】日本のヘルスケア、底上げしたい‐MRからコンサルへ異例の転身 IQVIAジャパングループ 松井信智さん

2020年11月1日 (日)

薬学生新聞

社会にインパクト与える仕事を

松井信智さん

 ドイツでグローバルファーマへの魅力や憧れを感じた幼少期の経験が、人の役に立ちたいという気持ちを後押しして薬学部への進学を決めた――。IQVIAジャパングループでリアルワールドエビデンス事業の部門長を務める松井信智さんは、そう話す。東京理科大学薬学部を卒業し、薬剤師免許を取得。製薬企業でMRを経験した後、中小企業診断士の資格を取得してコンサルティングの世界に飛び込んだ。現在はリアルワールドデータを活用したソリューションの提供やコンサルティング事業を展開する事業部のリーダーを務めており、異色のキャリアを積み重ねてきた。松井さんが目指すのは、日本のヘルスケアの底上げだ。信条としている社会的インパクトを与える仕事を通じて、「社会貢献することが次のステップ」と意気込みを語る。

 松井さんは、1977年1月12日生まれの43歳。小学校卒業までの3年間をドイツで過ごした経験がある。ドイツ在住の頃は、病気になると日本の薬局を意味する「アポテケ」と呼ばれる場所で医薬品を調剤してもらい、病気や薬の相談にも乗ってもらっていたという。また、ドイツに数多くあるグローバルファーマが身近に感じられる環境であったことから、「グローバルに医薬品を展開することに漠然と凄さや魅力を感じた」と話す。

 中学校への進学と同時に日本へ帰国した。高校生になって「人の役に立てる仕事がしたい」と強い志を抱いていた松井さんにとって、ドイツでの経験が進路を選択する上での基軸となった。いつしか松井さんの中には、新薬開発によって人の役に立つという思いが生まれた。松井さんは、「新薬を開発すればジェネラルに、幅広く多くの人の役に立てる」と考え、東京理科大学薬学部に進学した。

ドイツ在住時の経験が原点

 学生の頃は、奨学金だけでは足りない生活費を稼ぐため、居酒屋などでのアルバイトに忙殺された時期もあった。京都から上京してきたため、慣れない東京での生活やアルバイトに追われる日々によって学業との両立は難航した。薬剤師国家試験の模擬試験では「全国ワースト10に入る落第生」で、教授に呼び出されることもあった。

 一方、アルバイトを継続しながら、サークル活動の一環として企業スポンサーを獲得した集客イベントの開催にも携わっていた。広告代理店の社内に学生だけのユニットを立ち上げてもらい、企業と一緒になって企画立案やイベント運営を手がけた。松井さんは「企業と関わったことで、ビジネスという観点からも今後のキャリアを考え始めた」と振り返る。

経営層に関心、コンサルへ
250人をまとめる松井さん。「社会的インパクトを与える仕事」を信条としている

250人をまとめる松井さん。「社会的インパクトを与える仕事」を信条としている

 そんな松井さんは、仕事をしていく上で「社会的インパクトを与える仕事」という考え方を一貫して持ち続けている。

 入学時は研究開発職として新薬開発を目指していた目標も、より大きな社会的インパクトを与えることができる製薬企業の経営者層を考え始めるようになった。製薬企業のトップを目指す上で、営業経験の有益性を感じたことから、山之内製薬(現アステラス製薬)にMRとして就職した。

 居酒屋でのアルバイトやイベント運営で培ったコミュニケーション力や企画力は、松井さんをトップレベルの営業マンに持ち上げた。着々と成績を伸ばし、充実した生活を送っていたある時、メディアで話題になり始めた外資系コンサルティング会社に関心を持った。松井さんは、コンサルで働く学生時代の友人から話を聞くうちに、「大手企業の経営層を顧客とするコンサルの仕事は、社内で上を目指すよりも目標への近道だと思った」と話す。

 早速行動に移した松井さんは、中小企業診断士の資格を取得。薬剤師資格を持ち、MR経験のある経営コンサルタントという当時では唯一無二の存在として、ベリングポイント(現プライスウォーターハウスクーパース)に入社した。

 コンサルでは、鉄道や金融、カメラなど多様な産業の中で、戦略立案やシステム導入プロジェクトマネジメント、業務改革などのプロジェクトに携わった。多くのプロジェクトが半年ごとに変わっていくため、松井さんは「そのたびに転職している感覚だった」という。

 入社当初は、プレゼンテーション資料を作成するためのパワーポイントの基礎スキルが足りず、プロジェクトリーダーからは「20代後半にもなるのに、今まで何をしていたのか」と叱責されたこともあった。だが、松井さんは「エキサイティングで楽しかった。何より早く成長できた経験になった」と振り返る。その後、得意とするヘルスケア領域に注力したいと考えていた時に、現在のIQVIAから、新規事業立ち上げの話が持ち込まれた。

薬剤師+αで唯一無二の存在に

 現在の松井さんの仕事は、リアルワールドデータを活用した社会貢献を行う事業の部門長だ。調剤レセプトデータや電子カルテから集積される医療ビッグデータの活用には多様性があり、裾野が広い事業の一つと言える。

 立ち上げ当初は、松井さんを含め2人で開始した事業だったが、今では250人規模に成長した。業務内容も、製薬企業へのコンサルティング事業にとどまらず、保険会社や健康保険組合、スポーツジム、食品会社へのサービス提供も行っている。具体的には、医療ビッグデータをAIに学習させて個人が将来罹患する可能性のある疾病リスクを予測し、リスクに応じた健康支援サービスを多様な事業者が提供するというサービスなどがある。

 最近では、大学教授と共同で新型コロナウイルスの感染状況を地域別に解析できるツールも開発した。LINEアプリを使ったアンケートの回答をデータベース化し、各都道府県の職員が地域の状況を解析したり、住民に警戒マップとして情報共有したりするものだ。

 今後について、松井さんは、「グローバルのノウハウも参考にしながら、スタートアップ企業などと連携して日本のヘルスケアを底上げしたい」と意欲を語る。社会的インパクトがあるヘルスケア事業を通じて社会に貢献することが、松井さんの目指す次のステージだ。

郊外の自宅でカフェのオープンに向けて準備を進めている

郊外の自宅でカフェのオープンに向けて準備を進めている

 仕事に心血を注ぐ一方で、プライベートでは都心から郊外へと移住し、オープン間近というカフェ兼自宅で妻と1匹の猫と共に、「ニューノーマルな生活」を送っている。妻が運営するカフェで「自分もたまに手伝いながら、今の仕事をしようと考えている」と話す。

 薬学生に向けては、「薬剤師は大きな武器になる。そこにプラスアルファを加えることで唯一無二の存在になれる。あとは臨機応変に良い環境に飛び込む勇気が大切」とアドバイスしてくれた。



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