CROは、開発業務受託機関(Contract Research Organization)の略で、医薬品、医療機器メーカーが行う治験などの各種開発関連業務から製造販売後調査までを受託支援する企業である。日本CRO協会(JCROA)の植松尚会長は、「CROの役割や業務、取り巻く環境は大きく変化しているが、これまで蓄積してきたノウハウを生かし、単なる受託業務から脱皮して、医薬品開発における自立したプレイヤーを目指し、より良い医薬品等をより早く患者に届けられるよう貢献していきたい。CROは医薬品開発に不可欠な存在となり、パートナーとしてメーカーに提案をしていく存在になった。CROはやりがい、働きがいのある業界である」とCROの魅力をアピールした。
国際共同治験が50%以上‐モニタリングのデジタル化進む
CROは米国で1970年代から始まった後、日本では80年代からデータマネジメント(DM)、統計解析業務などを行っていた企業が存在し、94年にはJCROAが設立され、97年に出された新GCP省令でCROの位置づけが明確化された。
JCROAの2020年11月現在の正会員は15社、賛助会員32社であり、19年の会員従業員総数は約1万7000人となっている。CROは、医薬品のみならず、医療機器、再生医療等製品領域の企業治験、医師主導治験、製造販売後臨床試験など様々な臨床試験、臨床研究に携わっており、主な業務はモニタリング、DM、統計解析、メディカルライティング、安全性情報の管理(PV)、監査薬事コンサルティングなど多岐にわたっている。以前は国内治験が中心だったが、最近は国際共同治験が50%以上を占める。CROの具体的な各種業務内容については、ホームページで紹介している。
中核業務のモニタリングでは、コスト、時間の効率化や高い品質が求められている。モニタリングの手法は訪問からデジタル化での対応、プロセス管理のリスク・ベースド・アプローチ、データのセントラルモニタリング方法が導入されており、モニター(CRA)の行動・業務手法が大きく変化している。CROは、ITシステムを活用しながら治験プロセスを進行させていく流れになりつつある。
今後、医療情報データベースを使った治験、また診断アプリなどの導入が期待されており、そこでもCROはプロセスの中心的役割を果たしていきたい考えだ。
充実した研修、検定体制‐業務の国際化などに対応
昨年、CROも新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた。病院の訪問制限も増えて、リモートによるモニタリングなどが多く活用されるようになった。医薬品開発の疾患が、生活習慣病から希少疾患、癌領域がメインになり、より専門的な知識が必要になった。増加している国際共同治験に対応するためには、英語のスキルも求められる。CRAはGCPの倫理性、科学性、正確性を基本としながら、デジタル化の知識も必要とされ、多様性、柔軟性を持った新しい手法の理解と応用が求められる。
国際化、デジタル化に的確に対応することが求められているが、JCROAには、治験実務英語検定、CRA認定試験、医学研修e-ラーニングといった研修、検定体制も充実している。
また、CROの社会的認知度が上昇したことから、社会貢献活動としてコロナ禍での支援活動への寄付、献血キャンペーンなどを展開しているほか、医薬品を扱う業種であるのでコンプライアンスを重要視し、昨年10月に「コンプライアンス宣言」を公表し、会員への徹底を図っているところだ。
植松氏は薬学生に対して、「CROの仕事自体が社会貢献であり、CROの各業務で達成感を得られる。医師やCRCなどとの意図を理解できるコミュニケーション能力が求められる業務でもある。ぜひ、CROという業界で、自分から新しい知識を取得して治験に求められる品質、コスト意識を持ちながら仕事をしていただきたい。CROは、メーカーと違って様々なメーカーの製品開発に携われる特徴があり、自らの知識を得るための大きなメリットになると思う。やりがい、働きがいのある業界である」と述べている。
JCROAは、優秀な学生を獲得すべく、大学の就職関係者を集めた業界説明会を毎年開催しているが、昨年は学生と就職関係者を対象に11月18日にオンラインで実施し、170人以上が参加したという。今後も認知・理解度を高めていきたい意向だ。