「ぜひ、わが社と面談の機会をつくってもらえないだろうか」。採用担当者が学生にオファーを出す「逆・求人型」の就活イベントがこのほどオンライン上で薬学生向けに開かれた。就活支援サービスを手がけるビーウェルと薬剤師国家試験予備校メディセレが共催した合同就職説明会「薬学生ドラフト」だ。学生は1分間のPRタイムで自分の魅力をアピールし、採用担当者は気になる学生に声を掛ける。思いがけない薬局や医療機関からのオファーもあるかもしれない。参加して視野を広げてみてはどうだろうか?
学生の視野広げる狙い
オンラインでのイベントは昨年11月3、23日の両日、正午から午後5時頃まで開かれた。各日程、関西圏の薬系大学を中心に学生約20人、薬局やドラッグストア、病院などの採用担当者ら約40人が参加。ビデオ会議システム「Zoom」上で一堂に会した。
薬学生ドラフトの大きな特徴は、学生が採用担当者に自分の魅力をアピールする「1分間PR」の時間を会の冒頭で設けている点だ。学生は事前に性格や人物像、理想の薬剤師像などを伝えるスピーチやパワーポイントのスライドを用意。パソコンやスマートフォンの画面越しに採用担当者らに対して1分間でテンポよくアピールした。
学生全員のPRを終えると小規模の面談会に移る。学生1人ずつにブースを設け、採用担当者が気になった学生を訪れる形式。ウェブ上の一つのルームに採用担当者2~3人前後が入室し、学生とフリートークを行ったほか、職場の特徴や働く環境、求人内容などを伝えた。面談は1ターム20分間を計6回実施。採用担当者は学生計6人、学生は採用担当者ら計10~12人ほどと面談を行った。
その後、1時間にわたって交流会を開催。採用担当者は気になった学生にインターンシップへの参加やウェブ面談などを打診し、次のステップに進んでもらうためのオファーを提示した。
最後に1分間PRのうまかった学生を表彰する催しを開き、約5時間にわたるイベントを終えた。終了後、採用担当者は参加した学生全員と連絡先を交換した。
1分間PRや小規模面談の時間を設けているのは、採用担当者に学生の個性をじっくり見てほしいからだ。
この日の司会を務めたビーウェルの白根孝昭専務取締役は「通常の合説のような堅いイベントではない。学生の素を見てほしいため、参加学生の服装を自由にして、笑いも交えつつざっくばらんな雰囲気で運営している」と話す。
イベント最大の特徴である1分間PRは「学生の素が出る瞬間。言葉に詰まる時もあるが、それが個性でもある」という。学生に自己分析の進め方やPR方法を教えるのも特徴の一つ。開催までの3カ月間にわたって学生とメンターの二人三脚で自己PRの内容を練り上げる。
こうした点に力を入れるのは、魅力があっても伝え方の上手下手で採用の可否が変わるからだ。白根氏は「就職活動は自己PRや魅力を伝える力の差が学生間の能力の差になってしまっている。その差を埋める必要がある」と説明する。
ビーウェルは7年ほど前から文系職種などを対象に逆・求人型の就活イベントを開催してきた。選ぶ企業と選ばれる学生という構図の就活のあり方に疑問を感じたのがきっかけだ。白根氏は「学生は雇われる側だが、自分の人生は自分で決められるはずだ。企業からオファーを受けて学生が選ぶという形が不足している」と話す。
7~8年前から薬学生のキャリア支援に関わっていた白根氏が業界の就職ミスマッチを減らしたいと考えて企画。一昨年初めて薬学生向けに開催した。今回はメディセレと共催となり、イベント規模も大きくなった。ただ、開催形式は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けてオンライン開催に切り替えた。
薬学生の視野を広げて、自分に合った就職先を見つけてもらう考え。「薬学生は就活で応募する企業や医療機関の数が2~3社ほどと少ない。このイベントでは、1日で10人以上の採用担当者と話し合いの時間を持てるため視野が広がる」と語る。
通常の合説では学生は自分の希望する就職先のブースを訪れるが、薬学生ドラフトでは志望していない企業や医療機関からもオファーがある。「大手志向や地元志向などは思い込みが多く、志望する分野以外の企業とも半強制的に向き合う必要がある」と話す。
他者が見た適性に気付く
メディセレの児島惠美子社長は「最終目標は薬剤師になって社会で活躍すること。自分のキャリアが見えると勉強へのモチベーションも上がる。いろいろな就職先を見て視野を広げ、薬剤師としての将来像をしっかりと持ってほしい。今、薬剤師が淘汰される時代が来た。選ばれる薬剤師になるため、自己成長について考える機会をつくってほしい」とエールを送る。
薬学生ドラフト開催に込めた思いを「自分が考える適性と他者から見た適性は時に違う。自分では選ばなかった企業から声をかけてもらうことで、そんな自分にも気が付いてほしい」と語る。
参加者集めや当日の運営には、過去にこの合説に参加した経験のある摂南大学薬学部5年生の丹波雄介さん、大阪薬科大学5年生の山口弥久さんと中村仁さんの学生3人が携わった。丹波さんは「実務実習や勉強に忙しい中で、3カ月間にわたって参加し続けてくれたのは本当にうれしい」と語った。
このイベントのメリットについて、中村さんは「気軽に相談できるメンターがいるため、自己分析などを進めやすい」と話し、山口さんは「志望する分野以外のさまざまな職場からもオファーがある。自分の視野を広げるいい機会になる」と話している。