医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一
今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するイベルメクチンの有効性を検討した論文を題材に、情報の取捨選択について考えてもらいたいと思います。みなさんは、「イベルメクチンには効果があるか」との問いかけに対して、次の四つのうちどの論文を引用して回答しますか。
[1]イベルメクチンを服用していた人で、新型コロナウイルスの感染リスクが83%低下(コホート研究[PMID: 34513470])[2]COVID-19患者がイベルメクチンを服用すると、死亡リスクが79%低下(システマティックレビュー・メタ分析[PMID:33779964])[3]COVID-19患者がイベルメクチンを服用しても、死亡リスクに有意な差を認めない(システマティックレビュー・メタ分析[PMID: 34318930])[4]COVID-19患者がイベルメクチンを服用しても、症状持続期間に有意な差を認めない(ランダム化比較試験[PMID: 33662102])
[1]では、83%もの感染リスク低下が示されており、ワクチンに匹敵するような予防効果にも見えます。しかし、この解析結果はコホート研究による検討であり、バイアスの入り込む余地が大きいといえます。
[2]はエビデンスレベルが高いなどともいわれるシステマティックレビュー・メタ分析による解析です。しかし、この解析に組み入れられた研究6件のうち4件で、バイアスのリスクが高いと報告されていました。
[3]は厳格な組み入れ基準のもと、バイアスのリスクが低い研究のみを組み入れて解析したシステマティックレビュー・メタ分析です。その結果、死亡リスクに有意な差を認めませんでした。
[4]はプラセボとイベルメクチンを比較した二重盲検ランダム化比較試験の論文でした。
実は、昨年11月に開催された日本薬局学会学術総会のワークショップで、約300人の参加者に同様の課題を投げかけました。薬剤師の立場だった場合と、テレビのプロデューサーの立場だった場合で回答してもらいましたが、論文の活用は、薬剤師の立場であった場合は[4]が最も多く(59%)、次いで[3](29%)でした。一方、テレビのプロデューサーの立場であった場合は[1]が最も多く(65%)、次いで[2](29%)となりました。
重視する論文情報は立場や文脈によって大きく異なることがお分かりいただけると思います。どんな論文を重視して臨床判断に活用するか、そのプロセスもまた薬剤師の専門性と言えるかもしれません。