わたしの「1日」~業界の先輩に聞く~ 大野記念病院薬剤部 森住誠さん

2022年1月1日 (土)

薬学生新聞

チーム医療の一翼担う

森住誠さん

 大阪市にある大野記念病院(250床)の薬剤部で働く森住誠さん。病院勤務歴は約12年で、2019年に同院に異動した。現在、化学療法室や消化器外科病棟での業務を受け持つほか、院内の各診療科を横断する栄養サポートチーム(NST)の一員としても活躍している。日常業務の中で、薬剤師の視点から薬物療法を評価し、処方変更を医師に提案する機会は少なくない。臨床研究にも力を入れており、「研究結果を広く知ってもらうことで、より多くの患者さんの役に立ちたい」と話す。

森住さんの1日

 11月のある日、森住さんは8時40分から始まった薬剤部での朝礼が終わると、4階の化学療法室に出向いた。ここでは3人の薬剤師が交代で、化学療法を受ける外来がん患者の服薬指導や、実施直前の処方チェックを担当している。

 森住さんはこの日、60代男性大腸癌患者の処方に目を向けた。切除不能のがんに対する化学療法として3剤を併用するFOLFIRI療法の実施患者。同療法に含まれるイリノテカンが誘発する下痢に対処するため、医師は整腸剤として酪酸菌などを含むビオスリーを処方した。不適切とは言えない妥当な処方だが、同剤で腸管内が酸性に傾くため、イリノテカンによる下痢が発現しやすくなる可能性があった。森住さんは、ビオスリーに代えて腸管内をアルカリ性に導く炭酸水素ナトリウムの処方を医師に提案し、受け入れられた。

 昼休みを経て13時からNSTの活動に取り組んだ。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、多職種が集まるNST活動は休止しているが、メンバーの一員である森住さんら薬剤師は週1回、入院患者の中から栄養面で問題がある患者のスクリーニングを実施。必要に応じて医師に処方提案を行っている。

 この日は、全身状態が悪化して入院した血液透析患者に処方されていたキドミン輸液をアミパレン輸液に変更するよう医師に提案した。アミパレン輸液の方がより多くのアミノ酸を含んでおり、退院に向けた嚥下訓練等の成果が出やすくなると期待したからだ。

 関連学会の要望をもとに添付文書が20年に改定され、それまで禁忌だった「透析または血液ろ過を実施している患者」にも投与可能になった。森住さんは院内で働きかけて同剤の採用を実現。以降、同様の処方提案に力を入れている。今後、この処方変更によって自宅への退院率や経口摂取の実現率がどれだけ高まったのかを検証し、関連学会で発表する計画だ。

消化器外科病棟で個々の患者に応じた最適な薬物療法を医師や看護師と検討する森住さん(右)

消化器外科病棟で個々の患者に応じた最適な薬物療法を医師や看護師と検討する森住さん(右)

 14時になると担当している消化器外科病棟に出向いた。病棟で薬剤師は持参薬を確認したり、処方がいつ切れるのかを調べて医師に連絡したりするなど、幅広く薬の管理に関わっている。服薬指導や処方の適正化も重要な役割だ。

 この日は、急性胃腸炎で入院中の70代男性患者の処方に着目。服用する8種類の薬を整理すると、基礎疾患や併用薬の副作用抑制に直接関係しない薬としてランソプラゾールが浮かび上がった。胃のむかつきなどの症状がないことを患者に確認した上で、長期使用での副作用出現を防ぐため同剤の削減を医師に提案し、受け入れられた。

 16時30分には薬剤部に戻って調剤業務を担当。17時で業務を終え病院を後にした。

 森住さんが薬学部進学を志したのは高校3年生の秋頃。当初は、調理師になるため専門学校への進学を検討し、親の勧めでひとまず大学を出ようと栄養学部を目指していた。しかし、私学の栄養学部の入試問題を見ると、薬学部の入試問題と似ていることが分かり、薬剤師資格に魅力を感じて薬学部志望に転向。05年に近畿大学薬学部に進学した。

 09年に卒業し、富田林市内の民間病院に就職した。薬局薬剤師になるつもりだったが、大学のバトミントン部の先輩の誘いを受けて、先輩の病院で働き始めた。居心地は良かったが、外部の勉強会で知り合った豊富な知識を持ち尊敬できる薬剤師に刺激を受け、自身のスキルをもっと高めたいとの思いが強まって、19年に大野記念病院に異動した。

 森住さんは「患者や医療従事者から『助かった』『ありがとう』と言われると嬉しい。それが仕事の原動力。感謝の言葉を聞くことで、自分が役に立ったと実感できる」と話す。

 これまでに取得した資格は、日本化学療法学会の抗菌化学療法認定薬剤師、日本臨床栄養代謝学会のNST専門療法士、日本腎臓病薬物療法学会の腎臓病薬物療法認定薬剤師など。近年は薬剤師向け勉強会で講師を務めるなど、外部に発信する機会も増えている。

 臨床研究にも力を入れており、このほど日本腎臓病薬物療法学会の21年度優秀論文賞を受賞した。今後も引き続き「カルテを利用した観察研究の結果などを、学会で発表したい。そうすることで取り組みが他施設にも広がり、より多くの患者さんの役に立てる。若手育成にも力を入れたい」と意気込みを語る。



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