【これから『薬』の話をしよう】臨床試験が行われた地域とバイアス

2022年6月15日 (水)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するイベルメクチンの有効性について、死亡リスクの低下を報告した研究がある一方で、効果が期待できないことを報告した研究もあります。結果に一貫性を認めないのはなぜでしょうか。

 その理由の一つとして、研究手法の違いが挙げられます。盲検化や必要症例数の見積もりなど、適切な手法で検討されていないランダム化比較試験(RCT)では、イベルメクチンの効果を過大に見積もっている可能性が報告されています(PMID:35071686)

 また、研究が行われた地域にも注意が必要かもしれません。COVID-19に対するイベルメクチンの有効性を検討した研究の一部は中南米で行われています。中南米ではまた、ストロンギロイデスという寄生虫感染症の患者が多いことで知られています。この感染症はステロイドや免疫抑制剤を服用している人で重症化しやすく、感染初期から駆虫薬であるイベルメクチンの投与が推奨されています。

 COVID-19に対するイベルメクチンの有効性をRCTで検証する際、イベルメクチン群、プラセボ群、双方にCOVID-19に対する標準治療が行われます。つまり、両群でステロイドを投与される可能性が極めて高いのです。このRCTに、ストロンギロイデス感染症の患者が多く参加していたらどのようなことが起こり得るでしょうか。

 プラセボ群に割り付けられた人では、服用していた(あるいは服用すべきだった)イベルメクチンの投与を受けることができないばかりか、ステロイドが投与されてしまうかもしれません。つまり、死亡リスクはイベルメクチンの効果とは無関係にプラセボ群で高くなる可能性があるのです。この場合、プラセボ群に比べてイベルメクチン群で死亡が少ないという研究結果が得られることになります。

 そのような中、イベルメクチンのRCTが行われた地域と、死亡リスクに対する同薬の効果を検討した研究が報告されました(PMID:35311963)。解析の結果、プラセボ群と比較したイベルメクチン群の死亡リスクは、被験者のストロンギロイデス有病割合が5%増加するごとに39%低下しました。

 プラセボ群に割り付けられた被験者が、イベルメクチンの投与を受けることができず、ステロイドを投与されたことによって死亡リスクが高まるという説明は仮説にすぎません。しかし、RCTの結果に重大なバイアスをもたらす要因として、地域特有の被験者の背景という視点は興味深いものです。



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