【ヒト・シゴト・ライフスタイル】動画配信で「健康な人増やしたい」‐消毒液やOTCの選び方など解説 人気ユーチューバー 「薬剤師ぴよ」さん

2022年4月15日 (金)

薬学生新聞

明るい笑顔が人気の「薬剤師ぴよ」さん(本人提供)

明るい笑顔が人気の「薬剤師ぴよ」さん(本人提供)

 動画共有サイト「ユーチューブ」で活躍する若い女性の薬剤師がいる。その名も「薬剤師ぴよ」。薬系大学卒業後、医薬品の臨床開発を支援するCROでの勤務を経て薬局で働き、育児休暇期間中にユーチューブへの動画投稿を開始。視聴者を元気づける明るい笑顔で、科学的な視点からアルコール消毒液やOTCの選び方などを分かりやすく解説する動画が人気を集め、チャンネル登録者数は2万5000人以上に達している。動画視聴を通じて「健康や医療に関心を持ってもらい、健康になる人が増えればいい」とぴよさんは語る。

 「どうもこんにちは、ひよこが好きな薬剤師ぴよです。市販薬や健康について発信しております」。こんな台詞で始まるぴよさんの動画。ユーチューブ内の「薬剤師ぴよ」チャンネルには、これまでに投稿した100本以上の動画が並ぶ。

 白衣を着た若い女性薬剤師が笑顔で語りかける動画1本の長さは10分前後。最も視聴回数が多いのは、アルコール消毒液の商品比較や見落としがちな使い方を解説した動画で、37万回以上再生された。

 ほかにも、除菌シートの効果と使い方を手洗いやアルコール消毒液と比較した動画や、毎日の具体的な感染対策を解説した動画など、新型コロナウイルスの感染対策に関わる動画の視聴回数が多い。

 各種OTCやサプリメントの選び方や使い方を解説した動画も多く、中でも、ビタミンCによるシミ予防、ニキビ治療、目薬の選択の動画は10万回以上再生されている。視聴者からは「分かりやすい説明でとても参考になった」「いつも勉強になる」「笑顔に好感を持った」など、好意的なコメントが数多く寄せられている。

出産を機に動画投稿開始

 ぴよさんは2020年1月からユーチューブへの動画投稿を開始した。きっかけは子供の出産だ。

 17年に京都薬科大学を卒業したぴよさんはCROに就職し、半年後には薬局薬剤師に転職した。東京都内から神奈川県の大型薬局に通勤し、様々な領域の処方箋調剤や在宅医療への関与など薬剤師として充実した日々を過ごした。第1子の妊娠が分かり、育児休暇に入ったことを契機に、改めて自身の今後のキャリアを考えるようになった。

 育児をしながらでもキャリアを築いていきたいが、パート薬剤師では思い描くキャリアは望めないかもしれない。将来に向けて、今からできることは何だろう。自宅で育休中にやれることは限られている。このように思考を巡らせて、ブログやプログラミングなど自宅でパソコンを使ってできることの中から、ユーチューバーとして活動することを決めた。選択肢はそれしかなかったという。

 ぴよさんは「薬局で地域住民向けセミナーの講師を務めた経験があった。対象がカメラになるだけで、話すということは同じだと思った」と振り返る。

 動画で何の情報を発信するのか。「大学生の時に母親が疾患を発症し寝たきり状態になった。薬剤師として様々な病気の患者さんもたくさん見てきた。健康が一番大事だと身に染みて感じている。動画を通じて市販薬や健康に関する情報を発信し、それで健康になる人が増えればいいと思って開始した」と語る。

 最初に投稿した動画はスライドを映し音声で解説するだけで、顔は出していなかった。当初は薬剤師ミナと名乗っていたが、途中からチャンネル名のぴよに改名。発信する情報の信頼度を高めるために13回目から顔を出して話すようにした。新型コロナウイルスの感染対策を解説した動画が注目を集め、登録者が急増。開始後約3カ月半で登録者数は1万人を突破した。

根拠のある確かな情報発信

10分の動画撮影に1時間以上かけることもある(本人提供)

10分の動画撮影に1時間以上かけることもある(本人提供)

 動画は1本10分ほどだが、作成には多大な手間と時間がかかる。「1人でテレビ局をやっているようなもので、企画から台本づくり、撮影、出演、編集などやることが多すぎて大変」とぴよさん。

 「まず動画で何を話すのかを調べなければならない。その中で重要なことをまとめたり、一般の人でも理解できるようにするにはどうすればいいかを考えたり、説明用スライドを作ったりする必要もある。動画全体の構成を練ったり、細かいことで言えば動画の表紙画像にどんな文字を入れるのかを考えたりする必要があって、とにかく手間がかかる」

 撮影に入っても、何度も言い直したりして1時間近く要したり、撮影後も編集作業に5時間かかったりするなど、水面下の作業負荷は大きい。第2子を出産し現在も育児休暇期間が続いている。1人で遊ぶタイプだった第1子と違って、常に抱っこを求めてくる第2子は手がかかり、最近は動画作成の時間を捻出するのに苦労しているという。

時間と手間をかけて動画を編集する(本人提供)

時間と手間をかけて動画を編集する(本人提供)

 動画作成のステップの中でも特に、事前の企画や情報収集に時間をかける。薬剤師として不確かな情報を発信するわけにはいかない。自分がよく知らない領域であれば、本を買って勉強する。その上で、OTCの選び方の動画であれば「自分が消費者だったらどのようなOTCを選ぶのかという視点で情報をまとめる。それにも時間がかかる」

 新型コロナウイルスのアルコール消毒など新たな話題は書籍化されていない場合もある。そんな時には必要に応じて英語の論文を調べ、最新の情報を収集する。にこやかな笑顔で分かりやすく解説するだけでなく、根拠のある確かな情報で裏打ちされていることが、ぴよさんの動画の特徴だ。動画には調査に使用した文献のリストを明示している。

本の出版や商品監修を視野に

 人気ユーチューバーは億単位の収入を稼ぐとされる。ぴよさんも動画配信による収入は発生しているものの、その金額は「おこづかい以下程度」。情報収集のためにたくさんの本を購入するが、その経費を差し引くと赤字になる場合もある。

 活動の原資を確保するため今後は、低価格帯での有料動画配信や本の出版なども視野に入れている。

 企業との連携も模索したい考え。実際に企業から商品を動画でPRしてほしいとの依頼がある。しかし、「安易に引き受けてしまうと、これまでに築き上げた信用を失いかねない」として思いとどまっている。商品開発の監修には前向きに関わりたいという。

 これまで新型コロナウイルスの感染対策に関する動画が好評で、チャンネル登録者数や再生回数の増加に貢献してきた。感染対策への社会の関心も落ち着いてきたとして今後は、健康になるための食事や運動などをテーマにした動画配信に力を入れる考えだ。

 活動を開始してから約2年が経過した。「できないだろうと思って取り組み始めたが、やってみると自分の意外な側面を知ることができた。何でもやってみないと分からないと思う。取り組む前からあきらめてしまうのではなくて、まずは手をつけてみるといいかもしれない」とぴよさん。薬学生に向けて、何事にもチャレンジする姿勢で取り組んでほしいと呼びかけている。



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