【日病薬】「薬剤師派遣指針」を作成‐偏在解消へ制度構築後押し
日本病院薬剤師会の新会長に就任した武田泰生氏(鹿児島大学病院薬剤部長)は、本紙の取材に応じ、薬剤師の偏在解消に向けて、各地域での薬剤師派遣制度の構築を後押しするガイドラインを年度内に作成する考えを示した。地域医療介護総合確保基金等を利用して、地域の公的病院などが地方の病院に薬剤師を派遣する制度の構築に向けたノウハウを指針で示す計画だ。武田氏は「指針を参考に各都道府県病薬が地方行政にアプローチしてほしい」と話している。
同基金の取り扱いが整理され、地域の各病院へ薬剤師を派遣する経費として同基金を活用して良いことが示された。これを受け、日病薬は7月上旬、薬剤師派遣の制度化に向けて「病院薬剤師確保策に関する特別委員会」を設置。崔吉道氏(金沢大学病院薬剤部長)を委員長とし、第1回目の委員会を開催した。
武田氏は「年度内をメドに、地域の中でどの病院に派遣するかなど派遣のノウハウを盛り込んだ指針等を作成して各都道府県病薬に示したい」との考えを示す。
以前から、薬剤師の偏在解消の支援を日病薬に求める会員からの声は多かった。日病薬として介入する手段は乏しく、各施設の自助努力に委ねるしかなかったが、近年はこの問題に対する国や医師の理解が進み、環境が変わってきた。
薬剤師確保に関する厚生労働省の各種調査研究も進んでおり、武田氏は「この時期を逃さず、日病薬も一緒になって取り組んでいきたい」と強調する。
同基金は、薬剤師修学資金貸与事業を行うために必要な経費として活用して良いともされている。日病薬は和泉啓司郎専務理事を中心に、組織強化推進部で運用の具体的な方法に関する指針を早急に作成する。各都道府県病薬に提示し、各地での活用を促す計画だ。
一方、病棟薬剤業務実施加算を算定する病院は約2割に過ぎないとして、同加算の算定推進にも力を入れる考え。武田氏は「国は地域医療連携を推進しているが、全ての病院が加算を算定して病棟薬剤業務を充実させないと、地域医療の中でシームレスに薬物療法をつなぐことができない。加算を算定する病院を増やすことが課題」と語る。
同加算1の算定率は、病院の規模が小さくなるに従って低下し、昨年4月時点で100床未満の2973病院では11.0%となっている。
武田氏は「中小病院でも算定しやすい加算にしたり、中小病院の業務に診療報酬をつけたりするなどの取り組みが必要。マンパワーが不十分だと病棟業務を展開できない。診療報酬を原資に薬剤師を採用し、病棟での業務を充実させるなど、正のスパイラルに入る仕掛けを考えなければならない」と言及。
「中小病院でも算定可能な診療報酬の必要性はずっと認識されているが、要求するには根拠となるエビデンスが必要だ。その構築を薬剤師数が少ない中小病院に求めるのは酷かもしれない。日病薬主導でエビデンスを構築するなど、何らかのテコ入れが必要だろう」と話している。
(2022年8月29日掲載)
【文科省検討会】薬学部新設抑制案を了承‐中教審など経て告示改正へ
文部科学省の薬学系人材養成のあり方に関する検討会は8月16日、6年制課程における薬学部教育の質保証に関する取りまとめ案を概ね了承した。学部・学科の新設等の抑制を制度化するため、文科省は関連告示の改正案を中央教育審議会等に諮った上で、年度内に改正したい考え。薬剤師の地域偏在を考慮した例外措置の具体的期間も制度化と合わせて明示することにした。
この日の検討会で示された取りまとめ案では、6年制薬学部・学科の新設、収容定員増を抑制する方針を明記。速やかに制度化を進める一方、薬剤師不足など将来的な人材養成の必要性を示し、他の都道府県と比べて薬剤師確保が必要な地域は例外として取り扱うとしている。例外措置は「一定期間認める」とした。
委員からは、学部・学科の新設等を抑制する方針の制度化を明記したことを中心に、取りまとめ案を評価する意見が相次ぎ、概ね了承された。
田尻泰典委員(日本薬剤師会副会長)は制度化の実施時期、地域偏在を考慮した例外措置の具体的期間が明記されていない点を指摘した。
文科省高等教育局医学教育課は「今年度中に制度化が実現するよう準備を進めたい。早ければ2023年度申請、25年度設置の大学から適用することを目指す」と回答。例外措置の適用期間についても、制度化の過程で検討した上で明示することとした。
一方、例外措置について、田尻氏は「薬学部のない県に新設しても卒業生がその県にとどまるには何らかの方策がなければ難しい」と指摘。奥田真弘委員(大阪大学病院薬剤部長)も「地方自治体と大学の連携が大事だが、自治体は薬剤師の偏在については十分な情報を持っていない。自治体における偏在状況をしっかりと把握すべきとの記載が必要」と訴えた。
柳田俊彦委員(宮崎大学医学部看護学科長)は、地域偏在の解消策として、卒業後に当該地域で必ず就職することを学生に誓約書として記入させるルールを定めることを求めた。
学生が地域にとどまるための方策として、文科省は「当該地域で従事することを学生と大学の間で取り決めた地域枠の設定が有効」との考えを示した。
(2022年8月19日掲載)
【私立薬大協】入学志願者が8年ぶり増加‐減少に歯止め、倍率も上昇
日本私立薬科大学協会がまとめた2022年度の私立薬科大学(薬学部)の入学志願者数は7万6625人と、前年度に比べておよそ3000人増え、8年ぶりに増加した。入学定員数で見ると6年制で5大学、4年制で1大学が減少し、募集数に対する入試倍率は6.8倍と前年度の6.5倍から上昇した。32大学が前年より入試倍率が上がっていた一方、入試倍率が3倍を切った大学は14大学あった。
調査は私立薬大協加盟の60校(徳島文理大香川を含む)を対象に実施されたもの。今年度の定員は1万1291人と前年度から110人減少。6年制学科は1万0576人、4年制学科は715人となった。医療創生大が30人減、千葉科学大が20人減、帝京平成大が40人減、北陸大が20人減、第一薬科大が20人減となり、4年制でも東北医科薬科大が10人減となったのが定員減の背景と見られる。
また、募集数は一般が6871人と前年から177人減少した一方、推薦は4321人と36人増加した。
志願者数は一般が6万2958人(前年度6万0236人)、推薦1万3667人(1万3685人)、と合計で7万6625人と前年度から300人程度増加した。志願者数は15年度から減少し、21年度には7万人前半まで落ち込んだが、今年は8年ぶりにおよそ3000人の増加に転じた。総定員数が減少する一方で、志願者数が増加し、募集数に対する入試倍率は6.8倍となった。
入試倍率について見ると、6年制の一般は9.0倍(8.4倍)、推薦は3.2倍(3.1倍)、4年制は一般が11.9倍(11.0倍)、推薦が3.1倍(3.2倍)となった。
入試倍率が平均の6.8倍を超えた人気のある大学は22校となった一方、平均倍率を大きく下回り倍率が3倍に満たなかった大学は14校、2倍を切った大学は9校となった。
最も倍率が高かったのは近畿大で27.0倍(24.5倍)、次いで武蔵野大16.3倍(18.3倍)、東京理科大16.1倍(15.3倍)、立命館大15.5倍(10.2倍)、摂南大14.9倍(16.0倍)となった。10倍以上の競争率となった大学は9校と前年度から3校増えた。
(2022年8月31日掲載)
【薬食審部会】抗原キットのOTC化了承‐「第1類」で薬剤師が説明
薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断用医薬品部会は8月17日、新型コロナウイルス抗原定性検査キットのOTC化を認め、インターネットでの販売解禁を了承した。承認を取得している医療用抗原検査キットを一般用検査薬に転用するための評価指針について部会長一任で取りまとめ、厚生労働省は各都道府県に通知を発出した。
医薬品等安全対策部会安全対策調査会も同日に開かれ、一般用抗原検査キットのリスク区分は第1類に位置づけることが妥当とし、薬剤師が関与した形で販売を行えるようにする。
OTC化による需要増に対応するため、メーカーに対する増産要請を行い、医療機関向けを最優先としつつ、在庫に余裕がある製品を中心にOTC用として供給する。OTC化された場合、購入したキットで陽性となった人は、医師が配置された健康フォローアップセンター等に登録し、健康観察を受ける。
安全対策調査会では、一般用として販売するに当たっては薬剤師による適切な指導が必要との意見が相次ぎ、「第1類」とすることで了承した。今後、部会での議論を経て告示改正手続きを行い、販売時の情報提供に関する留意事項を薬局向けに通知で発出する予定。
新型コロナウイルス抗原検査キットをめぐっては、昨年9月に厚労省が特例で医療用抗原検査キットの薬局での販売を認める通知を発出した。
ただ、規制改革推進会議では新型コロナ感染症の緊急対応として、抗原検査キットのOTC化が検討事項として盛り込まれ、8月10日の厚労省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでは医療現場への供給を優先することを前提に、OTC化に向けて具体的に検討を進める方向性が確認されていた。
(2022年8月19日掲載)