【ヒト・シゴト・ライフスタイル】目指すはジェネラリスト薬剤師‐勉強会立ち上げ、学会発表も パル薬局菅生店 ミライ☆在宅委員会代表 三谷徳昭さん

2022年9月15日 (木)

薬学生新聞

三谷徳昭さん

 在宅医療で活躍できるジェネラリスト薬剤師を育てたい――。そう語るのはパル薬局菅生店(川崎市)の薬剤師、三谷徳昭さんだ。ドラッグストアで先駆的に在宅医療を経験し、患者の病態に応じて最適な薬物療法を医師に提案してきた。在宅には様々な疾患を抱える患者がいて、その治療に用いる医薬品は多種に渡るため、幅広い在宅の知識や経験を持った薬剤師が医師をサポートする医療体制が求められる。薬のスペシャリストではなく、医療のジェネラリストがこの国には必要と確信した三谷さんは、2014年に「ミライ☆在宅委員会」を立ち上げた。現在、メンバーは86人。在宅医療の魅力を自らの言葉で語れる薬剤師を1人でも多く増やしていくのが目標だ。

 三谷さんは00年に北里大学薬学部を卒業し、ドラッグストアに就職した。薬剤師の本質業務といえば調剤になるが、病院から処方箋を応需して調剤するよりも、患者の症状に応じてOTC医薬品を提案できる仕事に魅力を感じた。

 当時はOTC医薬品にリスク区分が設定されておらず、薬剤師による販売時対応も確立していなかった。三谷さんは市販されている医薬品の成分を自分で調べ、効能・効果ごとに効き目が強い薬剤、そうでない薬剤を分けて分類した。自らがまとめた分類表をもとに、患者が訴える症状から最適なOTC医薬品を選んだ。

 しかし入社3年目になるとドラッグストアで行うOTC医薬品販売と患者に提供すべき医療との間にギャップがあることを認識した。痛み止めの薬を提案した患者が病院の整形外科を受診してみると骨折していたり、咳がひどい患者に咳止めの薬を勧めても症状が改善しないという状況に直面した。ドラッグストアの薬剤師として最大限の提案をしたつもりだったが、医療として結果が出ないことに悩んだ。

 三谷さんは「患者さんの病態が分からないと薬の提案はできない」と強く感じた。例えば、咳が止まらない原因はいくつか考えられ、咳がつらいというだけで咳止めの薬を出しても、患者が抱える問題を解決できない。患者の病態に基づいて医薬品を提案できるようになるために、病態を学ばないといけない。これが三谷さんの原点となった。

患者と話し薬物治療決定‐専門医のサポートが役割

 在宅医療との関わりが薬剤師としてのキャリアを大きく変えた。ドラッグストアでは入社5年目に在宅医療を担当した。当時、在宅医療に進出するドラッグストアは異色で業界内でも先駆的な存在だった。

 在宅医療のやりがいについて三谷さんは「処方箋発行前に患者と関われるのが魅力」と話す。通常の業務では処方箋発行後に患者と初めて関わることが少なくないが、在宅医療では処方・診察前に患者と関わることが多く、そこで話を聞いた上で医師と一緒になって薬物治療を決めていく。

 在宅に多い高齢者医療では、医薬品の選択によって治療成績が良くなったり、副作用を軽減したりすることが顕著に見られるため、薬剤師が患者の病態を見て最適な薬物療法を提案する場面は多く生まれる。

 象徴的なエピソードがある。在宅で足のむくみに悩んでいた高齢の患者がいた。通常、利尿薬で足のむくみを取る治療が行われるが、なかなか改善せずに利尿薬を増量したところ、低カリウム血症で倒れ入院した。

 退院後にも再び足のむくみが起こり、三谷さんが患者の情報を収集してみると、OTC医薬品の漢方便秘薬を20年にわたって服用していることが分かった。

 漢方便秘薬の製品名を聞いたときに、ドラッグストアでOTC医薬品を販売していた三谷さんには、なぜ患者に低カリウム血症が起きたのか、その理由がピンときた。漢方便秘薬には大黄甘草湯が含まれており、低カリウム血症を伴う偽アルドステロン症を引き起こすことが知られていた。利尿薬の増量が原因ではなく、大黄甘草湯と利尿薬の相互作用により、電解質異常が起きていたのだった。

 すぐに医師に報告し、便秘薬をOTC漢方薬から医療用の酸化マグネシウムに変更してもらった。すると足のむくみは消失し、その後の副作用症状も現れなかった。

 三谷さんは、「漢方便秘薬で低カリウムが起こるというのは医師にも想像がつかなかっただろうし、そもそも便秘薬を飲んでいることも知らなかった」と振り返る。

 現在は神奈川県で調剤薬局を展開する「パル・コーポレーション」の在宅部長として、患者宅や入居先を訪問して医薬品を供給する在宅薬剤師業務をリードしている。

 三谷さんは、「日本は専門医制度が確立されており、スペシャリストの医師は揃っている。一方で在宅医療の患者さんは様々な病気を持っており、いろいろな薬を使う必要があり、例えば循環器の医師でも睡眠薬や便秘薬を出さないといけない」と説明。在宅医療を行う専門医を補うのが「薬剤師の役割」と話す。

負担軽減へ“処方減案”推進‐発信できる薬剤師育てたい

ミライ☆在宅委員会のメンバーと

ミライ☆在宅委員会のメンバーと

 薬剤師が在宅医療を学べる場として立ち上げたのが「ミライ☆在宅委員会」。今年で設立して8年目となり、30~40代の薬剤師を中心に20代のメンバーも加わっている。勉強会は毎月、学会発表は毎年実施しており、様々な疾患の病態、治療ガイドライン、薬物治療エビデンスを学ぶ。そこで得られた気づきやアイデアをもとに学会で研究成果を発表し、薬剤師としての新たな価値創造に結びつけるのが狙いだ。

 薬のスペシャリストから医療のジェネラリストとしての視野を広げる。三谷さんは、薬剤師が患者の負担を減らす提案をする“処方減案”を推進し、「ミライ☆在宅委員会」の勉強会でもテーマにしている。患者が抱えている問題を探し、それを解決するためにどんな方法が必要なのかを考える。そして、本当に必要な薬だけを飲んでもらい、不必要な薬は減薬する。減案が受け入れられれば、処方適正化に結びつき、社会保障費にも貢献できる。

 薬剤師の仕事をどう考えているのか。「薬局の中だけにいて仕事するのであれば、楽でいい仕事かもしれない。20~30万円の給料がもらえ、処方権はなくても処方提案権はある。門前薬局で受ける処方箋ならきちんとしたものが多い。薬剤師は治療に責任を取らずに医師が責任を取る」。

勉強会の様子

勉強会の様子

 その反面、在宅医療は薬剤師にとって大変な仕事だ。それでも、「“自分の患者さん”という意識が出てくる」。医療人としてのやりがいを味わえるという。「この薬物治療で本当にいいのか、自分の家族だったらどうするのかといつも悩む。高齢者医療には問題が多く、とんでもない処方箋も出てくる。でも、問題があるからこそなんとかしないといけないと思える。それがやりがいにつながっているかもしれない」と話す。

 今後の目標は「外部発信(アウトプット)できる薬剤師を育てたい」。その真意を尋ねると、「今は薬剤師が医師に薬物治療の話を聞く。でも本当は医師から話が聞きたいと言われるような薬剤師にならないといけない」。在宅医療に関わる薬剤師が患者や他職種に感謝され、自分と同じように楽しい人生を送ることができれば、医療の質も上がる。三谷さんは使命感を持って今も薬剤師を続けている。



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