【これから『薬』の話をしよう】β遮断薬と抑うつの関連性

2022年11月15日 (火)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 β遮断薬は、心不全に対する標準的な治療薬であり、循環器用薬の中でも処方頻度が高い薬の一つです。同薬の副作用として、喘息症状の誘発や悪化、徐脈などを挙げることができます。また、古くから知られている副作用に抑うつ症状があります。

 β遮断薬が抑うつをもたらすメカニズムについては、メラトニン放出の減少、セロトニン受容体への拮抗作用、膜安定化作用による中枢神経の抑制などの仮説が提唱されています。そのため、血液脳関門を通過しやすい脂溶性のβ遮断薬(プロプラノロールやメトプロロールなど)は、水溶性のβ遮断薬(アテノロールなど)と比べて、抑うつのリスクが高いと考えられてきました。

 特にプロプラノロールは、1960年代から抑うつとの関連性が指摘されており、90年代には同薬の副作用として広く認知されるに至ります。一方、近年に報告されているいくつかの研究では、β遮断薬と抑うつのリスクの間に、明確な関連性は示されていません。

 例えば、2022年に報告された英国の研究(PMID:35044637)では、β遮断薬の短期的な使用で抑うつリスクの増加を認めたものの、長期的な使用では関連性を認めませんでした。β遮断薬が抑うつのリスクを高めるのだとしたら、短期よりも長期の薬剤使用で関連性が強まるはずです。

 この研究で示された抑うつリスクの増加は、β遮断薬の中でもプロプラノロールの使用に関連しているものが大多数を占めました。ただ、プロプラノロールは社交不安障害や片頭痛など、精神神経疾患にも処方されることがあります。実際、この研究では心血管疾患への投与が3.2%だったのに対して、精神神経疾患への投与は18.5%でした。

 つまり、プロプラノロールが抑うつを引き起こしているというよりは、うつ病のリスクが高い人でプロプラノロールの処方が多かった可能性を指摘できるのです。

 このように、疾病の初期症状に対する薬の使用が、あたかも薬の副作用のように観察されてしまう現象を、初期症状バイアスと呼びます。このようなバイアスの影響を小さくするためには、疾病と診断される直前の薬剤使用を除外して解析するなど、研究デザイン上の配慮が必要です。



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