【これから『薬』の話をしよう】薬のリスクを考える

2023年4月15日 (土)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 薬の効果や服薬アドヒアランスの状況、病状の経過等を評価する業務を薬剤レビューと呼びます。薬剤レビューは、いわゆる不適切処方の是正やポリファーマシー解消のための方法論として注目を集めてきました。しかし、その有用性を報告した研究データは限られていました。

 そのような中、薬剤レビューの有用性を検証したランダム化比較試験(RCT)の結果が、英国医師会誌(BMJ)に2023年2月14日付で報告されました(PMID:36787910)。この研究では、介護施設に居住している882人(平均85歳)が対象となっています。被験者は、薬剤師が主導する薬剤レビューを実施する介入群と、標準ケアを実施する対照群に、施設単位でランダムに振り分けられ、転倒の発生リスクが比較されました。

 6カ月間にわたる追跡調査の結果、入所者1人あたりの転倒発生率は介入群で1.55件、対照群で1.26件と、転倒リスクに統計的有意な差を認めませんでした(リスク比0.91[95%信頼区間0.66~1.26])。

 薬剤レビューの効果が明確ではない理由を考える上で、21年10月に同じくBMJに掲載されたRCTの結果は示唆に富みます。この研究では、介護施設に居住している高齢者7195人(平均86歳)が対象となりました。被験者は、乳製品の量を増やしたメニューの提供や、栄養士や介助スタッフによる摂食支援等を実施する介入群と、標準ケアを行う対照群に、施設単位でランダムに振り分けられ、骨折の発生リスクが比較されています。

 平均で12.6カ月にわたる追跡調査の結果、骨折の発生は介入群で3.7%、対照群で5.2%と、介入群で33%低下しました(ハザード比0.67[95%信頼区間0.48~0.93])。

 むろん、被験者の異なる二つの研究結果を同列に比較することはできません。しかし、薬剤師による薬剤レビュー介入では転倒リスクが低下せず、栄養士等による摂食支援介入では骨折リスクの低減が示されているというギャップを考察することは、薬剤師業務のあり方を考える上で有用だと思います。

 薬の有害事象リスクを軽視して良いわけではありません。しかし、目に見えない「リスク」を是正したとしても、患者の生活そのものに大きな変化が起こるわけではありません。一方、食事は生活の豊かさと密接な関係にあることは経験的にも明らかでしょう。薬剤レビューは、薬そのものについてのことだけではなく、患者の生活に資するという視点で実施することが肝要なのだと思います。



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