【医学アカデミーグループ薬学ゼミナール】第110回薬剤師国家試験合格に向けて

2024年4月15日 (月)

薬学生新聞

医学アカデミーグループ
薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子

木暮喜久子氏

 2024年2月17、18日に第109回薬剤師国家試験(国試)が実施されました。薬剤師を取り巻く環境は大きく変化しており、変化に対応した即戦力を持つ薬剤師が求められています。第109回の国試には、調剤周辺業務の電子化やタスクシフティングの推進など日々アップデートされる項目に関する問題が多く出題されています。第110回国試も同様の傾向が予想されますので、受験される皆さんは臨床現場の状況についてしっかりと情報を入手して国試対策を進めてください。

 第109回国試の難易度は第108回(合格ライン:235点)と比較して難化し、合格ラインは210点で、6年制になってから行われた国試で最も低い点数となりました。基本的な問題や既出問題を理解して学修していれば得点できる問題も出題されていますが、沢山の患者情報(合併した複数疾患、多くの症状、処方薬、検査値など)の中から必要なポイントを抽出し、治療につなげる能力を求める問題が多く出題されています。そのため問題文が長く、受験時間が足りないと感じた受験生もいたことと思います。症例の事例や模擬試験などを活用して、長文からポイントを掴む訓練をしましょう。問題を解くための時間配分についても注意が必要です。

 薬学教育では、大きな変化がありました。文部科学省から「薬学教育モデル・コア・カリキュラム」(2022年度改訂版:R4)が発表され、今年度の入学生から使用されます。医学・歯学・薬学の教育内容が一部共通化され、さらに臨床薬学など臨床能力を高める科目が加わります。

 第109回国試でもこの方針に準拠した問題が多く出題されました。改訂コアカリ(R4)では「個別最適化薬物治療」の実践が求められていますが、第109回国試でも、症候や検査値などから疾患を推定するだけでなく、腎機能など患者個々の状態を把握し、適切な治療薬を選択する問題が多く出題されています。膨大な疾患について、注目すべき項目を一つずつ暗記していくのではなく、概念化した学修で応用力を身に付けましょう。第110回も臨床現場の最新情報や個別最適化薬物治療に関する出題は継続すると思われます。

第109回国試の結果

 総合格率は68.43%(合格者数9296人)で、第108回(69.00%、9602人)、第107回(68.02%、9607人)と比較すると合格率は同程度でしたが、合格者数が約300人減少しています(表1)。6年制新卒の合格率は84.36%(合格者数7100人)で、第108回(84.86%、7254人)、第107回(85.24%、7386人)と比較すると総数と同様に、合格者数が減少しています。第107回まで低下し続けていた6年制既卒の合格率は、第108回(44.05%)で上昇しましたが、第109回では42.42%(合格者数2103人)と再び低下しました。

 また、第109回では3問が「採点にあたって考慮した問題」とされ、1問は全員を正解として採点、1問は複数の選択肢を正解として採点、1問が採点対象から除外で、344点満点で採点されています。

 第109回の合格ラインは、全問題の得点が344点換算で210点となりました。また、禁忌肢選択数は「2問以下」でしたが、薬ゼミの分析によると第109回の合格者数に禁忌肢による大きな影響はなかったと思われます。

薬ゼミ自己採点システムによる分析

 薬ゼミの自己採点システムは、第109回国試受験者総数1万3585人中の1万1816人のデータです。本システムによる分析では、第109回の正答率60%以上の問題数は224題で、合格ラインの高かった第108回の266題を除く近年では、第106回225題、第107回229題と同程度でした。このことからもわかるように、基礎的な内容をしっかり学修し、得点できる問題を確実におさえることが大切です。

 出題形式別の比較(表2)では、第109回の合計平均得点率は67.6%、必須問題は78.1%、理論問題は59.9%、実践問題は66.7%となり、第108回、第107回と比較すると全ての形式で最も低い得点率となりました。特に、必須問題では「全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること」という合格基準(いわゆる足切り)が定められていますが、必須問題の平均得点率が80.0%を下回るのは過去5年間の比較でも初めてとなり、足切りに該当した学生が多い結果となりました。

 第109回の領域別正答率(表3)では、例年通り難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」は継続して正答率が60%を下回っています。また、衛生、薬理、法規は例年より正答率が低下し、例年は60%以下だった薬剤の正答率が61.4%と上昇したことで、領域間での差が小さくなりました。実践問題でも、生物、薬理、法規の正答率が低下し、物理の正答率が上昇するなど例年とは少し異なる傾向が見られました。

第110回国試に向けた概略と対策

 国試合格のためには、薬剤師を取り巻く環境について近年の情報や第108回、109回国試にも反映されている改訂コアカリ(R4)を把握することが重要です。最新情報を取り入れたテキスト、講習会、講座などを選択して学修しましょう。第110回国試対応「青本」の実務9には、「個別最適化薬物治療」の項目が前年度よりボリュームアップして掲載されています。是非参考にして概念化を学んでください。また、最近の問題を中心に既出問題を7年程度、暗記ではなく周辺知識も含めて学修しましょう。

 「必須問題」は、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験のCBT試験と同様の五肢択一の問題です。一般問題(理論・実践問題)に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源となります。80~90%の得点率を目指して勉強してください。ただし、第109回のように難化した場合も足切りにならないよう、苦手科目を作らない勉強を心がけてください。

 「理論問題」は、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須・実践問題より高く、第109回でも難易度の高い問題が出題されていました。特に苦手科目は早いうちから対策を行いましょう。また、生物・衛生・法規の3連問(HIV感染と薬害エイズに関する問題)、化学・生物の2連問(解糖系の問題)、薬剤の中での2連問(抗悪性腫瘍薬イリノテカンの問題)と理論問題でも連問が増加しました。薬理・治療による連問も例年より多く、レビー小体型認知症、全身性エリテマトーデス(SLE)、原発性アルドステロン症による二次性高血圧、HIV感染症と幅広い疾患から2連問が4題出題されました。科目間の知識をつなげる学修を意識してください。

 「実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなっています。「複合問題(基本は2連問)」は、症例や事例、処方箋を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題です。第109回の複合問題では、医師、研修医、看護師など様々な医療従事者に提案する内容を解答する問題が出題され、臨床現場での即戦力が期待されています。また、実務単問のほとんどが症例・処方問題になっていました。勉強したことを臨床現場で生かす能力が必要となりますので、実務実習での経験とつなげながら学修しましょう。

科目別の国試対策

 「物理」では、必須・理論対策として、既出問題の周辺知識を確認しながら、図や式の意味を読み取る力を養いましょう。実践対策としては、臨床検査の分析技術の原理(代表的なセンサー、ドライケミストリーなど)を理解しましょう。その他、出題が増加している放射性医薬品や画像診断と画像診断薬(PET、SPECT、X線CT、MRI)についても実践での出題が予想されます。

 「化学」では、必須対策として、反応、立体、無機、生薬について既出問題の周辺知識も理解する勉強をしましょう。医薬品や生体成分の構造を理解し、相互作用や代謝に応用することができれば実践対策になります。国試に出題されたことのある医薬品の構造から、その化学的性質を確認しましょう。

 「生物」では、実験や検査の過程などを示した模式図から情報を読み取って解答する問題が多く出題されています。既出問題や模擬試験を活用して必要なキーワードを読み取る力を養いましょう。必須では基礎的な内容を問う問題が出題されていますが、理論では難易度の高い実験考察問題が出題されています。改訂コアカリ(R4)に準拠する解剖生理学については、疾患とつなげた学修をしましょう。

 「衛生」では、必須は幅広い範囲から基本的な事項や公式レベルの計算問題が出題されています。苦手範囲を作らないように学修しましょう。理論ではグラフ・表・構造式など思考力を問う問題が多く出題されています。既出問題や模擬試験を活用して思考力を養いましょう。疾病予防、中毒時の解毒薬、学校薬剤師など、薬剤師に対応が求められている事項は実践問題での出題が予想されます。

 「薬理」では、必須対策として、出題頻度の高い薬物の作用機序や薬理作用を確認しましょう。出題基準から満遍なく出題されています。偏りのない学修を心がけましょう。理論・実践対策としては、臨床上重要な薬物を中心に勉強しましょう。患者情報を把握し、個々の患者に適切な薬物治療を提案する力が求められています。また、構造式を見て作用機序・薬理作用を考える問題も出題されるため、代表的な医薬品の構造も確認しておきましょう。

 「病態・薬物治療」では、必須・理論・実践ともに適応を問う問題や治療薬を選択する問題が出題されています。改訂コアカリ(R4)に準拠する個別最適化薬物治療として、症例・処方・検査値など多くの情報から必要な情報を読み取り、個々の患者に適した薬物治療を選択する能力が求められています。既出問題や模擬試験を活用して、長文から必要な患者情報を読み取る練習をしましょう。医薬品情報や統計の対策は、既出問題の理解から始めましょう。

 「薬剤」では、グラフ・図・構造が内容理解を必要とする問題として出題されています。既出問題を中心にグラフ・図・構造を読み取る練習をしましょう。実践では、臨床で用いられているDDS製剤(放出制御製剤、ターゲティング製剤、プロドラッグ)について、臨床現場で必要とされる知識が問われてきます。薬物相互作用、TDM、投与計画など実務実習で体験したことをつなげながら学修しましょう。

 「法規・制度・倫理」では、薬剤師としての業務を遂行するために必要な法的知識や、臨床現場での行動等の適正性を問うような内容が出題されています。今後も薬剤師が関わる国の施策(5疾病、OTC関連、地域包括ケアシステム、後発医薬品の使用促進、ポリファーマシー対策など)の出題や、改訂コアカリ(R4)に準拠するプロフェッショナリズムとして薬剤師に必要な倫理観(研究倫理、医療・生命倫理など)の出題が予想されます。薬剤師を取り巻く環境の変化に対して常に情報をアップデートしておきましょう。

 「実務」では、他科目(衛生、薬剤、治療等)で学ぶ内容が、引き続き実務領域としても出題されることが予想されます。また、「医師へ提案する内容として適切なのは」などの提案型の問題も継続的な出題が予想されます。対策として、極端な苦手科目(範囲・分野)を作らないことや、提案を行うために必要な患者情報(既往歴、処方内容、検査値、症状等)を問題文から読み取る力を身に付けることが必要です。



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