【これから『薬』の話をしよう】「非合理的な賢者」という学びの仕方

2024年4月15日 (月)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 人が、何らかの行動を開始する動機を考えてみたときに、行動によって得られる利益の有無は重要です。この場合の利益とは、金銭に限らず満足感や幸福度、あるいは知識なども含まれます。多忙な日常生活において、より多くの利益を獲得するためには、行動スタイルに一定の合理性が必要です。つまり、ムダのない能率的な行動が大事だということです。

 合理的な方法で利益を得ることができた人たちを「賢者」と呼ぶことにしましょう。むろん、非合理的な方法で損をしてしまった人は単なる「愚か者」です。しかし、非合理的な方法だけれども、十分に利益を得ることができた人たち、すなわち「非合理的な賢者」に、薬剤師の専門性を深めるヒントがあるように思います。

 薬剤師の専門性を高めるためには、薬に関する知識を継続的に学び続けることが肝要です。とりわけ、臨床で遭遇する多様な疑問に向き合うことは、専門性を醸成するきっかけとなるでしょう。これらの疑問に対して、医薬品添付文書や診療ガイドラインを参照する機会は多いと思います。効率的に収集できるうえ、情報の質も悪くないからです。その結果、疑問が解消され、一定の知識を得ることができれば、それは「賢者」なのでしょう。

 私は長年、臨床医学に関する論文の読み方や活用に関する教育的活動を行ってきました。本連載でも言及しましたが、論文情報は数年で陳腐化し、その価値が大きく低下することもあります。また、論文情報が臨床業務に役立つ頻度は必ずしも高くありません。つまり、論文を読むという学びの方法は非合理的な側面が強いのです。

 しかし、医学論文を読み続けることで得られる利益は知識だけではありません。情報に対する距離感や情報を解釈して活用するための論理など、思考の奥深さを生み出すことこそが、論文を読み続けることの大きな価値です。その意味で、医学論文を活用した継続的な学びは、「非合理的な賢者」になるための方法論だと言えます。

 誰もが合理的と考えるスキルは、誰しもが習得しようと考えるものです。皆が同じスキルを有していたら、そこに優位性は生まれません。汎用性の高いスキルは、いずれAI(人工知能)に置き換わってしまうかもしれません。むろん、合理的な学びを継続することは重要です。そこに、「非合理的な賢者」の方法論を加えることで、代替が効かない新しい専門性が芽生えるのではないか。私はそのように考えているのです。



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