【これから『薬』の話をしよう】「惜しかったアウトカム」とは

2024年9月15日 (日)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 治療や予防に対する臨床上の成果をアウトカムと呼びます。一般的には、結果や帰結のような意味を有する言葉ですが、臨床医学や公衆衛生の分野では、治療介入を実施した結果として生じる「病状の変化」を指します。

 薬の効果を検証するために実施されるランダム化比較試験(RCT)において、被験者に生じたアウトカムは薬の効果そのものと言ってよいでしょう。しかし、実際のRCTにおいて、被験者に生じた全てのアウトカムを評価することは困難です。

 例えば、スタチンの有効性を検証したRCTでは、心血管イベントや筋肉痛といったスタチンと関連性の強いアウトカムのみならず、同治療とは関連性が不明瞭な頭痛、発熱、嘔気、転倒など、多様なアウトカムが発生することでしょう。むろん、被験者に生じた全てのアウトカムを厳密に測定することはできません。そのため、RCTの実施においては評価すべきアウトカムの選別を行わねばなりません。

 RCTにおいて、介入治療の効果を判定、もしくは観察を終了するためのアウトカムをエンドポイントと呼びます。RCTでは、エンドポイントの定義を満たしたアウトカムのみが測定され、統計的に解析されるのです。その意味では、エンドポイントを定義することは、治療効果を定義することと同義です。重要なことは、介入治療の効果として評価の対象となるアウトカムは、エンドポイントとして定義されたアウトカムのみであるということです。

 「心不全の悪化」をエンドポイントに設定したRCTがあったとしましょう。心不全の悪化は生命予後に関連した臨床的にも重要なエンドポイントです。しかし、「悪化」は治療者による症状診断が基本であり、客観的な評価が困難なエンドポイントだといえます。エンドポイントの定義を満たすかどうかの判断に、治療者の恣意性が生じ得るということです。

 RCTにおいて、エンドポイントの定義を満たさないものの、あと少しで定義を満たすようなアウトカムを、筆者は「惜しかったアウトカム(Outcomes that were missed)」と呼んでいます。惜しかったアウトカムは、統計解析からは除外されてしまうものの、エンドポイントと同等か、それ以上に人の生活に影響を及ぼす可能性があります。RCTが検出しているエンドポイントは、研究者の関心に基づいて定義づけされたアウトカムにほかならず、健康事象の一側面でしかないことに留意する必要があります。



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