わたしの「1日」~業界の先輩に聞く~ さいたま赤十字病院薬剤部 山村絢子さん

2025年1月20日 (月)

薬学生新聞

救急病棟で幅広く活躍

山村絢子さん

 山村絢子さんは東京薬科大学薬学部を卒業後、さいたま市にあるさいたま赤十字病院薬剤部で勤務する入職5年目の薬剤師だ。1年目から救急病棟に配属され、救急病棟専任薬剤師として業務を行う。救急病棟には、救急外来で救急・救命処置が行われた後に一般病棟での治療が難しい重症患者が運ばれてくる。山村さんは緊急入院した患者に薬物治療の投与設計を行う一方で、投与前には患者や家族との面談や持参薬の確認、投与後は薬のモニタリングを手がけるなど幅広く活躍する。医師や看護師からも頼りにされる存在だ。

 昨年12月のある日。午前8時半の朝礼から1日の仕事がスタートした。その後午前9時半まで山村さんは院内製剤の調製を担当した。院内製剤とは、治療を行う上で市販に出ている薬だと十分な効果が得られない、または市販化されていない場合に、医師の依頼で病院薬剤部が独自に調製するものだ。販売されている医薬品を必要な濃度に調製することや、数種類の医薬品を混ぜて新たな製剤に応用するなど個々の患者の状況に応じて調製を行う。

 午前10時になると病棟業務に入り、緊急入院患者との初回面談や持参薬確認を行った。持参薬確認は救急病棟の薬剤師にとって大事な仕事だ。

 救急病棟には救急科以外にも内科や外科など全診療科から患者が送られてくる。薬情報や病歴が分からないため、患者や家族への聞き取りを行い、短時間で情報を集めなければならない。

 山村さんは看護師と協力しながら患者が普段診療を受けている医療機関から診療情報提供書を送ってもらうよう手配する一方、かかりつけの薬局があれば薬局に電話し、FAXで情報を取り寄せる。

 お薬手帳に記載されている内容と持参している薬の種類が合っているかを確認。常用薬の副作用が入院契機の要因となっていないか判断するほか、見過ごされやすい薬の服用有無の確認に加え、薬の残数などから常用薬の服薬遵守状況に問題がないかにも目を光らせる。持参薬報告を踏まえ医師が処方オーダを行い、薬が投与される流れとなる。

 また、初回面談ではフィジカルアセスメントにより患者の健康状態を観察する。山村さんは「状態が悪い患者さんが多いので、本人から聞くことができる主観的な訴えについては分からない部分が多い」と実感を語る。

 救急病棟の患者は、教科書的な薬物治療の投与設計では期待する治療成果を挙げられないケースもあり、薬剤師に経験値が求められる。「今の検査値に惑わされないことが重要で、教科書的に『今の腎機能が悪いから減量してください』ではなく、経験的に『これだけの尿量が出ていればこの投与量で大丈夫だろう』という予測を立てたりしている」

 正午から45分休憩に入り、昼食を取る。午後0時45分から始まった午後の仕事で、病棟業務が続く。午前中に緊急入院した患者の容態が午後になって変化することが多いため、午前中に投与した薬のモニタリングが中心になる。カルテ上の情報だと患者の状況が分からないため、看護師に「お通じは出ていますか」などコミュニケーションを密に取り、患者の急変時にも対応できるようにする。

 医師も看護師も治療や検査で重労働が続く。同院は「プロトコールに基づく薬物治療管理」(PBPM)を実践。例えば、患者の状態が悪くなり、経口剤を服薬できずに注射剤に投与経路を変更する場合などには医師の事前了承の上で薬剤師が処方入力の代行を行う。医師が行っている業務を薬剤師に業務移管し、タスクシフト・シェアを推進しており、この日もPBPMに基づいて処方入力を代行した。

 救急病棟の1日の平均入院患者数は10人。入退院で入れ替わるため、約20人の患者に対応することになる。この日は17時に退勤した。

 山村さんはもともと病院薬剤師志望で、同院薬剤部に入職した決め手は女性の離職率の低さだ。時短勤務制度などが整備されており、「ママさんでも活躍されている薬剤師が多く、私も生涯にわたって薬剤師として働きたかったので働きやすい職場だと思いました」と魅力を語る。

 入職後は人見知りの性格で医師に対してもなかなか話しかけられない日々を過ごした。「1年目、2年目の頃は私のような新人薬剤師が生意気な意見をしてもいいのだろうかというもどかしさがありました」と不安や葛藤を語る。

 一方で「患者さんと向き合いたいという気持ちも強かった」とチャレンジ精神で救急病棟という戦場に飛び込んだ。座右の銘は「大器晩成!」と話す山村さん。「かなり苦戦はしたのですが、こちらから積極的に疑義照会や処方提案をしました」と多職種からの信頼を勝ち取った。

配薬ファイル

配薬ファイル

 病棟で起こる薬剤関連インシデントに着目し、自らプロジェクトを立ち上げた。救急病棟から一般病棟などに転棟となった場合に患者に渡す薬を紛失したり、他の患者に渡す薬に別の患者の薬が混ざったりするなど薬剤管理で問題を抱えていた。その解決策として、患者ごとに「朝」「昼」「夜」「寝る前」の四つのポケットが付いた配薬ファイルを作製した。

 配薬ファイルは院内のQC大会で表彰され、院内では救急病棟から一般病棟に転棟した患者の標準的な薬剤管理ツールとして多く利用されている。

 今後は、救急病棟のスペシャリスト薬剤師の道を目指す。日本臨床救急医学会が認定する救急認定薬剤師の資格取得を目指し勉強中だ。

 薬学生に対しては「薬剤師である前に1人の社会人としてコミュニケーション力が重要。学生時代には様々な人と関わり、社会人としての適応力を高めてほしい」とのメッセージを送る。



HOME > 薬学生新聞 > わたしの「1日」~業界の先輩に聞く~ さいたま赤十字病院薬剤部 山村絢子さん

‐AD‐
薬学生新聞 新着記事
検索
カテゴリー別 全記事一覧
年月別 全記事一覧
新着記事
お知らせ
アカウント・RSS
RSSRSS